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第317話 接近している?!

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

 ブリッジでコンソールに向かっている運行クルーの一人が声を上げた。

「対象衛星、次第に接近しています!」

 船長が、愛菜と共に科学クルーの代表としてブリッジに来ている野口に顔を向ける。

「詳細は分かるかね?」

 いつも衛星の管理に使っている大きめのパッドを操作する野口。

 トントンといくつかタップし、対象衛星、つまりISSにデブリを射出してくる敵衛星のデータを呼び出す。

「少しずつですが、確かにこちらに近付いているようです」

 スクリーンに映されたそれに目をやる一同。

 光学カメラの限界にまでズームされたその映像は、まだ500キロ以上の距離があるため少々ボヤケている。ただ、誰の目にも明らかなのは、それが地球のどの国の衛星でも無いと言うことだろう。幾何学的直線や円形などが見られないぐにゃりとしたいびつな外形を持つそれには、太陽電池パネル、アンテナ、アルミの外装、スラスターなど通常の人工衛星にあるものがひとつも見当たらないのだ。

 小隊長が苦しげにつぶやく。

「こちらを攻撃してくるつもりでしょうか?」

「それはまだ分からん。だが、たとえそうだとしても、我々には迎撃する手段が無い」

 船長の声も重かった。

 野口が愛菜の顔を見つめ、小声で言う。

「そうなんですか?!」

「そうね。ISSの設計には、外敵からの攻撃なんて想定されてないわ」

 それはそうである。

 これまで人類は、宇宙空間で何者かに攻撃された経験などは無い。地球上の敵国からの攻撃なら可能性が無いわけではないが、ISSは15ヵ国の共同運用だ。仮想敵国のほとんどが参加しているため、ここは治外法権の平和な場所と言える。迎撃システムなどの必要性は議論すらされて来なかった。国連宇宙軍のロボット小隊が駐留しているのは、しっかりと国連が防衛していると言う建前のためである。そのため、彼らはこれまでに一度の戦闘も経験していない。普段は船外活動での船体の修理や補修など、工事用重機としての活躍が主な任務だ。つまり今回が初の実戦なのである。

「じゃあ、もしアレが攻撃してきたらどうするんですか?!」

 暗く沈んだ声で、愛菜が答える。

「船内に乗り込んで来たらアービンで対抗できるけど、ミサイルとか打ち込まれたらひとたまりもないでしょうね」

 パチンコ玉大のデブリですら簡単には防ぐ方法が無い。だからこそ、アービンが船外でシールドを構えているのだ。今後は、地球上での戦闘のように、迎撃ミサイル等の配備を検討する必要があるのかもしれない。ブリッジの全員が、同様の思いを抱いていた。だが今は、それが間に合うわけではない。ここにある装備だけで、ISSを守らねばならないのだ。クルーはもちろん、研究者や観光客を含めると数百人の命が乗っているのだから。

 野口の表情が一層不安げに歪んだ。

「アレ、いったい何者なんでしょう?」

「デブリで袴田素粒子を送り込んできたんだし、ヤツらと関係があることは確かだと思うけど……」

「けど?」

 愛菜は腕組みをし、少し考え込む。そしてそのまま、考えを巡らせながら口を開いた。

「これまでは、素粒子の感染でロボットが暴走して来たじゃない?」

「はい、そうですが……」

「でもこれは暴走じゃなくて攻撃だわ。しっかりとした作戦を遂行してる感じがする」

 野口が何かに気付いたようにパッと目を見開く。

「フェーズがひとつ進んだ?!」

「そうかもしれない。これからは地上でも、暴走じゃなくて戦略的侵略が始まるのかも」

 あまりのことに、黙り込んでしまう野口。

 そんな二人に、船長が振り向き顔を向けた。

「今の話、ここを出たらあまり広げないように。その仮説には私も賛成だが、証拠もなく騒げば人心を惑わすことになる」

 愛菜と野口が、神妙な顔を船長に向ける。

「今回の全てのデータは、国連宇宙軍と各国の対袴田素粒子防衛チームに送っている。そこで速やかに検討するよう、私からも働きかけるつもりだ」

 船長の声に、重い決意の色がうかがえた。


「アナログメインの操縦システムやん!こりゃ安心するわぁ。さすがアメリカ陸軍の主力機やで」

 アービンスペア1に乗り込んだ南郷の第一声だ。

 複座の後席に座る美咲が首をかしげる。

「何がさすがなんですか?」

 シートベルトを締めながら、南郷が右肩越しに美咲に視線を向けた。

「めっちゃ大きな衝撃を受けたりしたら、デジタル機器は動かんようになるんですわ。液晶が割れたり、タップに反応しなくなったり」

「うわぁ、それは怖いですね」

 南郷はそんな恐ろしい事態を、アフリカ大陸のスーダンと南スーダンに挟まれた国、リカヌ共和国の紛争地帯で何度も経験していた。過酷な環境の草原で、日本から持ち込んだ最新の乗用ロボットはすぐに音を上げてしまう。ましてや、テロリストや反政府組織から攻撃を受けた場合、目の前のスクリーンすら真っ暗になったこともあった。まさにお先真っ暗だ。結局彼は、現地で軍用ロボットのコピー品を手に入れ、ずっと愛用することになったのである。

「山下センセ、シートベルトしっかり締めといてな。戦闘になったら多分めっちゃ揺れますわ」

「了解です」

 巨大宇宙船の副長経験もある美咲だが、軍用ロボットへの搭乗、ましてや戦闘などはもちろん初体験である。美咲は緊張で唇が乾いているのを感じていた。

 二人の前面スクリーンでは、二機のキドロが暴走アービンと互角の戦闘を繰り広げている。それを見つめながら南郷が言う。

「どっちもマグネットブーツを装備しとるみたいやな」

 キョロキョロと操作パネルに目を走らせる南郷。

「あった!これや」

 プラスチックの蓋をはね上げ、スイッチをパチリとオンにする。

 壁際のドックに接続されていても、無重力でほんの少し浮かんでいた巨体が、ズンと床に吸着された。

「よし、ドック解除や」

 アービンを掴んでいた整備用ドックの大きな爪が、ガチりと外れる。

「ほんなら行くで!」

 南郷はそう言うと、右足から一歩を踏み出した。

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