第301話 あだ名を付けよう!
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
『ISSに乗船している全ての皆さんにお知らせします。至急、避難用のシェルターに集合してください。乗員は、各部所の指示に従ってください。これは訓練ではありません。至急行動をお願いします』
シルバーウィングのエアロック付き格納庫「Airlock hangar」にも、アラーム音と共に館内放送の声が響いていた。
ぎょっとして作業の手を止める三人のロボット整備士たち。
蒲田健太、勝浦亮平、中尾久美子の三人だ。無重力でのキドロマーク2のテストのため、薄いグレーの与圧服にホワイトのヘルメット姿で作業していたのである。空気はあるため、ヘルメットのバイザーは上げている。
ここには三人の他に人は誰もいなかった。
あるのは二機のマーク2と、壁際にずらりと並んでいる整備用ロボットたち。そして予備として保管されている国連宇宙軍の戦闘用ロボットX2アービン二機だ。
亮平が不安な顔を上げて言う。
「各部所の指示に従えって言われでも、ここには他に誰もいないしなぁ」
その言葉を受けて、健太が左腕に取り付けられた船内端末をタップする。
「とりあえずブリッジに連絡してみる」
しばらくして端末から、運行クルーらしき声が聞こえた。
「こちらシルバーウィングのエアロックハンガーです。あの、緊急事態って、何があったんですか?」
少し間があり、ブリッジからの声が言う。
『現在状況の把握に務めています。シルバーウィングには今の所問題は無いので、しばらくそこで待機していてください』
「了解しました」
通話を切った健太が顔を上げた。
「ここ以外ってことは、カッパーかゴールドで何かあったのかもな」
久美子が首をかしげる。
「何かって言っても、乗員全員に知らせる緊急事態って、ただ事じゃないんじゃない?」
「そうだよなぁ」
亮平の顔が、また不安に曇った。
そんな様子を見て、健太が肩をすくめつつ言う。
「まぁ連絡があるまで何も分からないんだし、適当に雑談でもしながら待つしかないよ」
呆れ顔の久美子。
「そんなにのんびりしてていいのかなぁ? 緊急事態なんでしょ?」
「そうなんだけど、俺らにできることはなそさそうだし」
再び久美子が首をかしげる。
「どうして?」
苦笑しながら健太が久美子に視線を向けた。
「もしも俺たちに何かできるのなら、さっきの無線で要請されたと思う」
「なるほど」
久美子も納得したようだ。
健太がぐっと、思いっきり伸びをした。
「ずっと根詰めてテストしてたからなぁ、まぁいい休憩ってことで」
そう言って笑う健太に、亮平が不安げな顔を向ける。
「大丈夫かなぁ」
「亮平はいつも心配性なんだから。私たちにできることが無いなら、のんびりしましょ」
久美子もホッとしたような笑みを漏らした。
健太が、少し暗い表情の亮平に向き直り明るく言う。
「こいつらマーク2なんて呼び方じゃ味気ないと思わないか?」
興味を持ったのか、亮平が顔を上げて健太を見た。
「どういうこと?」
ニヤリと笑う健太。
「俺たちであだ名、付けないか?」
「また小学生みたいなこと言って」
久美子が肩をすくめた。
亮平の顔がパッと明るくなる。
「それいいね!じゃあボクから……シン・キドロなんてどう?」
「いいねぇ。じゃあ俺は……グレートキドロとか?」
「キドロG!」
「ゴッドキドロ!」
「Zキドロ!」
「キドロパワード!」
久美子が首を横に振った。
「なんだかネーミングセンス、古くない?」
健太と亮平が同時に久美子に顔を向けて言う。
「どこが?」
「全部よ!」
う〜んとうなる健太と亮平。
「じゃあ、」
と、亮平が久美子を見る。
「キドロ・エアリアルとか?」
「バーン・キドロ・バーンとか?」
今度は久美子がう〜んとうなった。
「なんか全部パクリっぽくない?」
思わず絶句する男二名。
健太が苦笑しながら言う。
「いや、パロディと言うか……」
亮平も同様に苦笑している。
「リスペクトと言うか……」
「もうマーク2でいいんじゃない?」
「はい……」
うなだれる二人であった。
その時、エアロックハンガーが奇妙な振動に襲われた。
ハッと顔を上げ、周りを見回す三人。
いぶかしげな表情を、天井あたりに向ける久美子。
「今の何?」
健太が首をひねる。
「分からない」
だが亮平は、何かを感じたのかエアロック側の壁を見つめている。
「あそこじゃない?」
え? と、エアロックの二重扉に目を向ける健太と久美子。
「どういうこと?」
「あの扉に、外から何かが衝突したような……?」
亮平の言葉に、健太がぎょっとする。
「スペースデブリか?」
「それは分からないけど」
その瞬間、再び振動が格納庫を包んだ。
これはただごとではなさそうだ。
健太と亮平が、壁を蹴ってエアロックドアへと向かった。
それを追う久美子。
ドアへ到着すると、壁の手すりに掴まりながら強化ガラスの向こうに目を向けた。
驚きの声を上げる亮平。
「やっぱり何か飛んできてるよ!」
デブリだろうか?
それがエアロックの外部ドアに到達すると、格納庫内に振動が伝わってくる。
健太が亮平に顔を向けた。
「いや、デブリが何度も同じ場所に当たるなんてあるか?」
「あり得ないわ」
久美子の言葉に顔を青ざめさせながら、三人は再び外へと目を向けた。
飛来するデブリ、らしきもの。
「これ、ブリッジに連絡した方が!」
亮平のその言葉を待たず、健太が左腕の船内端末をタップしようとした時、そこから運行クルーの緊迫した声が響いた。
『あなたたちのいるエアロックが、外部から攻撃を受けています!至急その格納庫から出て、ハッチを閉じてください!』
慌てふためく三人。
いったい何が起こっているのか?!
外部からの攻撃って?!
だが、考えている時間は無さそうだ。急いでここを離れなければ。
健太が叫ぶ。
「急ぐぞ!」
「マーク2は?!」
慌てながらも亮平が聞く。
「とりあえず放っておくしかないでしょ!」
久美子の叫びに、三人はエアロックドアを蹴り、出口へと向かった。




