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第296話 宇宙実験

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

 半導体の結晶を作る実験。

 ミトコンドリアは宇宙でどう働くかの観察。

 材料燃焼性評価法を確立する実験。

 重力が異なる宇宙居住環境でも利用できる固体材料燃焼モデルの構築。

 粉体ガスの自己組織化と3次元パターンの形成。

「うわぁ〜!」

 アメリカの宇宙物理学者、ダン・ジョンソンの説明を聞いていたひかりが頭を抱えた。

 ISSではどんな実験が行なわれているのかと言う質問に対して、ダンから機関銃のように返ってきた返答がさっぱり理解できなかったのだ。

 ひかりは頭を抱えたまま奈々の顔を見る。

「モロボシ・ダンの言うこと、ぜんぜん分かんないよ〜」

「ダン・ジョンソンさんよ! モロボシ・ダンて誰なのよ?!」

 そう突っ込んだ奈々に、奈央が右手の人差指をピンと立てた。

「ウルトラセブンに変身するウルトラ警備隊の隊員ですわ」

 奈央の言葉に、愛理以外の全員が首をかしげた。

 ひかりたちはまだ、日本のプロジェクトルームでランチ中だ。

 ひと通り食事を終えた彼らは、ダンとレオへの質問タイムに入っていた。

 うーんとひとつうなり、奈々が言う。

「ひかりだけじゃなく、難しすぎて私にもよく分からないことが多いです。もっと簡単な実験はしてないのですか?」

 顔を見合わせるダンとレオ。

 と、レオがハッとして笑顔になった。

「そうだ、以前とても面白い実験が行なわれたことがあった!」

「なるほど、あれなら分かりやすいか」

 二人の説明によると、以前ISSでは日本全国の小学生から寄せられた疑問を実験したことがあると言う。それならひかりたちにも理解できるだろう、とのこと。

 心音が肩をすくめる。

「あたしたちが小学生レベルだって言うの?」

 そんな心音に、大和がニッコリと微笑んだ。

「ココ、さっきのダンさんのお話、理解できた?」

 ツンと顔を上に向ける心音。

「分かんなかった」

「じゃあ私といっしょだ!」

 ひかりの顔が明るくなる。

「それで、どんな実験をされたんですか?」

 奈々の質問に、ダンが楽しそうに話し始めた。

「では、無重力空間で泳いだら、前に進むと思うかい?」

 その言葉にレオが付け加える。

「クロールとか、平泳ぎとか、バタフライでもいい」

 うーんと考え込む一同。と、ひかりがはいっ!と手を挙げた。

「進むと思いまっす!」

「どうしてだね?」

 ダンの問いに、ひかりがその場で平泳ぎの真似をする。ガニ股である。

「前にアニメで見ますた!スイスイ〜って!」

 あちゃ〜、と言う空気がこの場に広がった。

 その時、奈央が挙手して質問する。

「それは宇宙空間ですか? それともISSの中でしょうか?」

 ダンとレオが視線を交わした。ダンがニコリとした笑顔を奈央に向けた。

「どうしてその質問を?」

「宇宙空間には、水のように手や足でかくための物質がありません。ですがISS内でしたら空気が存在しているので、それをかくことで進めるのではないかと」

 生徒たち全員がハッとする。

 やっぱり宇奈月さんはすごいかも!

 ダンの笑顔がニヤリとしたものに変わった。

「いい着眼点だね。単純には、君の言うことは正しい」

 おお!っと生徒たちがざわめく。

 そんな皆を見渡しながら、レオが言った

「だが、これは実際にやってみないと分からないことなんだが、水が無いと水泳のように姿勢をまっすぐに保つことができないんだよ。手足を動かした途端、その場でくるくると回転し始めてしまうんだ」

「なるほど、姿勢制御についてまで考えが及びませんでしたわ」

 奈央が残念そうに苦笑する。

 そしてダンが、してやったりという表情で皆に言った。

「つまり正解は、進まない!」

「遠野さんのロボットみたいやな」

 クククと笑う両津に、ひかりが抗議する。

「私、暴走はするけどちゃんと前に進むよ〜!」

「この前、ずっと後ろ向きに走ってたやん」

 ひかりがちょっと赤くなり、ひたいをボリポリとかいた。

「てへへへ〜」

 ダンとレオの話に感心したらしく、愛理が身を乗り出して言う。

「おもしろいですぅ!他にも何かありますかぁ?」

「じゃあ、これはどうだ?」

 ダンがジャンプスーツのふところから何かを取り出した。

 扇子である。

「あれ? それって扇子ですよね?」

 アメリカ人のダンが扇子を持っていることに驚いたのか、奈々が目を丸くしてそう言った。

「そう!じゃあさっきとは違って、ISS内でこれであおいだらどうなると思う?」

 泳ぎと違って、扇子であおぐ行為は手首だけの運動だ。姿勢を崩すこともなさそうである。生徒たちは一斉に答えを出した。

「進む!」

 なぜか声が揃っている。

「ススムくん!」

 ひかりだけが違っていた。

「正解だ。カラダをあまり動かさずにこれであおげば、空気を噴射するスラスター同様に動くことが可能だ」

 その後の説明をレオが引き継ぐ。

「つまり、息を思いっきり吸ってから吹き出しても進むことができるんだよ」

「呼吸がスラスターになるんですわね」

 奈央が感心したようにそう言った。

「チューチュー!」

「だからそれはハムスター!」

 そんな奈々のツッコミがはじけた時、室内に大きなアラーム音が轟いた。

 船内放送の声が緊張を帯びている。

『ISSに乗船している全ての皆さんにお知らせします。至急、避難用のシェルターに集合してください』

 えっ? と全員が顔を上げて天井付近のスピーカーを見つめる。

『乗員は、各部所の指示に従ってください。これは訓練ではありません。至急行動をお願いします』

 ダンとレオが、左腕に巻かれた船内端末に目をやる。

 赤く点滅する文字に、二人の顔にも驚きが広がった。

「シルバーウィングのシェルターはどこに?」

 陸奥の問いに、ダンとレオが顔を見合わせた。

「実は、ここにはシェルターはありません」

 ダンに続いてレオも真剣な目を陸奥に向けた。

「あるのは、一般客のいるカッパーウィングだけです」

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