第318話 ありゃなんです?!
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
『南郷センセ!チャンネル22ですわ!』
スマホから聞こえる両津の声がそう叫んだ。
「なるほど、ロボット標準無線か。確かにスマホよりしゃべりやすいわな。了解した!」
南郷はトンとスマホをタップし両津との通話を切る。そして目の前のコンソールを操作し始めた。
「こいつをオンにして……ほんでこれを」
関西人の特徴なのか、南郷も両津同様に独り言が多い。いちいち自分の行動を言語化してしまう。だが今は、そんな南郷のクセが美咲を安心させていた。複座の後席からでは、前席で何をしているのかがよく見えない。だが南郷がしゃべってくれるおかげで、どうしようとしているのかが美咲にも何となく分かるのだ。
「で、チャンネル22と」
南郷がチャンネル選択つまみをカチカチと回し、22にセットする。
「これでいけるやろ。ハロハロ〜!こちら南郷や!みんな聞こえとるか〜?!」
すぐさま生徒たちから返事が返る。
『しっかり聞こえてるぜベイビー!』
『センセ、聞こえてます!』
『こちら泉崎、聞こえてます!』
『テンツー!』
ひかりだけがテンコードである。
首をかしげる南郷。
「テンツー? なんやそれ、ファイナルファンタジーか?」
後席から美咲が言う。
「テンコードで受信良好、です」
「マニアックなもの知っとるなぁ」
一瞬呆れ顔になった南郷だったが、すぐにキッと表情を引き締めた。
「ほんで今どうなってんねん、状況を教えてくれ」
『どうもこうも、ご覧の通りだぜベイビー』
正雄から、苦笑まじりの声が届く。
何度かの激突の後、ほぼ互角の戦いを見せた両者は今、じっと睨み合っていた。
どちらかが動こうとすると、すかさず相手がその対応に動く。これではパイロットの体力勝負だ。もちろん暴走アービンにパイロットはいない。長期戦になればキドロチームの不利が確定してしまう。
『南郷教官!』
奈々がこれまでの戦闘を、無線で南郷に説明し始めた。
マグネットブーツを得たことで、キドロ二機は暴走アービンと互角に近接戦闘を繰り広げてきた。だが、いくらアービンに一撃を加えても、大きなダメージを与えることができない。素早さではキドロが勝るため、アービンの攻撃は全てかわすか特殊警棒で受け止められる。膠着状態になっているのは、そんな理由からである。
奈々が南郷に問いかける。
『南郷教官の権限で、アービンのコントロールモジュールの位置を探ることはできませんか? 私たちではデータベースを検索しても、権限が無いとはねられてしまうんです』
南郷が苦笑して言う。
「いやいや、俺にもそんな権限あらへんがな」
そうは言ったが、南郷が何かに気付いたようにハッと目を開いた。
「分かった。試してみるから、もうちょっと頑張っててくれ」
『了解!』
無線を切ると南郷はスマホをタップする。
さきほどかけた、愛菜の番号だ。
「はよ出てくれよ」
南郷は小さくつぶやいた。
その頃ブリッジでは愛菜を始め一同が、前面スクリーンを息を呑んで見つめていた。室内に響く警告音も、一段と大きくなっている。
野口が突然、素っ頓狂な声を上げる。
「ありゃなんです?!」
異形の衛星の一部が、まるでハッチのように大きく開いている。
そしてそこから、何者かがゆっくりと姿を現わそうとしていた。
そいつもまさに異形のモノだ。ヒト型と言えなくもないが、胴体から手足が昆虫のように多数見えている。そのそれぞれが違った形をしており、奇妙な突起が多数生えていた。
「怪物?」
そううめいた野口に、愛菜が言う。
「怪物の定義にもよるけど、あれは多分何らかのメカニックじゃないかしら」
「メカですか?」
「今この空間は太陽光に照らされてる。外の温度は約130度よ。しかも、もうすぐ地球の影に入ってマイナス120度になる。そんなところで生存できる生物なんていないわ」
野口がスクリーンを見つめたまま愛菜に言う。
「外骨格生物にも見えますけど」
「そういうデザインの宇宙服か、ロボットじゃないかしら」
そんな会話に返事をせず、船長が小隊長に顔を向けた。
「あれがここを襲ってきたらどうなると思うかね?」
うーむと少し考え、小隊長が船長に向き直る。
「実際に戦ってみないと分かりませんが、アレの推定身長はアービンの二倍以上です。勝てない可能性もあるかと」
再びスクリーンに目を向ける船長。
「うむ。どうするかだな」
「あかんわ。伊南村博士、携帯に出えへん」
南郷は愛菜に電話で現状を伝え、船長にアービンの設計図の閲覧権限をもらおうと考えていた。だが電話がつながらない。
ブリッジで何かあったのか?
それとも手が離せない状況なのか?
「どうしました?」
後ろから美咲の心配そうな声が聞こえた。
コクピット内は一気圧に保たれているので、二人共ヘルメットのバイザーを上げている。
「いえ、軍事機密の壁を破ったろ思たんやけど、ブリッジと連絡が取れまへんねん」
「軍事機密ですか?」
南郷が肩をすくめる。
「ええ。アービンのコントロールモジュールを破壊せんと、あいつの動きは止まらへんのですわ。で、設計図とか見る権限を船長にもらお、思たんですけどねぇ」
なるほどと、美咲がうなづいた。
「あの……」
「なんです?」
美咲がキッと表情を引き締めて言う。
「私とアイくんでやってみてもいいでしょうか?」
「へ? そんなこと、できまんの?」
「分かりませんが、試す価値はあると思います」
南郷の声も真剣になる。
「了解や。ぜひやってみてくれ!」
「分かりました」
美咲は顔を伏せると、そっと目を閉じた。




