第269話 小会議室
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「陸奥さんは知っとりました? 今日の記者会見」
南郷が陸奥に視線を向ける。
「いえ。雄物川さんは、もう少し後になるだろうとおっしゃってましたから」
「そやったなぁ」
南郷が困ったように肩をすくめた。
教官たちは、生徒たちが集まっている場所と廊下をはさんで反対側の、かなり小ぶりな会議室で事前打ち合わせをしてたいた。ここも生徒たちの会議室同様、ずいぶんと高級で豪華な内装になっている。それぞれ四人の前には、豪華な内装に負けない美しいティーカップ&ソーサーが置かれていた。白地に鮮やかなブルーの帯。ギリシャ神話のグリフィンをモチーフにした、少しグロテスクな模様は16世紀からの伝統的絵柄である。ウエッジウッドのフロレンティーンターコイズだ。一脚二万円を超える高級品からは、爽やかな酸味とさっぱりとした苦みを感じる柑橘系の香りが立ち登っていた。もちろんこの部屋に用意されている茶葉も、超高級なのである。
「彼らは、まだ何も知らないんですよね?」
「ええ。みんな、ロボット免許の教習を受けているだけだと思っています」
美咲の問いに、久慈がため息交じりにそう答えた。
そんな状態で、この後生徒たちにどう話せばいいのか、一体どこまで話すべきなのか。
雄物川所長の計画では、まずは生徒の家族に説明し、許可をもらうことになっていた。だが、政府からの発表は、生徒たちに大きな衝撃を与えている。その上に、彼ら自身がそれに関わっていることを全て隠しておくのは、後々彼らの心に悪い影響を与えるかもしれない。四人はそう考えていた。
「まぁ、どっちにしろびっくりする話やからなぁ。大統領と総理の話にびっくりしたついでにびっくりした方が、ちょっとはマシかもしれへんわなぁ」
「所長、ご家族にお話しに行ってるんですよね?」
「ああ。最近の雄物川さんの仕事は、それがほとんどになってるよ」
久慈の問いに、陸奥が苦笑する。
「結果は聞いてます?」
陸奥に向ける南郷の表情は心配げだ。
「まだ詳細は聞いてませんけど、ほぼ半数は納得してくれたそうです」
ほんの少しホッとした顔になる一同。
「そうでっか……まぁ全てを納得してるかどうかは分かりまへんけど、人類の危機、なんて言われてまうと、しゃあないのかもしれへんなぁ」
教習所の教官とはいえ、彼らも教師である。自分の生徒たちを、危険なことに巻き込む事実に心が傷まないわけはない。代われるものなら代わってやりたい。だが彼らは知っている。あの生徒たちにしかできないことなのだと。
「みんな未成年ですから、もちろんご両親の承諾は絶対に必要ですけど、肝心なのは本人の気持ちですよね」
久慈の顔が再び暗くなる。
そうだ。これは無理強いできることではけしてない。
もし彼らが普通の高校生活を送っていたら、絶対に出会うことのない危険に向き合うことになる。しかも、自分たちに人類の命運がかかっていると、大人たちから言われるのだ。まだ未成年の彼らは、その重圧に耐えられるのだろうか?
「じゃあ、どう話をするべきか、まとめましょう」
心配をしていても話は進まない。予想していなかったこととはいえ、政府からの発表はすでになされてしまった。時間を巻き戻して、その事実を変えることはできないのである。
「人間の尊厳は守られますた!」
ビシッ!と音が聞こえるような鋭さで、ひかりが敬礼した。教習所の学食で出会った、機動隊のお姉さん仕込みの警察版だ。
「遠野ひかり、17歳!もう大丈夫でありまするっ!」
ホテルスターリングの廊下に、ひかりの声が響く。
「また古臭い言葉遣いになってるわよ」
奈々のツッコミに、両津がニヤリと笑い言い放つ。
「仕方ないのであります!お父さんが考古学者なのですからっ!」
「それ、飽きた」
「がびょーん!」
心音のツッコミに、両津がガックリと落ち込んだ。
「肩落としてないで、新しいギャグ考えなさいよ」
「そう言われてもなぁ」
奈々の言葉に、困ったように頭をかく両津。
「ええっ!両津くん大丈夫?!」
突然ひかりが両津に駆け寄った。
「え?何が?」
「どこで落としたの? 私、一緒に探してあげようか? 肩」
ハァっと、両津の大きなため息が聞こえた。
それをかき消すように、愛理が首をかしげて言う。
「今何か聞こえたですぅ」
「私も」
マリエも同意する。
「何が聞こえたんですの?」
奈央の質問に、愛理がひとつのドアを指差した。
「ホントだぜ、誰かの声が聞こえるな……複数だぜベイビー」
「これ、教官ズちゃうか?」
一斉にそのドア前に集まる生徒たち。
こっそりと、耳をそばだてる。
「今、ダイナギガって言った?」
「言った」
奈々の言葉に、全員がうなづいた。
「ダイナギガって、前に遠野先輩が言ってたヤツですかぁ?」
愛理が首をかしげる。
「やっぱり存在したんだ」
ひかりがマリエに視線を送った。
「うん」
「遠野さんの気のせいちゃうかったんや」
「あの時に見た、大きな黒い影のことかしら」
奈々の問いに、全員が首をかしげる。
「分からんけど、この後その話が出るんちゃうか?」
「急いで戻った方が良さそうですわね」
ひかりたちは慌てて、プレアデスのドアを開いた。




