第310話 提案があります!
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「シルバーへ向かった兵士はどうなっている?」
ブリッジで、アンシュッツ船長がジョーンズ小隊長に聞いた。
あせってもおかしくない状況だが、その声は落ち着いている。こんな時に船長があわてると、部下たちにそれが伝染してしまうからだ。天文学者でありながら、長年ドイツの宇宙軍に協力してきた彼は、それを十分に理解していた。
小隊長がいくつかのモニターを確認してから船長に顔を向ける。
「シルバーに最も早く行ける通路、第三アイルにデブリ数発が直撃。空気が漏れ出したため現在封鎖中。ウルフ8の二名は迂回のため第二アイルに向かっています」
船長が低くうめき声を漏らす。
「もう少し時間がかかると言うことか……」
暴走アービンのいる格納庫には、防御シールドの起動に成功したもう一台のアービンがある。ブリッジのプランとしては、非番のため自室で待機していたウルフ8の兵士をそれに乗せ、暴走ロボットに対峙させることだった。だが、その兵士たちの到着が遅れているのが現状だ。しかもゼロスリーとフォーからの報告では、現在格納庫では日本の子供たちが新型キドロに搭乗して暴走アービンに対応しようとしているらしい。
「その他の状況は?」
「アービンゼロワンとゼロツーはゴールドの船外で待機、ゼロスリーとゼロフォーはシルバーの船外でデブリを防いでいます」
どうやらこちらのアービンは、すぐには動けそうにない。
何かもっといい手はないものか?
その時、科学チームの代表としてブリッジに来ている愛菜のスマホが鳴った。
「はい、伊南村です」
愛菜はいくつか会話をすると、通話をつないだまま船長に呼びかけた。
「船長!提案があります!」
船長は愛菜に振り向く。
「言ってみたまえ」
愛菜はスマホを左手で耳に当てたまま、提案について説明を始めた。
「この電話、都営第6ロボット教習所の教官からのものです。彼はカッパーウィングから移動して、たった今シルバーウィングに到着したそうです。格納庫まで、あと数分だと」
ふむと、船長はうなづき先を促す。
「ここからは彼の提案なのですが、現在格納庫にある無事なアービンの使用許可が欲しいと言ってます。それに乗って、生徒たちを助けたいとのことです」
「君はその教官のことをよく知っているのかね?」
船長の問いに、愛菜は大きくうなづいた。
「はい、彼の操縦技術はベテランの軍用ロボットパイロットに引けを取りません」
船長は小隊長に顔を向ける。
「どう思う?」
小隊長はその問いに答える前に、愛菜に聞いた。
「何という人物だ?」
「南郷です、南郷教官!」
愛菜の言葉に、小隊長の顔が明るくなる。
「南郷良一ですか?」
「小隊長、ご存知なんですか?」
小隊長が、ニヤリとした笑顔を愛菜に向けた。
「昔、リカヌ共和国でちょっとね」
そしてキッと真面目な表情になり、船長に言う。
「彼なら信用できます。任せても大丈夫でしょう」
「分かった。伊南村博士、南郷さんに伝えてくれ、私の権限であなたにアービンスペア1の使用許可を出す。格納庫に到着したらすぐに連絡が欲しい。それまでに、こちらから遠隔でアービンの使用権限を書き換えておく」
愛菜がスマホにそう語り始める前に、左耳に南郷の声が届いた。
『船長さんの声、聞こえとったで。了解や、と伝えてください!』
開いている奈々機の搭乗口から、マリエがコクピットに飛び込んできた。無重力なので、まさに飛び込んできたのである。
奈々が複座の前席から後ろに叫ぶ。
「マリエちゃん急いで!ヤツがまた動き出す!」
ふわりと浮いているマリエを、あわててつかまえるひかり。ぐいっと引き寄せてシートに座らせる。大きな男性兵士でもゆったりと腰を下ろせるそれは、ひかりとマリエの二人でも十分に余裕がある。ガチッとシートベルトをセットする。
「準備OKであります!」
ひかりとマリエ、二人が並んで座ったまま右手を挙げて敬礼した。
「あのね、ひかり」
「なぁに? 奈々ちゃん」
「前から言おうと思ってたんだけど、その敬礼って警察官や自衛隊の人が帽子をかぶってる時にするものなのよ」
ひかりが首をかしげる。
「ほえ?」
「帽子をかぶってない時は、ピシッと直立して45度ぐらいの角度で礼をするの」
さすが警察一家の奈々である。
警察関係の式典などへの出席経験もあり、父や母からしっかりと敬礼を習っているのだ。
「そうかぁ、そうだったのかぁ」
そう言うとひかりはマリエに目配せをした。
「じゃあもう一回!」
そう言って正式な敬礼をしようと直立しようとしたひかりとマリエだったが、シートベルトにはばまれて立ち上がれはしなかった。
「いいからおとなしく座ってて!」
奈々はそう叫ぶと、起き上がろうとしている暴走ロボットへ向けて進むため、格納庫の床を強く蹴った。




