第312話 マグネットブーツ
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
暴走アービンの動きは、まるで地上を歩いているようだった。ドシン、ドシンと足音を響かせながらゆっくりと前進してくる。もちろんこの格納庫にはすでに空気は無い。デブリの開けた穴からその全ては宇宙空間に四散していた。つまり響いて来るのは音ではなく、床を伝わる振動なのだ。
「えらい器用なロボットやな、地球にいるみたいに歩くやん!」
両津が関心しているのか、それとも怯えているのか判別できない声でそう言った。
正雄もスクリーン上のアービンを見つめながら言う。
「すごい技術だぜベイビー」
正雄のそんな感想とは違いマグネットブーツの技術は、実はそんなに新しいものではない。無重力の宇宙船内を歩くため、古くから使われてきた技術の応用だ。宇宙飛行士はマグネット入りのブーツを履き、宇宙船の床には鉄など磁力に吸着される特性を持つ金属で通路を作る。こうしておけば、地上と同じとは言えないが、無重力の船内を歩くことができる。だが、X2アービンが装備しているマグネットブーツには、ロボットのための新技術が使われていた。パイロットが、操縦レバー等で歩く動作を伝えた場合、自動的に上に挙げる足の磁力が0になる。そしてそれが地面に付く時、再び磁力が回復する。この繰り返しで歩いたり走ったりが可能となっている。そんなことができるのは、ブーツの足裏のマグネットが電磁石であるからだ。電流を流すと磁石になり、流すのをやめれば磁力が無くなる。それをAIがパイロットの操作から判断して自動で行なっている。まぁ、暴走アービンにはパイロットは乗っていないのだが。
アービンの動きに一瞬見とれていた正雄だったが、ハッとして両津に叫ぶ。
「両津くん!」
「なんや、突然?!」
正雄が右肩越しに両津へ目を向け、ニヤリと笑った。
「暴走ロボットは、どうやったら止まるんだ?!」
あっけにとられ、ぽかんと口を開けてしまう両津。
正雄が笑みを深め、マイトガイスマイルを見せた。
「あいつの装甲強力そうだから、簡単に破壊することは無理だろう。だとすれば、何か弱点を突かなければいけないんじゃないか?ベイビー」
えーとえーと、なんやったっけ?
確か、前に授業で習ろたことあると思うんやけど。
その時、チャンネル22から奈々の声が響いた。
『コントロール部よ!コントロールモジュールを破壊できれば、あいつの動きは止まるはず!』
両津がパッと顔を挙げる。
「そや!南郷センセも授業でそう言っとった!」
現代のロボットは、全てをフルスクラッチで作り上げるのではない。経済的な理由もあるが、メンテナンスの容易さでモジュール方式がとられている。もちろん、その方が量産の面でも有利だ。
正雄が正面のアービンに目を戻して言う。
「了解だ!で……」
「で?」
両津が首をかしげる。
正雄が再び視線を両津に向けた。
「あいつのコントロールモジュールって、いったいどこにあるんだい?」
一瞬の沈黙。そして両津が叫んだ。
「そんなんボクに分かるわけないやーん!」
その頃奈々機のコクピットでも、同様の疑問に三人が首をかしげていた。
奈々が、スクリーンのアービンから目を離さずに言う。
「ひかり、データベースを探って、アービンの構造図とか設計図とか見つけられない?」
奈々の言葉にひかりは、後部座席前のコンソールを操作し始めた。
「うひゃーっ!」
ひかりの叫びに、奈々が目だけを後ろに向けて言う。
「どうしたの? ひかり」
「なんか画面にいっぱい出てきたよ、全部英語だから分かんない」
トホホである。
「マリエちゃん、分かる?」
画面を見つめるマリエ。
「軍事機密。あなたには閲覧する権限がありません」
その答えに、奈々は決意したように前を見据えた。
「しょうがないわね。とりあえず一発殴りに行きましょう」
ドンと床を蹴り、アービンに向かう奈々機。
ブンっと振り回されたアービンの左腕をよけるようにカラダを縮めると、そのふところに入り込む。そして右腕を思い切り突き出して奈々パンチ。だが、踏ん張りの効く地上と違って、その威力は四散してしまう。アービンを左腕で突き、急いで離れる奈々機。そのまま捕まってしまったら身動きが取れなくなるところだった。
「無重力ってやりにくい!」
「どうして?」
ひかりの疑問に、マリエが顔をひかりに向ける。
「重力無いから踏ん張れないみたい」
「そっかー、どうすれば踏ん張れるんだろう?」
頭に手を当てて首をかしげるひかりに奈々が言う。
「ひかり、何他人事みたいに言ってるのよ!」
「他人丼」
ひかりに合わせてマリエも言う。
「親子丼」
そしてひかりも。
「うな丼」
「うな丼て、何のどんぶり?」
首をかしげるマリエにひかりが人差し指をピンと立てる。
「それはねマリエちゃん、ウナギだよ。電気ビリビリって出す」
「電気出すウナギなんて食べないわよ!」
操縦にツッコミに、奈々は忙しい。
マリエが首をかしげた。
「電気って、elektriciteit……英語だとelectricかな?」
ひかりの顔がパッと弾ける。
「マリエちゃんすごい! それってオランダ語で電気のこと? 英語だと確かエレクトリックなんちゃらとか言うんだと思う。ほら、ここにも書いてある」
ひかりの言葉に奈々が言う。
「そうよ、電気は英語でelectric!で、どこにそんなこと書いてあるの?!」
ひかりがディスプレイの一角を指差した。
それを読み上げるマリエ。
「electromagnet boots」
「なんですって?!」
「うん、ほらこれ」
奈々の驚きに、ひかりがディスプレイのタッチパネルをトンと叩いた。
奈々機の両足の電磁石に電気が流れ、そのままドーンと格納庫の床にヒーローのように着地した。




