第267話 情報のリーク
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「おいターニップ」
ローカル新聞「ワシントン・ジャーナル」の記者リチャードが、鏑木に追いつき肩を叩いた。
「お宅の国の首相会見で、とんでもない爆弾が投下されたらしいじゃないか?」
鏑木はニヤリと笑い、リチャードの顔を見る。
「早耳だねぇ」
「そりゃそうさ。ワシントンでメシ食ってくには、情報源が多くないとね」
リチャードもニヤリと笑った。
ほんの数分前、トンプソン大統領の会見が終わるとすぐに、記者たちはそれぞれの行動に移っていた。急ぎ追加取材をするもの、会見場から走り出して行くもの、テレビカメラに向かいレポートをするもの、等々。鏑木は確かめたいことがあり、報道官の締めの言葉を待たずに、一番に会見場を後にした。
中庭に出るとスマホを取り出す。
いくつかタップして、左手で耳に当てた。
コールはたったの一回、相手がすぐに出る。
「カブさん、そっちの具合はどうです?」
滑舌のいい、明るくハキハキとした声が聞こえる。
HeTuberのリップマン村田だ。
「ホワイトハウスは大騒ぎだよ。で、村田くん、そっちで何かやらかしたらしいじゃないか?」
「そんなことしてませんよ、いつも通り真面目な質問をしただけです」
フフッと、村田の小さな笑い声が聞こえた。
フリーのジャーナリストは情報が命である。メジャーな新聞社などとは違い、一人で集められるモノには限度がある。そのため、このような横のつながりが重要になってくる。もちろん、どこまで情報を流すのかは、お互い探り合った上での「阿吽の呼吸」となっているのだが。
「で、どこから仕入れた情報なんだ?」
「仕入れたわけじゃありませんよ」
「どういうことだ?」
鏑木には、村田のニヤリとした笑顔が見えたような気がした。
「政府からのリークです」
「なんだって?!」
鏑木は、驚きを顔に出さないよう、注意深く小声でそう言った。
「色々とありましてね。でも、その情報源からカブさんにも伝言があるんです」
どういうことだ? そいつは俺のことを知っている人物なのか?
総理会見がらみで俺を知っているのは?
「彼女は、カブさんが帰国したら、どう世間に報道して欲しいかを伝えるので、相談に乗って欲しいと言ってます」
村田からのヒントである。
彼女と言うことは……広末広報官か?
「つまり、俺と君で、政府が思うように報道するってことか?」
「そこは交渉次第ですよ、カブさん。あっちの思う通りってわけにもいきませんから」
報道人として、けして譲れないものがある。それは鏑木も村田も同じだ。
だが、村田の言葉の奥にあることを、鏑木は理解していた。政府と報道、お互いにWin-Winとなるバランスを取ることで、これからも情報を引き出せる。
「分かった。帰国の日が決まったらまた連絡する」
「待ってま〜す」
スマホをトンとタップして電話を切る。
その時だった。リチャードが鏑木の肩を叩いたのは。
「おいターニップ」
心臓が口から飛び出るかと思うほど驚いた鏑木だったが、その素振りを全く顔に出さないことに成功した。
聞かれたか?!
「お宅の国の首相会見で、とんでもない爆弾が投下されたらしいじゃないか?」
どうやら村田との電話を聞かれたわけではないらしい。
「投下した犯人、ターニップの知り合いだって前に言ってた男だろ?」
「だから、俺の名前は野菜のカブじゃないんだって」
「まあいいじゃないか、ターニップ」
リチャードがいつものように小さく笑う。
「そうだ。日本の総理会見で爆弾質問をしたのは、HeTuberのリップマンだ」
リチャードが、馴れ馴れしく鏑木の肩に手を回し、耳元でささやいてくる。
「あの爆弾、とても興味深い話しじゃないか。ターニップのつてで、リップマンに取材できないか?」
鏑木はふと考えた。
ワシントン・ジャーナルはニューヨーク・タイムズと同じローカル新聞だが、すでにネット報道の時代であり、ローカル紙や全国紙という言葉に大した意味はない。北米に必要な情報を伝えるにはもってこいかもしれない。
「リチャード、君だけに話したいことがあるんだけど、この後少しいいかな?」
鏑木は、さっきの村田からの話にリチャードを巻き込むことにした。
「もちろんさ、軽くメシでも行こうぜ」
二人はウエストウィングの通用門へ足を向けた。




