第261話 発表の日
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
ホテルスターリングのロビーには、ひかりたちだけではなく、ここに宿泊している観光客の全員が集まっていた。今から一時間ほど前に、ISSの船長から集合がかかったのだ。
集まっているのは彼らだけではない。各店舗の店員たちやISSの係員たちも、近くのモニターを中心に集まっている。
「センセ、これから何が始まるんです?」
両津の問いに、南郷が難しい顔で腕組みをする。
「偉いさんから発表があるんや」
「偉いって、ISSの船長さんとか?」
奈々の視線に、陸奥が首を横に振った。
「いや、もっと上だ」
「もしかして、総理ですか?」
奈央の問いに、陸奥は再び首を振る。
「詳しいことは、私たちにも分からないの。多分もうすぐ始まるから、もう少し待ちましょう」
久慈の言葉に、生徒たちはロビーの椅子に腰を下ろした。派手さのない、簡素なソファーである。だが、ひかりとマリエは、教官たちに見つからない程度に小さくはねていた。
「ぴょんぴょん」
「ウサしゃんです」
鏑木雅彦は、窮屈そうに身じろぎをした。
なんでこんなに狭いんだ?!
いつものことだとは言え、超大国の記者会見室だとは思えない狭さである。
鏑木は北米で活動するフリーのジャーナリストだ。もちろん、ただのフリーではホワイトハウスのこの部屋に入るのは難しい。そのため最低限の身分として、彼は日本国内の大手新聞社から臨時雇用の契約社員としての立場をもらっている。その仕事は、特ダネをモノにすれば記事を買い取ってもらうという、まさに業務委託そのものなのだが、この国では取材のための立場が必要不可欠なのである。
実は、報道の自由を憲法修正第1条で明確に保障する国アメリカらしく、ホワイトハウスの記者会見はオープンが建前だ。記者証の必要は無く、所属する報道機関と自国の大使館が発行したレターを提出すればいい……ということにはなっている。
だが、ホワイトハウスの西側・ウエストウィングにある記者会見室の面積は、たったの32坪だ。記者用の座席に至っては49席しかない。しかも、記者席の最前列はAP、ABC、NBC、ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズなど有力報道機関によって占拠されている。鏑木のような他国のチンピラ記者は、最後尾で立ち見となるのが当たり前の世界なのだ。いや、今回に関しては、入室できただけでもラッキーだと言えよう。
「ターニップ、今日は何の発表なのか、情報を掴んでいるか?」
鏑木の隣で、やはり窮屈そうにしているローカル新聞の記者、リチャード・スミスが耳打ちした。アメリカ人らしく大柄のため、鏑木以上に苦しそうだ。
「だから、俺の名前は野菜のカブじゃないんだって言ってるだろう」
「まあいいじゃないか、ターニップ」
リチャードが小さく笑う。
「いや、全くの前情報無しだ。突然の記者発表に入れただけでも、俺達は幸運だよ」
「例のスキャンダルの言い訳じゃないのか?」
リチャードの口が、ニヤリと皮肉につり上がった。
「それにしちゃちょっと大げさじゃないか? 国防長官も出席らしいじゃないか」
「それは知らなかった」
皮肉な笑顔が、真剣なものに変わる。
「俺、きな臭いのは嫌いなんだけどなぁ」
「報道官のお出ましだ」
記者会見室に、報道官、国防長官、そして大統領の順に入室して来る。
「皆さん、まずは大統領からの発表があります。その後に質疑応答の時間を設けますので、よろしくお願いします」
報道官が記者席を見渡した。
「では、大統領」
チーク材で作られた重厚な演題に立ち、大統領はゆっくりと会場を見回し、そしてテレビカメラに視線を向けた。
「皆さんにお伝えしなければならないことがあります」
そう言うと両目を一度ぎゅっと閉じると、ゆっくりと、そして大きく見開いた。
「地球は、宇宙からの侵略を受けています」
記者会見室、そしてひかりたちのいるホテルスターリングのロビー、いや全世界に驚愕が広がっていた。




