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第306話 非常用シェルター

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

 カッパーウィングの非常用シェルター前は人でごった返していた。

 中へと入っていく入口付近はしっかりと整列し順に動いているのだが、その列の最後尾あたりはどんどん増えていく人混みで手がつけられない状況になっている。なにしろISSは大人気の観光地だ。このカッパーウィングだけでも多くの観光客で溢れている。それが皆ここに押しかけているのだ。どうなるのかは推して知るべしだろう。

 南郷と美咲は、シェルターへ向かう列のすぐ横にある公園のベンチに座り、その様子を遠目から眺めていた。

「緊急事態言うても何が起こったのかよう分からへんし、あせってもしゃーないですわ」

 そんな南郷の言葉に、美咲も同意したのである。

 生徒たちは、シルバーウィングのプロジェクトルームへ社会科見学に出かけている。陸奥と久慈はその引率だ。一方の南郷と美咲は、修学旅行最終日に行なう予定の抜き打ちテストの問題づくりに忙しい。そのため生徒たちを陸奥と久慈に任せ、ホテルの一室にこもっていたのだ。なにしろ生徒たちにバレてしまっては抜き打ちではなくなってしまうのだから。

 そして勃発した緊急事態だ。しかもISSからはどんなことが起こっているのかの説明が全く無い。

「すいてきたら、シェルターに行きましょか」

「そうですね」

 二人がそんなやり取りをしていた時、ベンチの腰掛けに液晶面を伏せて置いていた南郷のスマホが鳴った。

 着メロは「Somebody Stole My Gal」。1918年にLeo Woodによって作曲されたジャズの名曲だ。日本でも「君いずこ」というタイトルでディック・ミネがカヴァーしたことがあるので、知っていることもあるだろう。だが一番有名なのは、トロンボーン奏者Pee Wee Huntが演奏したディキシーランドジャズ版だ。あの吉本新喜劇でメインテーマとしてずっと使われ続けている。

「はい、南郷です。あ、陸奥さんか」

 南郷は通話に出ると、美紀に目配せをした。

 陸奥さんからですね。そう美咲が小さくうなづく。

「ええ、こっちはシェルターに向かってるんですけど、めちゃめちゃ混んでるんですわ。すぐには入れんと思います」

 南郷が、陸奥には見えないのに苦笑しながらそう言った。

「ふん……ふん……え? ほんまですか?!」

 南郷が目を丸くする。陸奥から何か驚くことを告げられたのだろう。

 美咲の胸に不安がよぎる。

「了解や。もっと詳しく分かったら、また知らせてください。待ってまっせ」

 トンと、南郷がスマホをタップして通話を切った。

 美咲が不安げな目を南郷に向ける。

「陸奥さん、なんて?」

 南郷は注意深く周りを見回しながら、小声で美咲に言った。

「ここでは大きな声じゃ言われへんけど……」

 美咲がそっと南郷に近づき顔を寄せる。

 こんな時だと言うのに、南郷の頬が少し赤くなった。

「シルバーウィングの格納庫に袴田素粒子が侵入したらしいんや」

「え?!」

「しっ!」

 思わず大きな声を漏らした美咲に、南郷が人差し指を立てる。

「それが国連宇宙軍の軍用ロボットに感染してもうて、あと何分かで暴走を始めるって話や」

 思わず絶句する美咲。

 こんな場所でロボットが暴走したら、どんな被害が出てしまうのだろう?

 想像するに恐ろしい。

「驚くのはここからや」

 息を呑み、南郷を見つめる美咲。

「ちょうど新型キドロがテストに来てるらしい。それに陸奥さんが乗って暴走ロボットに対処する、そんな計画だったらしいんやが……」

 南郷の顔が曇る。

「陸奥さん、ブリッジに向かっていて対応できないらしい」

「では、誰が?」

 南郷は美咲の目をじっと見つめて言った。

「生徒たちや」

 美咲の中で、驚きと心配、そして恐怖が入り交じる感情が溢れてくる。

「私たちも行かないと」

「え?」

 今度は南郷が目を丸くした。

 そんな南郷に、美咲が毅然とした目で言う。

「アイくんがいれば、彼らの助けになるはずです」

 そう言えばアイのこと、袴田素粒子の本質については、まだ生徒たちには話していない。確かに、アイは生徒たちにとって頼もしい味方になるかもしれない。

「分かった。山下センセ、シルバーへ向かいましょ!」

 南郷のひと言で、二人は群衆とは逆方向に走り出した。

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