第302話 予期せぬ事態
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「三発目のデブリ、シルバーウィングのエアロックハンガーに衝突しました!」
ブリッジに運行クルーの声が響いた。
船長がジョーンズ小隊長に聞く。
「アービンの位置は?」
小隊長が前面スクリーンのワイプを指差した。
「恐らくあと数分はかかるでしょう」
ゴールドウィングに衝突してくる六発のデブリを、アービンゼロワンとゼロツーが防いだその時だった。次のデブリが、シルバーウィングへと狙いを変えたのだ。だが、二機をシルバーウィングに向かわせるわけにはいかない。なぜなら、再びゴールドに狙いが変わることが十分にあり得るからだ。そこで船長の判断は、船内で待機しているゼロスリーとゼロフォーをシルバーウィングに向かわせる、ということだった。だが二機はゴールドからシルバーへの移動に少々手間取っていた。なにしろ船内通路はあまり広くない。どうしても時間がかかってしまう。そこで二機は、ゴールドのエアロックから船外に出て宇宙空間を移動し、シルバーのエアロック前を目指している。だがその間にも、デブリの激突は続いていた。
「間に合うと思うか?」
船長の問いに、小隊長が難しい顔をする。
「分かりません。今は祈るしかないでしょう」
その言葉に、ブリッジに重い沈黙が満ちた。そんな中、計器類の音だけが断続的に続いている。
「ですが」
その沈黙を破り、小隊長が船長に目を向けた。
「例えデブリが貫通したとしても、場所がエアロックです。出入り口のハッチが閉じられていれば、大きな問題は無いでしょう」
それを聞いて、愛菜と野口がほっと胸をなでおろす。
だがその時、大きなアラーム音がブリッジに響き渡った。
運行クルーの一人が顔を上げ叫ぶ。
「デブリ、エアロックドアを貫通!船内に侵入しました!」
と同時に、別種のアラーム音が鳴り始める。
この音には聞き覚えがある。
愛菜と野口は自分の耳を疑った。
その時、別の運行クルーが大声を上げる。
「袴田素粒子反応です!」
「なんだと?!」
船長の顔が驚きにけわしくなった。
ブリッジにいる全員は、たった今理解した。
デブリの衝突は船体の貫通を狙っていたのではない。袴田素粒子をISS内に送り込むことこそが目的だったのだ。
ISSは最新の対袴田素粒子防御シールドを装備している。そのため素粒子は外部からは侵入できない。だが、今回のデブリのように物理的な物体をシールドで防ぐことはできないのだ。まんまとしてやられたことになる。
「あそこには何がある?!」
小隊長の叫びに、運行クルーの一人がコンソールを操作する。
「予備のアービン二機と整備用ロボット、それにテスト中のキドロマーク2が二機!」
船長が大声で指示を出す。
「アービンを遠隔で起動!シールドを上げろ!」
「了解!」
それとほぼ同時に、愛菜が左腕の船内端末を操作していた。
リンクのマークが光ると同時に叫ぶ。
「蒲田くん!マーク2のシールドを起動して!」
少し間があって、端末に健太の声が届いた。
『大丈夫です。整備やテスト中は、万が一のことを考えていつもシールドを上げています。もちろん今回も!』
ホッとした空気がブリッジに流れる。
それを切り裂くように、運行クルーの声が響いた。
「間に合いません!アービン一機、起動中に素粒子に感染した模様!」
「もう一機は?!」
船長の問いに、そのクルーは急いでコンソールの操作盤を激しくタップする。
「大丈夫です!スペア1は感染前にシールド起動に成功しました!」
だが安心はできない。アービンは軍用ロボットだ。その破壊力はすさまじい。もしISS内で暴れられたら、どんな被害が出るか計り知れない。
船長が小隊長に向き直る。
「どんな手がある?」
うめきつつ、腕組みをする小隊長。
「現在外から、あのエアロックに向かっているゼロスリーとゼロフォーに対応してもらうのが一番でしょう。ですが……」
「どうした?」
「デブリが貫通したエアロックドアが歪んでいて、簡単には開かない可能性があります。その場合、彼らはアービンの腕力でドアを破壊する必要があるでしょう」
ふむと船長はうなづき、次の言葉をうながす。
「プランBは?」
「非番の兵士をあのエアロックへ向かわせて、感染を免れたスペア1で対抗する、という所でしょうか」
「分かった。では、その両プランを同時に進行しよう。リチャード、頼んだぞ」
「了解!」
小隊長がピシッと、米陸軍式で敬礼した。
三人のロボット整備士たちはエアロックハンガーへの扉を閉じ、その窓から中の様子を固唾を呑んで見守っていた。その中では、袴田素粒子に感染した米陸軍の軍用ロボットX2アービンが、不気味にガクガクと震えている。もちろん三人は知っていた。あの動きは、感染した袴田素粒子がロボットのコントロールモジュールを支配していく時に見られるものだ。
心配性の亮平が不安げに言う。
「どう思う? さっきの作戦」
三人は愛菜から無線で、今回行なわれるプランAとBの内容を聞いていた。
健太が少し首をかしげる。
「どっちも時間がかかるよなぁ」
そう言ってハンガー内のアービンに目を戻す。それはまだ、ガクガクと震え続けていた。
「どうして?」
久美子の問いに、健太が肩をすくめて答える。
「エアロックドア見ただろ? あれだけ歪んだらオートじゃ開けられない。だと言って、外から破壊しようとしても丈夫過ぎて簡単にはいかない。だってエアロックの扉だからね」
確かに、とうなづく久美子。
アービンに目を向けたまま、亮平が小声で言う。
「それに、非番の兵隊さんはゴールドからここへ来るんだろ? 結構時間かかるんじゃない?」
健太も久美子も黙ってしまう。
その沈黙を破ったのは久美子だ。
不気味にガクガクと震えているアービンを見つめながら言う。
「私たちにできることって何か無いのかな?」
再び沈黙に包まれる三人。
今度は亮平がその沈黙を破った。
「ボクに考えがあるんだけど……」
そう言った亮平を、健太と久美子が息を呑んで見つめた。




