第299話 これは何だ?
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
『次が来るぞ』
アービンゼロワン、ゼロツーのコクピットに、ジョーンズ小隊長の緊迫した声が響いた。無線特有の、高音と低音が少しカットされた音声だ。
アービンの前面スクリーンには、ISSが捉えているレーダー画像が表示されている。点滅する赤い光点が、次第に接近している。それに目をやり、オリバーが無線に声を投げた。
「ゼロワン、レーダーで確認」
『ゼロツー、こちらも確認』
イーサンからもオリバー、そしてブリッジに声が届いた。
レーダーの光点を目で追っていたオリバーが、自機の隣で盾を構えている同型のX2アービンに向けて言う。
「ゼロツー、さっきと同じ軌道だ。約一分で到達する。同様にフォローを頼む」
『了解』
左腕で盾を構え、右腕でしっかりとISSの外壁に設置されているハンドレイルを掴んで機体を固定する。ゼロツーも、少し離れた場所で同様の構えをとっていた、
その様子を固唾を飲んで見守っていたブリッジで、野口が突然大声を出した。
「なんだこれ?!」
あまりの素っ頓狂さに驚いて、一斉に皆の目が野口に向けられた。
愛菜がいぶかしげな顔を野口に向ける。
「いったいどうしたの? あと一分弱で次のデブリが来るのよ?」
野口は人工衛星の観察担当だ。彼の毎日の務めは、地球を周回している全衛星に何かトラブルが起こらないかを常に見守ること。こんな状況にあってもそれは変わらない。今この場での彼の任務は、デブリを射出している衛星の正体を探ることなのである。
野口は、コンソールのタッチパネルをいくつかタップして顔を上げた。
「これを見てください」
皆がブリッジのメインスクリーンに視線を向ける。
ワイプが開き、何かが表示された。
少しピンボケのような、不思議な物体が映っている。
船長が思わず声を漏らした。
「いったいこれは何だ?」
野口がコンソールをタップしながら続ける。
「デブリを射出してくるアレが何なのか、ずっと調べていたんです。ですが、あれには管理番号が見当たらないんです」
現在地球を周回している人工衛星には全て、管理番号が付けられている。打ち上げ前にビーコンを内蔵したもの、管理番号を外装に大きく表示したもの、それらが無い衛星でもISSではその形状を登録して管理している。だがそのデータベースに、それは登録が無いと言う。
「なので光学カメラの限界までズームして、デジタル処理でなんとかここまで見えるようにしてみました。まぁ、500キロ以上距離があるので、まだ少しボケてますけど」
そんな野口の言葉に、一同がスクリーンに目を凝らす。
愛菜がポツリとつぶやいた。
「あれって……人工衛星、なの?」
皆同意見だった。
そこに映されていたものは、誰も見たことのない代物だ。通常の人工衛星に見られる特徴が何もない。太陽電池パネル、アンテナ、アルミの外装、スラスターなど、どう見てもそれには存在しない。それどころか、どんなメカニック、機械とも似ていない。幾何学的直線や円形などが見られない、ぐにゃりとしたいびつな外形をしていた。
船長が野口に視線を向ける。
「どう思う?」
首をかしげる野口。
「分かりません」
その時無線から、ゼロワンに乗るオリバーの大きな声が届いた。
『よし!排除成功!』
五発目のデブリも弾き飛ばしたようだ。
ふむとうなづき、船長が再び野口に視線を戻した。
「分析を続けてくれ。どうしてもあれの正体が知りたい」
「了解です!」
野口はそう言うと、コンソールに目を落とす。
と同時に、運行クルーの一人が声を上げた。
「次、射出されました!これまでとは少し軌道が違うようです!」
ジョーンズ小隊長が、無線でアービンに指示を告げる。
「アービンゼロワン、ゼロツー、今度のデブリは軌道が違っている。細かい指示はスクリーンに数字で表示するので移動してくれ」
『了解!』
無線からふたつの小気味良い声が響いた。
スクリーンの表示を見つめていたオリバーが、イーサンに声をかける。
「ISSに対面して7時の方向約五メートルだ」
『了解した!』
移動を始めるアービン二機。
ブリッジに向けてオリバーが問う。
「到達時間は?」
すぐに小隊長の声が返ってきた。
『約1分15秒後だ。計算結果をそちらのスクリーンにも表示する』
「よろしく!」
そのやりとりが終わる前に、アービンの前面スクリーンに時間が表示され、1分10秒から減算されていく。
カウンターが0になる前に、目的の場所に行き、盾を構えねばならない。
ふと何かに気付いたのか、オリバーがハッとしてブリッジに言った。
「もっと距離が離れた場所に軌道を変えられるとやっかいです。ゼロツーと別行動で、ゴールドウィング全体をカバーするのはどうでしょう?」
一瞬の間の後、小隊長からOKの声が届いた。
「ゼロツーはそのまま残ってくれ。ゴールキーパーは二人いた方がいい」
ニヤリと笑うオリバーに、イーサンも笑顔を返す。
『どんなサッカーだよ!』
笑顔の二人だが、けして緊張の糸が切れることはなかった。




