第283話 操縦マニュアル
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
ドサッ!
大きな音を響かせて、陸奥は公園のテーブルに分厚い本を山積みにした。
「船外活動でお前らが乗る、無重力での訓練用ロボットの操縦マニュアルだ。熟読して、しっかりと頭に叩き込んでおけ」
生徒たち全員の目が丸くなる。
ひかりがその中から一冊を手に取った。
「すごーい、電話帳みたいに分厚いよ」
ひかりの言葉に首をかしげる愛理。
「電話帳って何ですかぁ?」
「私にも分かんないけど、うちのお父さんがよく、こりゃ電話帳みたいに分厚いのじゃ!とか言ってたから」
「ひかりのお父さん、のじゃ!とか言うの?」
奈々の問いにひかりが笑顔で答える。
「言いませ〜ん!」
そんなひかりに、両津が言った。
「しかし電話帳はボクも見たことあらへんなぁ。他に言い方無いのん?」
ひかりがうーん、うーんと考える。
そしてパッと顔を上げた。
「百科事典みたいに分厚い!」
ひかりの言葉を、奈々がすかさず否定する。
「いや、百科事典も今はスマホのアプリになってるから、ぜんぜん分厚くないわよ」
「まぁ、これもお父さんがよく言ってるだけで、私も分厚い百科事典なんて見たことありませ〜ん!」
ひかりが両手を挙げてバンザイしながらそう言った。
お手上げ、の意味かもしれない。
コホンと、奈央がひとつ咳払いをした。
「わたくしの実家には、ワールド大百科事典の全34巻が揃っていますわ。父の書斎の本棚に、ズラリと並んでいます」
「すげー、高そうだぜ」
「およそ30万円ですわ」
「うひょー!」
価格を聞いたひかりが飛び上がった。
「でも……」
首をかしげなから心音が不思議そうに言う。
「このマニュアルも、どうしてアプリにしなかったのかしら? そうすれば読んであげなくもないのに」
「いや、読まなくちゃダメだから!」
大和があわてて心音をしかる。
そんなやりとりを無視して、奈央が中空を見つめながら言う。
「恐らくですけど……デジタル機器というのは、いつ電源が落ちたり、それ自体を落として壊してしまったりするか分かりません。でも紙ならそれがありませんわ。緊急事態などを考えると、紙のマニュアルは大切なのかもしれません」
奈々がマニュアルのページを指でこすりながら顔を上げた。
「しかもこの紙、濡れても大丈夫なように表面がコーティングされてるわよ」
「エンジニア用のマニュアルみたいね。私が持ってるメカ系のマニュアルも、油が付いても平気な紙よ」
心音がうなづきながらそう言った。
「とりあえず読んでみよか。熟読せぇって陸奥教官、言っとったし」
両津の言葉に、全員がマニュアルのページを開いた。
ひかりが奈々に詰め寄る。
「奈々ちゃん!いっしょに読も!」
「ひかり、どうせ漢字が読めないんでしょ?」
「てへへ、英語も」
「もう、仕方ないわね」
そこへマリエがやって来た。
「私も」
奈々が不思議そうにマリエを見る。
「オランダ語のマニュアルもあるんじゃない?」
「ある。でも、日本語で読みたいの」
感心したように笑みを浮かべる奈々。
「すごいね、マリエちゃん。それに比べてひかり、母国語も読めないって」
「多国語?」
「一ヶ国語もできてないでしょ!」
マリエが、三人の前のマニュアルのページをめくる。
とりあえず点検の説明は飛ばし、エンジンの始動から読んでいく。
ふーんと、ひかりが声を出した。
「イグニッションキーじゃないんだ」
ひかりと奈々が一度乗ったことのある陸自の最新軍用ロボット「ヒトガタ」と同じ方式である。スイッチによる始動だと図解付きで説明があった。しかも地上のロボットとは違い、始動時に機体の振動やエンジン音はしないらしい。恐らく、無駄なことは全て省かれているのだろう。
エンジンを始動すると、360度の全天周ディスプレイが明るくなり、自分がまるで宇宙空間に浮かんでいるような感覚になる……と書かれている。
「すごいね!この前のVRみたい」
そう声をあげたひかりに、奈々が視線を向ける。
「VRがこれを再現してるのよ。あっちがバーチャルでこっちがリアル!」
「ゴールド!」
「飲みたい」
全くマニュアルが読み進められない三人であった。




