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第297話 装甲板

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

『ライフロープ接続OK』

 オリバーの乗るX2アービンのコクピット内に、イーサンの声が無線で届いた。

 オリバーは操縦レバーを離し、右手でサムズアッブして答える。

「こっちもOKだ。じゃあ行きますか?」

 前面ディスプレイ内に表示されたワイプの中で、イーサンも親指を立てた。

 二人のアービンは、金属製の命綱をISSの外壁に取り付け外に出た。ISSの船外、つまり宇宙空間に、である。

 宇宙飛行士はもちろんロボットが船外活動をする時、高速で飛んでいるISSの外に出た途端、その空間に取り残されないのか? そんな疑問が湧いてくるが、実際にはそうはならない。外部から観察すると、船内にいる宇宙飛行士やロボットはISSと同じ速度をもっている。その速度には「慣性の法則」が働くため、船外に出ても変わらない。正確に言うと、ISSとほぼ同じ軌道上をロボット衛星として地球を周回することになる。もしそうでないのなら、飛行中の旅客機や走行中の新幹線で乗客がジャンプした途端、後部の壁に激突することになる。重力と共に、慣性の法則はこの宇宙で絶対である。だが、何かの衝撃ひとつでロボットはその軌道を外れ、ISSから離れていくことになる。そのためのライフロープなのだ。もちろん宇宙対応版のX2アービンは、移動用のスラスターを装備している。だが、無駄なエネルギー消費は控えたい。宇宙で生きるには搭載エネルギーが全てだと言えるのだから。

「あそこだな」

 デイスプレイ上で赤く点滅する場所を目指して、オリバーはISS外壁のハンドレイルを、右マニピュレーターでぐいっと引き寄せてから離す。その手すりに沿って、アービンが無重力空間をゆっくりと進み始めた。

 今から一時間ほど前、ISSにパチンコ玉大のデブリが衝突した。通常の場合デブリは、ISSの進行方向からぶつかってくるのだが、それは真横から、ISSに垂直に激突したのだ。しかもその30分後にほぼ同じ場所に二つ目、その10分後に三つ目、そして今まさに四つ目がこちらへ向かっていた。ISSの外壁は、デブリの貫通を防ぐためアルミ製のバンパーで覆われている。だが同じ場所に何度も衝突すれば、貫通の可能性が高くなる。すでにISSの軌道変更で、それをかわすことは試みられたのだが、なぜか正確に追ってくる。そこでオリバーとイーサンに任務が下った。二人は、そのデブリを食い止めるために船外に出たのである。

『こいつで防げると思うか?』

 イーサンから不安げな声が届く。それに対しオリバーは、左腕に装備された盾を挙げ、不敵な笑顔で答えた。

「大丈夫だろ。こいつはM1よりも遥かに強い装甲板で出来てるんだ」

 M1とは、米陸軍の主力戦車M1エイブラムスのことだ。エイブラムスはチョバムアーマーと呼ばれる複合装甲が装備されている。複合装甲とは、複数の素材を組み合わせた装甲板で、チョバムアーマーは強力な合成樹脂や、カーボン複合材、グラスファイバー、セラミックなど異なる物質を使用して、鋼鉄よりも高い防御力を生み出すことができる。

 だが、アービンに装備されている盾は、その数歩先を行く装甲で作られていた。

 その名は拘束セラミック装甲。チタンなどで構成された角型ケースの中に、セラミック素材を高い圧力をかけて封入したものをブロックとし、盾の表面に数多く敷き詰めてある。チョバムアーマーの数倍の防御力を持つと言われる代物だ。なお、これを量産できる技術は、日本を含め五か国にしかないと言われている。

『後数分で、次のデブリが到達する。準備はいいか?』

 二人のコクピットに、ウルフ8の小隊長、ウィリアム・ジョーンズ中尉の声が響いた。すかさずオリバーが声を上げる。

「ゼロワン、準備完了しています!」

『ゼロツー、今配置に着きました!』

 イーサンがそう答えると、小隊長のうむとうなづく声が聞こえた。

『ゼロスリー、ゼロフォーはすでに船内での警備についている』

 国連宇宙軍のロボット小隊は、四機のX2アービンで構成されている。船内で何かあった場合は、他の二機が対応してくれることになっていた。

『よし、任務遂行せよ!』

「了解!」

『了解!』


『陸奥さん、そっちはどうなっとります?』

 陸奥のスマホから、南郷の声が聞こえた。

 陸奥、久慈、そして生徒たちは、研究棟であるシルバーウィングのプロジェクトルームでランチの真っ最中だった。一方の南郷と美咲は、カッパーウィングに残って何かの作業をしているとのことだ。

「とりあえず様子見です。そっちは?」

 陸奥の問いに、南郷が答える。

『こっちはみんな、シェルターに入れ言われて、今山下さんと向かってるところです。生徒たちは大丈夫でっか?』

 陸奥は生徒たちの顔をさっと見渡すと、南郷に言う。

「みんな落ち着いています」

『そりゃ良かったぁ。ほんなら何かあったらまた連絡入れますわ』

「こっちも、状況が見えたらすぐに電話します」

 通話を切った陸奥に、ダンが言う。

「今、どうするべきか、ブリッジに問い合わせています。返事が来るまで、もう少し待ってください」

 はいと、陸奥はうなづき、生徒たちに視線を向けた。驚きに目が丸くなる陸奥。

「まぁ、心配してもしゃーない。みんな、もっと食べとこうや」

「賛成〜!」

 両津のそんな掛け声で、生徒たちは再びランチを楽しんでいた。

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