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第3話 暴走ロボット

「超機動伝説ダイナギガ」原作者のハビタこと土井武志です。ダイナギガが今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。

「ご安心ください。そろそろ……」

 陸奥がそう言いかけた時、暴走ロボットの前に最新型の教習用ロボットが現れた。野暮ったくて四角い箱を積み重ねたようなデザインの暴走ロボットに比べ、曲線を随所に取り入れた最新流行のモデルだ。プレス技術の進歩は、ロボットのデザインを単なる実用一点張りから芸術にまで高めてしまった。ここ数年のことである。

「遠野さん、何やってんのよ!おとなしくしなさい!」

「奈々ちゃん、たしけて〜!」

 二人のロボットは対照的な姿をしていた。

 ひかりの教習用ロボットは商品名を「火星大王」と言い、十五年以上も昔に自家用ロボットのヒット作となったタイプである。


♪ボクのおうちに王者がやってきた〜!

 その名は火星大王、正義のロボット〜!

 マーズキングっ! おぅ、おぅ、おぅ!


 なんてCMソングが、子供達の間で大人気だった。

 当時は全世界が火星基地の完成に湧いていた。大人も子供も、火星からのテレビ中継に胸躍らせた。一大宇宙ブームが巻き起こったのだ。「火星」や「宇宙」と言った言葉がその年の流行語大賞にノミネートされ、みんなが宇宙時代の到来に沸き立っていた。そんな時代の最新鋭マシンこそ火星大王に他ならない。世界的な大ヒット商品となったため、現在でもアメリカの現代文化博物館に常設展示されている。だが、今ではその栄光を知る者はほとんどいないのが現実だ。時の流れは残酷なのである。

「暴れているのは……正義のロボット、マーズキングか。おぅおぅ……」

「所長?」

「いや、何でもない」

 奈々のロボットはひかりのロボットの後ろに回り込んだ。どうやらはがいじめにして、動きを止めようという考えらしい。

「じっとしてるのよ……うわぁっ!」

 奈々のロボットが両腕を広げてひかりに近づいたその時、いきなりひかりのロボットが奈々機に頭突きをくらわせたのだ。

「奈々ちゃん、ごめ〜ん!」

「ごめん……て、じっとしてって言ってるでしょ!」

「わたしもじっとしたいんだけど、勝手に動いちゃうの!」

「こうなったら、奈々パ〜ンチ!」

「きゃ〜っ!」

 電光石火のごとく繰り出された奈々機のパンチを、ひかり機は見事に払いのけた。だが、奈々の必殺パンチが次々とひかりを襲う!その全てを、ひかりはかろうじてよけ続ける!

「どうしてよけちゃうのよ!」

「だって痛そうなんだもん!」

 そんな光景を雄物川は、驚きの表情で見守っていた。お気に入りでいつも大切に吸っていたはずの葉巻は、すでに右手の指の間をすり抜け床に落ちている。がれきに埋まってほとんど見えなくなっている高級じゅうたんの上に、しっかりとこげ目をつくって。

「陸奥君、見たまえ……あのマーズキング、いや火星大王で最新型のマシンと互角に戦っているぞ」

「ええ」

「パイロットは誰だ?」

 陸奥は優しげな微笑みを浮かべ、ひかり機に目をやった。

「遠野ひかり、私の生徒です」

「君の?」

「はい」

 優しげな笑顔は、いつしか鋭い表情に変わっていた。

「人類の希望のひとりです」

 奈々機とひかり機の攻防は続いていた。奈々機が繰り出すケリやパンチを、あぶなっかしいが、ひかりはことごとくよけ続けている。

「普段の教習じゃあんなにポンコツなのに、どうしてこんな時だけ頑張るのよ!」

「そんなこと言ったって〜!」

 そんな二人を、少し離れた隣のコースから高見の見物としゃれ込んでいる二体のロボットがいた。

 一体は燃費を重視し、その経済性と設計段階から溢れているエコロジー精神が認められ、ロボットオブザイヤーを受賞した堅実なタイプ。デザインにもブームになるようなハデさは無いが、頑丈そうで長持ちしそうな安定感を持っている。質実剛健タイプと言った所。

 もう一体はそれとは全く違って一見してハデなデザインをしている。いかにも女子高生が好みそうな可愛いカタチ。全体的に丸っこくて、塗装もピンクや赤系統が中心となっている。

「あらあら、またやってますわね」

 宇奈月奈央。ひかりや奈々と同じ十七才だ。肩までの髪はサラサラで、とてもサッパリした顔つき。彼女のロボットと同様に、人生において経済性を最も重視するタイプだ。つまり、お金を好む。

「泉崎センパイって、やっぱりカッコイイです〜!」

 伊南村愛理はこの教習所の中では一番年下だ。まだ高校に上がったばかりの十五才。奈々と同じ中学の出身だ。A級ライセンス取得のために都営第6ロボット教習所へやって来た奈々を追って、中途編入で突然現われた。本人曰く、

「泉崎センパイをゲットする愛の戦士!」

 奈々の愛を手に入れるためなら、どんなことでもしでかしてしまう……とんでもない戦士だ。

 同性に心惹かれるのは、思春期によく見られる一時的な感情だ、なんて奈々は言っていられない。なにしろ愛理のアタックはあまりに激しいのだ。毎日のようにラブレターを届けるなんて序の口……先日は、深夜に奈々とひかりの部屋に現われ、奈々のベッドにこっそりもぐり込んで来た。翌朝、大騒ぎになったのは言うまでもない。

 鍵のかかった部屋にどうやって入ったのかは今でも謎のままだ。

「センパイ頑張れ〜!そんなスットコロボットなんかやっつけちゃえ〜!」

「愛理ちゃん、泉崎さんはあのロボットをやっつけるために戦っているわけではないんですよ」

「そうなんですか?」

「はい、暴走ロボットを止めるのは、ほめられるべきことですから。もしかすると金一封が出るかもしれませんよ」

「ふ〜ん……でも、何でもいいんです。センパイが勝てば私うれしい!」

「愛理ちゃんて、分かりやすい人ですね」

「ありがとうございます!」

 いや、単純だと言いたいのよ……と言う言葉を奈央は飲み込んだ。たとえそう言ったとしても、恐らく愛理は、

「ありがとうございます!」

 と満面の笑顔で答えるだろう。奈々の活躍を見ている時の愛理には何を言っても無駄なのだ。本当に機嫌がいい。

「でも……いくら金一封が出たとしても、私自身があの暴走ロボットを止めるのは難しいでしょうね」

「え?宇奈月先輩の運転技術だってすごいじゃないですか。きっと大丈夫ですよ」

「いえいえ、コストパフォーマンスを考えるとちょっとどうかと思って」

 奈央は愛理にさわやかな笑顔を向けた。

「予想できる金一封の金額と、暴走ロボット鎮圧のために予想される私のロボットの破損とその修理代……費用対効果がイマイチ良くないかと」

「はぁ……じゃ、やっぱり泉崎センパイに活躍してもらわなくっちゃ!センパ〜イ、頑張れ〜!」

「泉崎さん、頑張ってくださ〜い!」


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