第303話 ブリッジへ急げ!
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「ダメです、ブリッジと連絡が取れません」
壁のコンソールに向かっていたダンが困ったように肩をすくめた。
その言葉に久慈が重ねて言う。
「船内端末もダメ、通じない」
左腕の端末を見つめる久慈に、陸奥が視線を向けた。
「余程の事態が起こっているに違いない。何かの作戦行動中は、その部隊専用の緊急通信しか受け付けない場合がある」
そんなに切羽詰まった状況なのだろうか?
久慈の目が不安そうに左右に動く。
そんな久慈にダンが言った。
「俺、ブリッジに様子を見に行ってきます」
久慈が顔を上げ、ダンを見る。
「ブリッジってゴールドウィングにあるんですよね?」
「ええ。でも、シェルターへ向かうために大混雑してるカッパーへの通路と違って、多分ゴールドへの道はガラガラだと思うので、すぐに着けると思います」
ダンの話に、陸奥がサッと生徒たちに顔を向けた。
「みんな聞いてくれ!」
おしゃべりをやめ、陸奥に注目する生徒たち。
ひかりだけはまだ何かをモグモグしつつ、視線だけを陸奥に向けている。
マリエもそれに習い、まだモグモグしていた。
「このままでは状況が把握できない。これから俺と久慈教官は、ジョンソン博士と一緒にブリッジに行ってくる。みんなはここでおとなしく待っていてくれ。おとなしく、だぞ」
両津がニヤリと笑う。
「もちろんや!」
そんな両津に奈々がツッコミを入れた。
「あんた、なんか悪いこと考えてるでしょ!」
「そんなこと、ありまへんがな〜」
まぁ実際この時、両津は特に悪だくみをしているわけではなかった。ただ、教官二人がいなくなる開放感から出たニヤリである。
そんなやりとりを無視して、久慈がレオに向き直る。
「ロベール博士、生徒たちをよろしくお願いします」
「了解です、お任せください」
レオが久慈にうなづいた。
「亮平、本気か?」
シルバーウィング内の通路を歩きながら、健太が亮平にそう聞いた。
「だって、それが一番時間がかからないだろ?」
健太、亮平、久美子の整備士トリオは与圧服のまま、有重力エリアを進んでいた。三人ともヘルメットは脱ぎ、小脇に抱えている。
歩を進めつつ、久美子が亮平に言う。
「陸奥教官、ホントにシルバーに来てるの? 修学旅行はカッパーに滞在でしょ?」
「大丈夫。整備が終わったら陸奥教官に見てもらおうと思って、指揮所に確認取ってあったんだ」
健太が驚きの声を上げた。
「いつの間に? 亮平にしては行動力がすごいな!」
「だって、マーク2は僕らの自信作だから、早く見て欲しいでしょ?」
ちょっとはにかむように亮平が笑顔になる。
それには健太と久美子も同意である。
「それで、陸奥教官に何をお願いするの?」
久美子の問いに、亮平と健太が顔を見合わせた。
不思議そうに首をかしげる久美子。
「あの人、伝説の英雄だよ?」
亮平の言葉に、久美子がハッとした。
陸奥の二つ名は、すでに教習所中に広がっている。もちろん整備部でもその噂でもちきりだった。
陸奥教官は昔、砂漠でテロリストを退治していた。しかもロボットで。そして現地では伝説の英雄と呼ばれていた、と。
亮平が足を早めながら後ろの二人に言う。
「今一番近くにいるパイロットは、多分陸奥教官だけだと思う」
確かにと、久美子がうなずいた。
「でも、英雄さんに何を頼むの?」
久美子の言葉に、先頭を歩いていた亮平が急に立ち止まり、少し呆れたような顔で久美子を見つめる。それを見かねたのか、健太が久美子に言った。
「すぐ近くの格納庫でもうすぐアービンが暴走する。同じ格納庫には、僕らが整備中のマーク2がある。そして、この先には伝説の英雄がいる。これで分かった?」
久美子があっと声を上げた。
「教習所のヒトガタみたいに、陸奥教官にアービンを制圧してもらう!」
「正解!」
そう言うと亮平は再び歩き始めた。さっきよりも早足で。
「これで自由の身や〜!」
両津が大げさに身振りしながらそう言った。
奈々が呆れたように突っ込む。
「あんた、いつも自由じゃない!」
「そんなことあらへん!」
ひかりとマリエがモグモグを中止し、パッと顔を上げだ。
「えーと、三時間目の授業中に、隠れてお菓子食べてた」
「四時間目の授業中、居眠りしてた」
「体育の時、女子更衣室覗いてた」
「南郷教官の悪口言ってた」
「遅刻した」
「教科書を寮の部屋に持って帰らずに、教室の机に置きっぱなしにしてる」
「学食の定食で、おかわり自由のご飯を取りすぎて残してた」
「保健で、女子だけの教室を覗いてた」
ドヤ顔の二人。
そしてこの場の全員から両津にそそがれる白い目。
シャキーン!と、両津は直立不動で、気をつけの姿勢になる。
「すんまへーんっ!」
カクッとカラダを折り、90度の角度で頭を下げる。
その時、プロジェクトルームの扉が開き、三人の人影が入室して来た。
ロボット整備士の三人だ。
彼らに振り向く生徒たち。
口火を切ったのは健太だ。
「陸奥教官はどちらに?!」
「その前に、君たちは誰ですか?」
しまった、と言う顔をした亮平がすぐにレオに答える。
「ボクら、ロボット整備士で、新型キドロの運用テストのためにISSに来ています」
なるほどと納得したのか、レオはひとつうなづいて亮平に聞いた。
「それで、陸奥さんにどんなご用が?」
「実は、マーク2を操縦できるパイロットが至急必要なんです」
亮平のその言葉に、レオが残念そうに首を横に振った。
「陸奥さんは今、緊急事態の概要を知るために、ゴールドのブリッジへ向かっています」
ツイてない。行き違いである。
そんな思いに顔が曇る三人の整備士。
だが、亮平がパッと顔を上げ、生徒たちに叫んだ。
「この中に、ロボットの操縦ができる人はいませんか?!」
少しの沈黙の後、生徒たち全員が手を挙げた。




