第288話 お母さん!
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「いらっしゃい!シルバーウィングへようこそ!」
伊南村愛菜が、両手を広げて都営第6ロボット教習所の面々を迎えた。作業着のようなブルーのジャンプスーツ姿である。
ISSのシルバーウィングには、数多くの国のプロジェクトルームが並んでいる。政府間協定を結んでいるアメリカ、ロシア、カナダ、日本、そしてベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ノルウェー、スペイン、スェーデン、スイス、イギリスの欧州11ヶ国で、合計15ヶ国だ。
ここは日本が運営するプロジェクトルーム。
ここでのプロジェクトは表向き、日本の各大学や理研から依頼された遺伝子研究や無重力下での製薬実験などとなっているが、実際の主な任務はHSNの管理と運用だ。HSNとは「袴田素粒子防御シールドSatellite Network」の略称であり、衛星携帯電話用に張り巡らされた衛星ネットワークを利用して、地球全体を覆う防御シールドを展開している。
「お母さん!」
愛理が一番に飛び出した。
それを全身で受け止め、ぎゅっと抱きしめる愛菜。
「よく来たわね!元気だった?」
パッと顔を上げ、うれしそうにうなづく愛理。
「うん!お母さんは?」
「私も元気よ。お父さんはどうしてる?」
ニッコリと笑う愛理。
「最近はオートミールと白米のブレンドに凝ってるみたい」
「なんかすごそう」
二人が楽しそうに笑った。
そんな二人に、陸奥と久慈が一歩近付く。
「家族水入らずのところすいません。お久しぶりです、伊南村博士」
「本日はお招きくださって、ありがとうございます」
軽く頭を下げる両教官。
「こちらこそすいません、愛理と会うのはお正月以来だったので、つい嬉しくなってしまって」
まだ抱きついている愛理に顔を向け、愛菜が笑う。
「さぁ、みなさんの所へ戻って。今日は生徒さんとして見学に来たんでしょう?」
「うん!」
明るく返事をすると、愛理はひかりたちのところへ駆け戻った。
あらためて愛菜が生徒たちに向き直る。
「私は伊南村愛菜、専門は素粒子物理学よ。みなさんも知っている通り、愛理の母です。愛理がいつもお世話になってます」
そう言うと愛菜は、深々と頭を下げた。
ちょっとあわててしまう生徒たち。とりあえず全員で頭を下げる。
出遅れた両津が、急いで頭を下げながら言った。
「こちらこそ!お宅様の愛理様には、いっつもお世話になってまんねん!」
そんな両津に、奈々が小声で突っ込む。
「まんねんて、いつの時代の大阪弁よ」
「だって、あせってしもて、つい」
「両津くんのお父さんは考古学者だから古くても仕方ないよ!」
ひかりが両津に笑顔を向けた。
「考古学者ちゃうわ!」
そんなひかりたちを見て、愛菜がフフッと笑う。
「愛理が言ってた通り、面白い人たちね」
奈々がパッと愛理に顔を向けた。
「愛理ちゃん、お母さんにどんな話ししてるの?」
愛理は、これ以上無いという素敵な笑顔になる。
「泉崎先輩のカッコいいエピソードの全部ですぅ!」
それを聞き、奈央が身を乗り出した。
「わたくしのことはどうですの?」
「天才で尊敬できる、オタクの師匠ですぅ!」
正雄が勢いよく会話に乗ってくる。
「俺のことはどうなんだ?ベイビー」
「マイトガイのジョニーですぅ」
ひかりたちと比べ、愛理と仲良くなってまだ日の浅い心音が心配げに言った。
「わ、わたしのことは、どうなのよ?」
「ツンデレですぅ」
まぁ外れてはいないので、心音はホッと息を吐いた。
「ボクは?」
大和も問う。
「あつあつですぅ」
「それ、ココちゃんとペアでってことやん」
と、両津がケラケラと笑った。
ひかりがキラキラとした目を愛理に向けている。
「ね、愛理ちゃん、私は?私は?」
「ボケの天才ですぅ」
「奈々ちゃん!天才だって!」
「ボケのね」
満面の笑顔で奈々を見たひかりに、奈々が肩をすくめた。
マリエも、小声で愛理に聞く。
「私は?」
「もちろん、美少女ですぅ!」
「ひかり、私美少女だって」
少し頬を赤く染めて、ひかりに目を向けるマリエ。
「そうだよ!マリエちゃんは美少女だよ!私がニセ小判を押すよ!」
「太鼓判よ!」
奈々のツッコミは今日も素早い。
「倉庫番?」
「そうそう、昔ファミコンでピコピコって…ゲームかよ!」
「文庫版?」
「そうそう、単行本は大きくて重いから文庫版がいいいなぁって…小説かよ!」
「諸説ありまする」
「諸説じゃなくて小説っ!」
奈々がハァハァと、肩を揺らしている。
そんなひかりと奈々に、陸奥が冷静な声で言った。
「遠野、泉崎、そろそろいいか?」
だが、それに異論を唱えたのは両津だ。
「センセ待って!ボクのこと、まだ聞いてまへん!」
聞きたいのか? と、呆れ顔になる陸奥。
「愛理ちゃん!ボクは?両津良幸は?」
うーんと、腕を組み考え込む愛理。
ニコッと微笑んで両津を見た。
「特に話してませんですぅ」
「なんでじゃーっ?!」
シルバーウィングでの、初『なんでじゃー』であった。




