第276話 シリトリ必勝法
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「次は何聞く?」
ひかりが陸奥の顔を見つめながら言う。
なぜかしかめっ面である。
「おいおい、俺のことはもういいんじゃないか? さっき話したロボットの研究所の後は、都営第6ロボット教習所だ」
「なんでその研究所やめて、教習所に来はったんです?」
両津はまだ先を聞きたいようだ。
「さっきも言ったが、その研究所の所長だった雄物川さんが、新しくできるロボット教習所の所長に決まって、俺を誘ってくれたんだよ。その操縦の腕を、次の世代に伝えていかないか? なんて言われてね」
なるほど〜と、生徒たちがうなづいている。
最強と言われた軍用ロボットとの勝負に、単騎で勝利した陸奥である。その操縦技術は推して知るべしだ。
「でも陸奥教官」
ひかりが首をかしげながら聞いた。
「なんだ?」
「私、陸奥教官から、すごい運転技術なんて教わって無い気がします」
「そりゃそうだ」
「ほえ?」
「遠野はまだ暴走ばかりで、すごいの『す』にも達してないからな」
会議室が爆笑に包まれる。
「す、す、す……スイーツ!」
「ひかり、シリトリじゃないのよ」
奈々が突っ込む。
「スイーツ屋さん」
「マリエちゃん、んで終わったよ。負けちゃってるよ」
「トホホ」
いつの間にか、ひかりの口癖がマリエにうつっている。
「ほ、ほ、ほ……本屋さん! あ、私も負けちゃった」
ひかりがペロッと舌を出した。
「だから、今はシリトリしてるんじゃないんだって!」
しびれを切らした奈々が強めのツッコミを入れた。
「じゃあ奈々ちゃんは『ん』!」
「だからシリトリじゃ……」
「ん!」
ひかりとマリエがユニゾンで叫ぶ。二人共なぜか満面の笑顔だ。
「ん……ンジャメナ」
「なにそれ?! 『ん』から始まる言葉なんてあるの?!」
驚愕に目を丸くするひかりとマリエ。
「チャドの首都よ」
「チャボ!」
「コケコッコ〜!」
マリエが両手をバタバタと、振り付きで叫んだ。
「唐揚げ食べたくなってきたですぅ」
「わたくしは焼鳥の方が好みですわ」
「玉子焼き作ってくれたら食べてあげてもよくってよ」
「じゃあ今度作るね」
「鶏皮ポン酢はウイスキーの肴にピッタリだぜベイビー」
「あんた未成年でしょーが!」
「と、俺のGrandpaが言ってたのさ」
「埼玉のおじーちゃんでしょ!」
一同が爆笑する。
教官たちは皆、今回はさすがに緊迫した話し合いになると思っていた。だがこのザマである。いつものようにどんどん話が脱線していく。
「遠野さん、『ん』から始まる言葉って、結構ありますわ」
「ほんまでっか?」
奈央に振り返り、イントネーションのおかしな関西弁で返事をするひかり。
「タイのンガイ島、コモロ共和国のンズワニ島やンジャジジャ島、カメルーンの都市ンガウンデレ、ミャンマーのビーチリゾート・ングエサウンなど、世界には『ん』から始まる地名は思ったより多いですわ」
「すごーい!てことは、『ん』で終わっても、シリトリ負けじゃないのか!マリエちゃん、さっきの続きしよ!」
「うん、スイーツ屋さん」
「ん、ん、ん……ングエサウン!」
やっぱり『ん』で終わるひかりであった。
「次は久慈教官でどうでっしゃろ?!」
「ふぇっ?!」
両津に突然名前を呼ばれた久慈が、思わず不思議な声を出してしまった。
「久慈教官の昔、教えて欲しいです!」
「分かったわ」
久慈はフッとひとつ息をつくと、ゆっくりと話し始めた。




