表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

282/508

第282話 VRゴーグル

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

「やっぱりEVAって難しいですぅ」

 愛理がハアっと息を吐いてそう言った。

 ロボット部の面々は、いつもの学食のようにISS内に作られた公園に集まっていた。一見こじんまりとした普通の公園のようだが、もちろん宇宙ステーション内にそんなものは作れない。だがその周囲360度を、ぐるりと3Dスクリーンで取り囲むことにより、地上の公園のように感じられる。時間経過も考慮されており、朝には日が昇り夜になるとちゃんと日が暮れる。地球上に近い環境を作ることで、ISSに長く滞在する者のメンタルケアにもなっていた。

「愛理ちゃんがアニメのこと、難しいって言うなんて珍しいね」

「EVAはアニメではありませんわ」

 ひかりの疑問に奈央がそう答えた。

「ExtraVehicular Activityの略でEVA、船外活動のことですわ」

「ほえ〜、漢字だけじゃなくて英語もわかんないよ〜」

 そんなひかりに、奈々が笑いかける。

「ひかりは分からないこと多いから」

「てへへ」

 やはり照れるところではない。

「でも、VRやなかったら、マジで危なかったで。無重力でくるくる回り始めたら止まらへんからなぁ」

 両津が肩をすくめた。

 船外活動訓練は、筒状の居住区の中心で行なわれる。セントリフュージ技術による人口重力は、遠心力による疑似重力だ。筒の中心に近づくほど弱くなり、中心部ではほぼ無重力となる。そんな場所に作られた船外活動訓練室では、まるで宇宙空間のような無重力を体験できる。

「VRじゃなくて、早く外に出たいぜベイビー」

 こぶしを握ってそう言った正雄に、奈々が視線を向けた。

「今の状態だと、まだしばらくは無理じゃない?」

「そやなぁ」

 両津がため息をつく。

 地上で行なわれる宇宙飛行士の訓練でもVRが使われている。ISSの滞在者は、宇宙ステーションから投げ出された同僚を宇宙遊泳して救助するという緊急事態に備えた訓練をVRで行なう。だが、ISSでは通常のVRゴーグルは使えない。重力の無い宇宙空間ではセンサーが正しく動作しないのだ。そのため映像が揺れたり回転してしまい、VR酔いを引き起こす。そこでISS専用のゴーグルが開発された。両手に持つコントローラーをアンカーポイントとし、その位置情報を参照することで無重力下でも位置合わせを行なえるようにしたのである。その初号機は、実は医療機器だった。VRゴーグル「VIVE」を製造する台湾のHTC、VRを使ったヘルスケアプログラム「バーチャル・クリニック」を提供するアメリカのXRHealth、仮想現実や航空宇宙分野の技術開発を行うデンマークのNord-Spaceが共同で開発した、宇宙飛行士のためのVRセラピーシステムだ。地上とは全く違う環境で宇宙飛行士にたまるストレスを解消するために用いられる。そして今ではその発展形がISSでも数多く使用されている。ひかりたちが訓練に使ったゴーグルもそれである。

「でも……」

 両津が少し曇った表情を皆に向ける。

「なんで修学旅行で訓練なん? しかも船外活動て」

 そんな両津に、心音がきっぱりと言った。

「陸奥教官が言ってたじゃない。学を修める旅行で修学旅行だって」

「それは分かるんやけど、船外活動っちゅーのが謎やと思わへんか?」

「どうしてよ」

 疑問符を浮かべた心音の横で、ひかりの顔がパッと明るくなる。

「教習所の七不思議!」

 そう叫んだひかりに、奈々がため息をついた。

「ひかり、ここは教習所じゃないわよ」

「えーと、どこだっけ?」

「ISSよ」

「また英語だぁ」

 ひかりが眉根を寄せる。

「国際宇宙ステーションですわ」

「国際なんとかテーションの七不思議!」

 奈央の言葉を聞いたひかりが、またよく分からないことを言う。

 それを聞き流して、大和が両津に視線を向けた。

「でも、両津くんて、いつも謎の話してるよね」

「そりゃ謎やねんからしゃーないやん」

「七不思議〜!七不思議〜!」

「まだひとつしかないわよ」

 はしゃぐひかりに奈々が呆れ顔でそう言うと、両津に問いかける。

「で、何が謎なの?」

「だって、ボクら素粒子に対抗するためにロボット操縦を習ろてるんやろ?」

「素粒子〜!素粒子〜!」

「アメリカの大統領も日本の総理も、直接攻撃してくるわけやないて言うとったけど、船外活動って、まるで宇宙で戦うみたいやんか」

 これって既視感がある。

「回避教習の時と似てる」

 マリエがそうポツリとつぶやいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ