第278話 まろにえ
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「ロボットは基本、人体の模倣から始まったものだし、俺は人体構造を上手く取り入れることこそ、いいロボットを作る条件だと思ってる」
日章大学の学内は、一般的な大学に比べてあまり広くない。そのため、学生たちのいこいの場はどうしても学食か、校内に二つあるカフェになることが多い。今も私は、学内カフェ「まろにえ」で、熱く語り続ける一人の青年と二人でひと時を過ごしている。
私と同じテーブルで熱く語っているのは陸奥俊博。私と同じ日章大学の二年先輩だ。 親友の深町ひろみの紹介だったこともあり無視することもできず、学内で何度もこんな会話を繰り返している。そして分かってきたのは、私たちはとても気が合うこと。それに、お互いの話はいつも興味深いということだ。
「例えば腕や足を動かす場合、ただモーターに直結するより、人工筋肉を作ってそれで曲げ伸ばしした方が柔軟に、しかも微細なコントロールが可能なんだよ」
先進工学部ロボティクス科である彼のトークは、この辺りから増々盛り上がりを見せる。
「筋肉って、アクチン線維とミオシン線維が交互に並んでるだろ? で、重なる部分にアクチン線維が入れ子のように滑り込むことで筋収縮が起きる。その時に、ミオシン線維とつながったタンパク質が……えーと、何だっけ?」
「そのまんま、ミオシンよ」
「あぁそれそれ、さすが医学部! で、そのミオシンの首振り運動をモーターに置き換えて、それぞれの筋繊維を金属繊維で模倣すれば人工筋肉の完成だ!」
彼は少し息を切らし、大きな声でそう言い切った。
そして今度はテーブルの紙ナプキンを広げて、胸ポケットから取り出した大学の名前入りボールペンで絵を描き始める。
「彩香も知っている通り、筋肉には縮む力しかないだろ? その縮む力を利用して骨を動かしている。例えば腕を曲げる時は、上側の上腕二頭筋の筋肉を縮める」
彼が右腕を挙げ、曲げ延ばす動作を私に見せた。
「この時下側の上腕三頭筋は伸びているわけじゃない。ただ緩んでいるだけだ」
そして彼は、私にグッと顔を近づけて力説する。
まぁ筋肉の構造や動きなどは、医学部の私の方が遥かによく知ってはいるのだが、うんうんと聞いてあげるだけで彼の機嫌が良くなるのだから安いものである。
「だからロボットの場合はこれを応用して、上腕三頭筋に当たる金属繊維に伸びる能力を持たせてみたいんだ。そうすればこれまで以上のパワーを作り出せるんじゃないかと」
「なるほど。でも、そのパワーに耐えられる関節にしないとね」
彼の顔がパッと輝いた。
「そうなんだよ!さすが彩香だ。他の学部の人はこの話、誰も分かってくれないんだ」
まぁ私だって、彼の言っていることの全てが理解できるわけじゃない。
でも、ロボットの話は聞いていてなぜか楽しい。
いや、彼が話してくれるから……なのかも。
「と言うわけで、俺と付き合ってくれないか?!」
突然の彼の言葉に、私は目を丸くした。
「いいけど、何が、と言うわけなのよ?!」
「いいんだな?!」
「まぁ……はい」
ガッツポーズを決める彼。
「で、何がと言うわけなの?」
「彩香は、俺の話を分かってくれる!」
彼は優しい笑顔でそう言った。




