表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/505

第31話 ぱ行で遊ぼ

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

 マリエはとても賢い子供だった。4歳になった頃には、オランダ語と日本語の読み書きができるようになっていた。日本語では一部の漢字まで読み書きができる。齢4歳にしてすでにバイリンガルなのだ。

 その上性格も明るくて、いつも楽しそうに笑っている。大人にとっては特におもしろいことが無くても、マリエはどんな中にも楽しさを見つけて笑顔になるのだ。しかも素直で優しい。

 彼女が大好きなもの。それは絵本だった。文字の勉強になるのはもちろん、マリエにとって絵本はイマジネーションを養う情操教育にもなっていた。一度読んだ絵本を、今度は頭からページをめくり直して、全く違うお話を語り始める。オリジナルのお話を作っていくのである。マリエが生み出したこの遊びのおかげもあって、彼女はどんどん賢くなっていった。

 最近ハマっているのは言葉遊びだ。同じ音なのに違う意味の言葉を見つける遊び。選挙と占拠、水筒と出納、虫と無視、なんて具合。日本で言うダジャレだ。

 もうひとつ、マリエが大好きな言葉遊びがある。それは「ぱ行遊び」と言う、日本では幼稚園などで教育に取り入れられている言葉遊びである。

 ルールは簡単だ。「ん」以外の全ての文字を「ぱ行」に変換して話す。それを聞いて何の名前を言っているのかを当てる。

「いちご」は「ぴぴぽ」、「ホットケーキ」なら「ぽっぽぺーぴ」なんて具合だ。

そんな遊びなのだが、言葉をぱ行に変換することと、イントネーションだけで物の名前を当てることは、大人にとってすら結構難易度が高い。

「お父さん、ぱ行で遊ぼ!」

 その日マリエの父は休日で、珍しく宇宙船内の自室でマリエと遊んでいた。

 ヤン・フランデレン、オランダ宇宙研究所の宇宙物理学者である。ライトグレーの瞳で、髪は薄紫色。細めでサラサラとしたその髪がとても美しい。

 宇宙物理学とは、星や銀河などで起こる様々な天文現象の性質、また宇宙全体の性質を、天文観測で得た知見を元に探求する学問である。物理学の考え方や手法を用いるので宇宙物理学と呼ばれている。

 ヤンが研究している現在のテーマは、太陽系の惑星と衛星の相互作用。そこで今回の探査任務に同行することになった。

「いいぞ、今日こそは絶対に当ててみせるよ」

 この遊びを教えてくれたのは母の風花だ。だが、日本語がそこまで話せない父が、マリエにとってちょうどいいライバルとなっていた。

「じゃあねえ……ぷぷーぺん!」

 マリエがとびきりの笑顔でそう言い放った。

「おっと、これは簡単簡単、宇宙船だね」

 マリエの父も笑顔になる。

「次はお父さんの番だ。う〜んと、何にするか……」

 ちょっと考えてからヤンは出題した。

「ぽぴぱ!」

「う〜ん、もしかすると……ゴリラ!」

「おお、正解だ!」

 マリエのガッツポーズ。

「それじゃあ次はねぇ……ぷぽぱぴぽんぴん!」

 ヤンの顔にハテナが浮かぶ。

「ちょっと長いね。う〜ん、なんだろうそれ……え〜と」

「チクタクチクタク……時間切れで〜す!」

 マリエが勝ち誇ったように宣言する。

「正解は……クロマニヨン人、でした!」

 ヤンがちょっと驚いた、と言う表情を浮かべる。

「ああ、Cro-Magnon-mensenかぁ、よくそんな言葉知ってるね〜。すごいよ、マリエは賢いな」

「えへへ」

 父にほめられてマリエはご満悦であった。


 それから数日のことだ。マリエが一人で絵本を開き、いつものようにオリジナルストーリーを紡いでいる時、母の風花が帰宅した。

「お母さん!おかえりなさい!」

「ただいま」

 マリエは父も母も大好きだ。母の帰宅にパッと笑顔になる。

「ねえお母さん、今日もぱ行で遊ぼ!私から行くね、え〜と……ぱぷぽっぷぴ」

 そんなとびきり明るいマリエの声を聞いても、風花の黒い瞳はなぜか暗く沈んでいる。

「お母さん?」

 マリエが心配げに風花の顔を見上げた。

「ごめんなさいマリエ、ちょっとお話があるの」

 風花の表情を見て、マリエの心に大きな不安が広がっていく。風花もマリエと似て、とびきりに明るい女性だ。彼女がマリエに、こんな顔を見せたのは初めてのことなのだ。

「あのね……お父さんが……入院したの」

 マリエが息を呑んだ。

 お父さんが入院?……入院てことは……病気?怪我?

 母の言葉には、4歳の彼女には受け止めきれない重さがあった。

「病気になってしまってね、大事をとって入院してもらったのよ」

 大事をとって……その言葉、この前勉強した。確か意味は……念の為。

 少しほっとするマリエ。

「ああびっくりしたあ、大事をとっててことは、念の為ってことでしょ?」

 マリエの顔にほんの少しだが笑顔が戻る。

「お母さん、宇宙で一番のお医者さんなんだもん、すぐに治してくれるよね?」

 風花はハッとする。

 自分はなんて顔をこの子に見せているのだ。

 ニコッと笑顔を作る。

「もちろんよ、お母さんに任せなさい!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ