第260話 カッパーウィング
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「すっご〜い!広いですぅ〜!」
愛理が驚きのあまり大声を上げた。
ひかりも嬉しそうにぴょんぴょんしている。
到着エリアを出た彼女たちは、ISSの三本の建造物の一つ、カッパーウィングに入っていた。ここはいわゆる観光棟だ。窓際には多くの望遠鏡が並び、土産物店や飲食店が並んでいる。このまま先に進めば宿泊設備の整ったホテル街もある。
残り2つの円柱は、各国によって様々な研究が行なわれているシルバーウィングと、操縦系や非常時には防衛を担当することになるゴールドウィングである。ちなみにゴールドには、アメリカ軍の宇宙コマンド部隊が常駐している。ただし彼らはあくまでも国連宇宙軍を名乗ってはいるのだが。
「はい!皆さん、注目して!」
久慈がパンパンと手を打ち鳴らした。
「皆さんには、このままホテルにチェックインしてもらいます」
「おい、ホテルやって!旅館とちゃうぞ!なんや豪華やぞ!」
はしゃぐ両津に、奈々が冷静に言う。
「まぁ国際宇宙ステーションに旅館はなさそうだけどね」
「えっと、旅館とホテルって何が違うんですかぁ?」
愛理のこの質問には、さすがのひかりも首をかしげる。
「それはね、愛理ちゃん」
それに答えたのはロボット部の物知り博士、奈央だ。
「旅館業法と言う法律で決められていますわ。旅館は「和式の構造及び設備を主とする施設」、ホテルは「洋式の構造及び設備を主とする施設」となっています。でも現実にはその施設が混ざっている場所が多いので、それこそ言ったもの勝ちなのかもしれませんわ」
「へぇ、言ったもの勝ちなんですかぁ」
「ガッチガチ!」
今度はひかりも反応した。
「見ろやこの俺を!カッチカチやぞ!カッチカチやぞ!ゾクゾクするやろ!」
「両津くん、それセクハラだから」
奈々が、汚いようなものを見る目で両津を見つめた。
「ちゃうって!カッチカチなのは腕の筋肉のことやって!腕の!」
「でも、両津くんの腕、筋肉ぜんぜん付いてないよ?」
ひかりが不思議そうに両津の腕を見ている。
「それに先程両津さんは、この俺を見ろ!って言ってたですわ」
「そうやったかなぁ」
奈央の指摘に、両津はバツが悪そうな笑顔になる。
「カチカチでもフニャフニャでも何でもええ!さぁ、ホテルに行くで!」
いつまでも歩き出さないひかりたちに業を煮やし、南郷が大声を上げる。
「了解で〜す!」
そして一同は、とりあえず荷物を置くために宿泊先へと足を向けた。
「ねぇココちゃん、宇宙焼きってアンドロメダ焼きとは違うの?」
一旦ホテルに入ったひかりたちは、身支度を整えてすでに観光に出ていた。
ロボット部の全員が、ISS観光の中心「大気圏外商店街」を歩いている。
「それがぜ〜んぜん違うらしいの。アンドロメダ焼きって、ウズマキみたいな模様がついた回転焼きみたいな甘いお菓子でしょ?」
「はい、食べたことないですけど、テレビで見たことありますぅ!」
愛理がニコニコでそう答えた。
「愛理ちゃん食べたこと無いの? アンドロメダ焼き」
「はい!」
「実は、私も!」
「あんたもかい!」
奈々のツッコミに、ひかりが笑顔を向ける。
「奈々ちゃんも一緒に、後で食べに行こうよ!」
「そ、それがいいわね」
その時、先頭を歩いていた大和が突然足を止めた。
「たぶん、ここだよ」
大和が指差す先には、見るからに縁日の屋台の風情をたたえた小さな店が立っていた。
もちろん、雰囲気を出すために作られた、観光用の店舗なのだろう。
店先には、半円球の凹みがたくさん並ぶ鉄板があり、おそらく小麦粉を溶かしてたであろう液体が今まさにその中で焼けようとしている。それを店員が、千枚通しのように尖った器具で、器用にくるくるとひっくり返して球体を作っていく。
これって?
「たこ焼きやんけーっ!」
そう叫んだ両津に、心音がキッと視線を向けた。
「違うわよ、宇宙焼きなんだから」
「いやぁ、どう見てもこれ、たこ焼きやん」
心音が店員らしきAIロボットに顔を向ける。
「宇宙焼きですよね?」
「はい、ISS名物の宇宙焼きです」
店員ロボットは満面の笑顔である。
「たこ焼きと違って、宇宙らしい色んな具が入っているんです」
「宇宙らしいって?」
「宇宙は全てを包み込む大空間です。なので、様々な食材を包み込んで、とってもおいしく食べさせてくれる、それが宇宙焼きなんです」
「なんや、うさん臭いなぁ」
首をかしげる両津。
「つべこべ言ってないで、早く食べましょ!」
心音のひと声で宇宙焼きひと船、10個入りを買い、全員ひとつずつ食べることになった。ぱくつくロボット部一同。
「お!ステーキ肉が入ってた!ミネソタの香りがするぜベイビー!」
「棚倉くん、当たりやん」
「わたくしはチーズですわ。しかもトロトロのカマンベールです」
「それおいしそうですぅ、私は……ウィンナーですぅ!」
「私は…たらこかな? いえ明太子よ、おいしいわ」
「奈々ちゃんいいな!」
「ひかりは?」
「えーとえーと……ぱくり!……チョコレート!お菓子みたいでおいしい!マリエちゃんは?」
「私のは、あんこ」
「二人、似てるね」
ニコニコと笑い合うひかりとマリエ。
「それで、両津くんのは何が入ってたの?」
一瞬間が開いて、両津がしぶしぶ顔を上げた。
「タコ」
「たこ焼きやんけーっ!」
ひかりが大声でそう叫んだ。
「しかし、タイミングが悪いですね」
陸奥、南郷、久慈、山下の四人の教官は、宿泊先のホテルスターリングのロビー横に設けられたパーラーで、難しい顔を突き合わせていた。
四人の前のテーブルには、四つのティーカップ。そこからは、柑橘系の爽やかな香りが立ち上っている。
「所長にとっても、この発表は青天の霹靂だそうです」
陸奥が大きなため息をついた。
「生徒たちは?」
「13時には戻ってくるようにと、言ってあります」
美咲が腕時計を見ながらそう言った。
「13時やったら間に合うな」
「そうですね」
一瞬の沈黙が流れる。
「こうなったら、教習所や彼らについても、ある程度話さなくてはならないのでは?」
久慈が心配げな目を陸奥に向ける。
「それを今、所長と上の方で話している最中らしい。決まり次第、ここに連絡が来ることになっている」
陸奥が左手のスマホを数回降った。
「しっかし、よりにもよって修学旅行中にこんなことになるなんてなぁ」
肩をすくめた南郷に、美咲が優しげな笑顔を見せた。
「でも、無重力での戦闘訓練について、下手な言い訳をしなくてよくなりますよ」
「まぁ、それはそうなんやけどねぇ」
四人は一斉に、香り高い紅茶をひと口すすった。




