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第280話 船外活動訓練

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

「うわぁぁぁぁ、奈々ちゃん!たしけて〜!」

 真っ黒な空間で、真っ白なヒトガタがくるくると回転している。

 今日は初めての船外活動訓練だ。

 ひかりたち都営第6ロボット教習所の面々は、それぞれ宇宙服を身に着けISS国際宇宙ステーションの船外で訓練中なのである。

「ロボットで宇宙に出る前に、まずは自分の体で宇宙遊泳を覚えるんだ。一歩間違えば命にも関わってくる。しっかりとマニュアルを読んでから始めること!」

 その日の朝、ひかりたちが集まったホテルのロビーに、そんな陸奥の声が響いた。

 前日は陸奥と久慈の話であんなに楽しかったのに、一夜明けると命に関わる訓練って、陸奥教官ってやっぱり厳しい〜!

 なんて思ったひかりだが、文句を言っていても始まらない。今日は朝からしっかりと、宇宙遊泳に関するマニュアルを熟読した。だが、心配な点がいくつもあった。ひかりには読めない漢字がたくさんあったのである。

「奈々ちゃ〜ん!」

 一般的に宇宙服と呼ばれる船外活動ユニット・EMUは、実に厄介な代物だ。一番の問題点は「とにかく動きにくい」こと。EMUは人間が宇宙船や宇宙ステーションの外に出て作業するときに着用するものだ。つまり、人が宇宙空間で生きていられる環境の全てを内蔵しなくてはならない。ある意味小型の宇宙船と言ってもいいだろう。胴体、グローブ、ヘルメットで全身を覆い、中に酸素を満たして宇宙の真空から身を守る。その素材もすさまじく、気密や断熱のために、ゴアテックスとノーメックスの混紡、その裏地に裂け止めとしてケブラーのリップストップ、ポリエステルフィルム7層にも及ぶアルミ蒸着マイラー、ネオプレーンゴムを蒸着したナイロン、ダクロン、ポリウレタンコートナイロンなどが合計14層も重なった布地で出来ている。

 しかもISSの外は非常に寒暖差が激しい。太陽の光が当たっていると120度、当たっていないと零下150度にもなる。そのため、84mもの長さの細いチューブに水が流れる仕組みの冷却下着を着る。太陽光が当たらない時は逆にヒーターを使う。そんな下着も3層になっている。そして背中に、酸素や水、バッテリーを内蔵した生命維持装置をかついでいる。このユニットで、宇宙飛行士が吐いた空気から二酸化炭素を取り除き、酸素を送り込む。また、内部の熱を排出する仕組みも装備されている。

 こんなものが動きやすいはずがない。

「ひかり!命綱があるんだから慌てなくて大丈夫よ!」

 奈々がひかりに叫ぶ。

「そんなこと言ったってぇ、目が回るよぉ」

 ひかりの目がくるくるしている。

「遠野!こんな時にはどうすればいいか、マニュアルに書いてあっただろう?ちゃんと読まなかったのか?!」

「読みましたげと、漢字が読めなくてよく分かりませんでした〜、てへへ」

 陸奥の問いに、ひかりがペロッと舌を出した。

「痛っ!」

「ぐるぐる回ってるんや、舌なんか出したら噛むに決まっとるやん」

 両津の呆れたような声が、ひかりのヘルメット内に響いた。

「遠野さん、セイファーですわ」

「遠野先輩、セイファー使うですぅ」

 奈央と愛理からアドバイスが届く。

「セイ、ファー?」

「そうよひかり、早く使って!」

「えーと……セイはSayで『言う』だよね?」

 ひかりがぐるぐると回転しながらわけのわからないことを言っている。

 首をかしげる一同。

「じゃあ……ファーっ!」

「ゴルフ場かよっ!」

 奈々のツッコミは的確だ。

 ゴルフでは、自分の打ったボールが他のプレイヤーにぶつかりそうになった時『危ない!』という意味で『ファーっ!』と叫ぶことになっている。ひかりはそれを知ってか知らずか、下手な初心者ゴルファーのように思いっきりそう叫んでいた。

「ひかり、違うって!スラスターのことよ!」

「がお〜!」

「それはモンスター!」

「チューチュー!」

「ハムスター!」

「朝食はパン派です!」

「トースター!」

「カニより食べやすい!」

「ロブスター!」

 回転しながらボケ倒すの、かくし芸になるんちゃうか?

 両津はひかりと奈々を見つめながらそうつぶやいていた。

「遠野!セイファーというのは、窒素ガスの噴射装置だ!左右のそれを噴射して、姿勢を立て直せ!」

 SAFER(Simplified Aid for EVA Rescue)は、船外活動中に命綱が切れるなどの事故を想定したセルフレスキュー用小型推進装置だ。NASAが開発し、ISSの組立時などで活躍した装備である。

「えーと……これかな?」

 ひかりが右腕に装備されたタッチ式のスイッチを押した。

 右側のセイファーから窒素ガスが勢いよく噴射される。

 片側だけの噴射である。

 ひかりの回転速度がいっそう速くなる。

「うきゃーっ!」

 ひかりはそう叫ぶと、頭からかぶっていたVRゴーグルをスポッと脱ぎ捨てた。

 他の生徒達も、次々とゴーグルを外していく。

 こうして船外活動訓練の初日は、ひかりの大失敗で幕を閉じた。

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