第262話 大統領会見
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
トンプソン大統領の発表は、全世界を震撼させるに十分だった。
地球は今、外宇宙からの侵略を受けている。
ここ数年で爆発的に増えているロボット暴走事故の一部は、侵略者によるテロである。
そしてその侵略者は、ロボットや機械の暴走原因と言われている素粒子だ。
その名は袴田素粒子。
その素粒子は、信じられないことに、自我を持つ知的生命体なのだと。
ここまででも、あまりにも情報量が多すぎる。ひとつの事柄を理解する前に、次の事実が話される。大統領の発表を見ている世界中の者たちに、大きな混乱が広がっていた。
「ですが、あわてないでいただきたい。我々人類は、すでに侵略を食い止めるべく様々な手を打っています」
大統領はそう力強く言った。
「ここからは国防長官、お願いします」
報道官に呼ばれたジョーンズ国防長官から、現在の防衛状況が語られる。
世界各国の協力で、すでに国連下に極秘裏に防衛組織が存在し、活発に活動している。そのひとつが、HSNと呼ばれる袴田素粒子防御シールドSatellite Networkである。衛星携帯電話用に張り巡らされた人工衛星ネットワークを利用して、地球全体を覆う防御シールドを展開しているのだ。そのため、地球圏への袴田素粒子の侵入を約98%近く防げていると言う。それにプラスして、各ロボットに装備する個別の防御シールドもすでに開発され、世界各国でその運用が始まっている。
「今すぐ侵略者が地球に武力行使してくるわけではありません。地球への素粒子の侵入やロボットへの感染を防ぐことができれば、防衛に問題は無いのです。ですからご安心ください。我が国、そして世界が一丸となって対応中なので、落ち着いて日常生活を送ってください。今一番恐ろしいのは、無理解によるパニックです」
大統領がうむとうなづいた。
「SF映画のように、どこかの宇宙船が地球に攻撃を仕掛けてくるわけではない。恐れることはありません。ですが、」
大統領は一息つくと、テレビカメラにキッと強い視線を向けた。
「我が国は、今日から地球規模の緊急事態宣言を発令します。私は合衆国の大統領です。ですがこの宣言は、極秘裏に行なわれた国連総会で、全会一致で決定したことです。つまり、この地球の全ての場所に適用されます」
大統領の強い言葉に、記者会見室は重い沈黙に包まれた。
「この緊急事態宣言に関して、実際の運用は各国に任されることになります。なので具体的な内容については、それぞれの政府から説明があると思います」
手持ちのPadでその会見を見ていた南郷がハッと顔を上げる。
「これ、日本の放送に切り替えた方がええんとちゃうか?」
ホテルロビーの大型テレビで、大統領会見を見ていた生徒たちが南郷のところへ集まってくる。
「センセ、そんなことできるんでっか?」
「ここのロビーじゃ、トンプソン大統領の会見が続くやろ。各国で話が違うんやったら、日本のテレビ見た方がええに決まっとるで」
南郷がPadの画面を、トントンと軽快にタップする。
「ISSにまで地上波の電波が届くはずありませんわ。と言うことは、ネット経由でしょうか?」
「すごいですぅ!」
「そんな手で日本のテレビが見られるなら、ミネソタにいる頃も見たかったぜベイビー!」
「あんた、ミネソタにいたのって数ヶ月でしょ!」
奈々のツッコミに、正雄がいつものマイトガイスマイルになる。
「ラジオは聞こえるのかなぁ?」
ひかりが首をかしげる。
「ラジオ?」
マリエの問いに、ひかりがパッと笑顔になった。
「私、ラジオに投稿するの、大好きなの!」
「まだ採用されたこと無いけどね」
「奈々ちゃん、しーっ!」
ひかりが人差し指を奈々の唇に押し当てた。
「ぴかり、にゃにしゅるにょよ」
いつもと逆である。
「南郷さん、それって」
「緊急事態や、しゃーないですわ」
陸奥の指摘に、南郷が苦笑した。
もしかすると、宇宙で日本のテレビ放送を見るのは合法ではないのかもしれない。
そんなことを思う生徒たちの前で、南郷のPadに日本人の映像が映し出される。
テレビのニュースなどでよく目にする、首相官邸の記者会見室だ。
登壇しているのは、山崎和夫内閣総理大臣、山岸哲也官房長官、そして伊勢美智子防衛大臣である。記者席には溢れんばかりの記者たちがおしかけていた。
「総理、どこまで言うんやろ?」
南郷がポツリとつぶやいた。
「どこまでって、どういう意味ですか?」
奈々が不思議そうに南郷を見る。
「南郷さん!」
南郷を睨むと、フッと息をつく陸奥。
「詳しいことはこの会見を見た後、みんなに話したいと思う」
いったい何の話だろう?
自分たちが、この問題に何か関わっていると言うのだろうか?
生徒たちの胸に、言いようのない不安が広がった。




