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第266話 HeTuberのパフォーマンス

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

「先日、廃棄されたインドの宇宙ステーション・センドラルの破片が、日本に墜落しました。みなさんご存知の通り、場所は奥多摩と東京湾です」

 官邸の記者会見室にいる彼以外の記者全員が、不思議そうな視線を村田に向ける。

 それが今回の会見と、何か関係があるのだろうか?

 また、HeTuberとしてのパフォーマンスを始める気なのか?

 などと、その視線はいぶかしげなものに変わる。

「JAXAの発表では、単に古くなったから落ちてきた、と言うことでした」

 そこまで言うと村田は、高かったテンションを抑えるために、ふうっと息を吐いた。

「その原因についておうかがいする前に、センドラルの落下した奥多摩に、国際テロ組織黒き殉教者のアジトがあったと言うのは本当でしょうか?」

 宇宙からの侵略や素粒子とは全く別の話だ。

 だが、奥多摩の落下現場にテロ組織がいたなんて、警察も政府も発表していない。

 こちらも特ダネであることは間違いないだろう。会場がざわめき始める。

「それは、あなたの想像ですか?」

 山崎総理が逆に問いかけた。

「いえ。私の情報源の一人に、テロ関係に詳しい者がおりまして。彼が直接、テロリストから聞いた話です」

 ざわめきがいっそう大きくなる。

「村田さん、あんたもしかしてテロリストとつながっているのか?」

 記者の一人からヤジのように質問が飛ぶ。

 村田はニヤリと皮肉な笑いを浮かべ、質問を投げた記者に顔を向けた。

「取材源の秘匿、です」

 取材源の秘匿とは、取材に際しての情報源である人物を特定しうる情報を他に漏らさないことだ。ジャーナリストの義務であり、同時に権利でもある。最高裁の判決でも認められた、報道に携わる者の倫理の1つとされている。

 村田は再び総理に向き直った。

「それに関しては、今ここではお話できません」

 山崎総理の言葉に、全ての記者がいぶかしげな目を向ける。

 否定しないということは、真実なのか?

「分かりました。では私、すべての真実をこの唇から伝える男、リップマン村田が、様々な取材の結果得た結論を申し上げましょう!」

 両手を広げ、身振り手振りを始める村田。

 会見のテレビ中継が、まるでHeTubeの動画番組のように見える。

「最も大切なのは、センドラルが彼らのアジトに落下した結果、彼らが保有していた戦闘用ロボットが暴走したことです」

 記者たち全員の目が、驚きに見開かれた。

「つまり、先程からトンプソン大統領と総理のお話に出てきている袴田素粒子に感染したことになります。ここまではいいですか?」

 村田の問いに、総理以下登壇者はうなづくこともなく無言だ。

「山崎総理、そして伊勢防衛大臣は、侵略者から直接攻撃があるわけではないので安心するようにとおっしゃいました。ですよね?」

 確認の問いかけにも、登壇している三人の表情に変化はない。

「でも、もし侵略者がHSNをすり抜けて、意図的にセンドラルを落下させたとしたら、それは直接的な攻撃、武力行使と言えるんじゃないですか?」

 この部屋にいる全記者、そしてテレビを見つめる全国民が息を呑んでいた。

 みじろぎすらしない総理、官房長官、防衛大臣。

 実はこの時山崎総理は、つい村田の質問に答えそうになる自分を必死で抑え込んでいた。目の前のプロンプターに美鈴からのメッセージが浮かんでいるからだ。

『肯定も否定もしないで下さい』

 確かに、村田の話を否定した場合、後々全てが明らかになった時にウソをついたのかと糾弾されかねない。一方肯定してしまえば、国民の困惑や恐怖を煽ることになるだろう。

 広末くんは優秀だな。

 総理はいつも彼女に助けられていた。難しい判断をこの場所で口にする時、いつも彼女は最適解に導いてくれる。

 だが、この時の総理にとって、彼女についてまだ知らないことがあるとは想像もしていないだろう。

「どうやらお答えにならないようなので、私の質問はこれで終了したいと思います。ご清聴ありがとうございました」

 村田は大げさにおじぎをし、ゆっくりと記者席に腰を下ろした。

 そしてチラリと、司会の美鈴を盗み見る。

 これでいいんだろ? 広末さん。

 美鈴は、誰にも気付かれないほど小さくうなづいた。

 政府は国民の恐怖を煽るわけにはいかない。

 だからと言って、安心ばかりを強調すれば、侵略への心構えが失われてしまう。

 だから美鈴は、村田に白羽の矢を立てたのだ。うさんくさい、まるで芸人のようなHeTuberの話であれば、信憑性はそれほど高くない。だが、彼の話した内容に国民は、いくばくかの危機感を持つことになるだろう。

 今はこれでいい。

 もう少し、状況が整うまでは。

 美鈴は、心のなかでつぶやいた。

「ダイナギガ計画が、もう少し進んでくれたら」

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