第320話 何か聞こえる
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「ねぇ、ひかり」
奈々機複座の後席で、ひかりの右隣に座っているマリエが言う。
「何か聞こえた」
「へ?」
首をかしげ、マリエに顔を向けるひかり。
「何が聞こえたの?」
「ひかりも何か聞こえない?」
ひかりとマリエの会話に奈々も入って来る。
「どうしたの? 何か異音でもするの? この機体まだテスト中だし、ちょっと心配なのよ」
驚きで目を丸くするひかり。
「奈々ちゃん、これってポンコツなの?」
「違うわよ!マリエが何か聞こえたって言うから、気になっただけよ!」
再びマリエに顔を向けるひかり。
マリエがひかりの目をじっと見つめてくる。
「ま、マリエちゃん、そんなに見つめられたら……恥ずかしいよ」
その言葉に奈々が突っ込む。
「後ろで何やってるのよ!今私たち絶対絶命なのよ!」
今度はマリエが首をかしげた。
「ぜつめいってなぁに? 日本語には難しい単語がいっぱいある」
「それはねマリエちゃん、今私がしてることだよ」
奈々が勢いよく首をひねり、肩越しにひかりを見る。
「それは説明!マリエが言ってるのは絶命!」
「私の名はエジソンで〜す!」
「それは発明!」
「俺の名はジョニーだぜベイビー」
「別名!」
突然無線から両津の声が響いた。
『匿名でも革命でもなんでもええけど、今そんなことやっとる場合やないで!マジで絶対絶命や!』
ひかりが突っ込む。
「私、そんなこと言ってないよ? 匿名と革命は絶命から遠すぎると思う。だから両津くんはお笑いのセンスが……」
そう言いかけたひかりに、奈々が言う。
「スト〜ップ! ひかり、両津くんの言う通りよ。今は戦闘に集中しないと!その話の続きはこの後にしましょ」
「この後はね、みんなでプロジェクトルームに戻ってデザートを食べるんだよ」
天丼である。
奈々と両津のため息がユニゾンで聞こえた。
ちなみに天丼はお笑い用語で、同じボケを二度、三度続けて言うことだがその由来は定かではない。一説によると、天丼には海老天が二本乗っているからと言われるが、一本のものも3本のものもあるだろう。イマイチ説得力に欠ける話ではある。
顔を正面に向け、前面スクリーンに目を向けた奈々が言う。
「それでマリエ、何が聞こえたの?」
マリエが首をかしげる。
「よく分からないけど、呼ばれたような気がした」
「ひかりはどうなの?」
奈々の言葉に、ひかりが目を閉じる。
「ホントだ!マリエちゃん!」
パッと目を開けてマリエを見つめるひかり。
「マリエとひかりに聞こえるってことは、この新型キドロの声じゃないの?!」
奈々の問いにうーんとうなり、並んで首をかしげるひかりとマリエ。
まるで二匹の子猫が一緒に首をかしげているような相似形だ。
チラリと右肩越しに視線を向けた奈々が言う。
「二人とも、可愛いすぎる!」
そんな場合じゃないと分かっていても、つい本音が漏れてしまった奈々である。
マリエがひかりを見て言う。
「違うと思うけど」
「うん、私もそう思う」
「じゃあ何なの?!」
南郷機のコクピットで顔を伏せていた美咲が、ゆっくりと頭を上げた。前席から振り向いて美咲を見つめている南郷と目が合う。
「山下センセ、どんな具合でっか?」
美咲がニコリと、冷静で魅力的な笑顔を見せた。
美しい目に吸い込まれそうだ。
ドキリとしてしまう南郷。
「お久しぶりです、アイです」
その顔つきはすでに美咲のものではなかった。初めてのロボット戦闘で緊張していた表情が消え、落ち着いた笑みを浮かべている。
「ほ、ホンマお久しぶりです!」
逆に南郷が緊張し、いささか声が震えてしまった。
アイは優しい視線を南郷に向けて言う。
「ここから、内部からこの機体に感染して、コントロールモジュールの位置を探ってみます」
なるほど。
対袴田素粒子防御シールドは、外からの感染を防ぐものだ。コクピットからなら機体に感染が可能なのかもしれない。
南郷が少し不安な顔を見せる。
「あの、大丈夫、でっか? 暴走したり、しまへんか?」
フフッと笑い、アイの笑顔が大きくなった。
「もちろん大丈夫です。私のコントロール下に置くのですから」
「ほんならぜひお願いします!」
南郷の言葉に、美咲、いやアイはゆっくりと目を閉じた。




