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第26話 警備ロボット

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

 情報システム部の三人は、急ぎ足で調査船ハーフムーンの中央通路へ向かっていた。船内の機械類が次々と故障していく中、ついにロボットにまでその影響が出たというのだ。その現場がこの先にある。

「主任、ちょっとまずい展開になって来ましたね」

 足を早めながら結菜が言った。

「そうね。感染の速度も上がっているわ」

 あかりの髪は乱れていた。連日の徹夜で、ほとんど寝ていないのだ。

「故障した機械類のほとんどは、予備の部品がいくつもあるからあまり大騒ぎにはなっていませんけど、そのうちに大変なことになりそうな気がします…」

 結菜が通路を見る目は暗い。

「生命維持システム、とか」

 正明の言葉に、三人は押し黙ってしまう。その沈黙を破ったのはあかりだ。

「本当、分からないことだらけだわ。例えばあの素粒子、どうして半導体にばかり侵入するのか?他の部品じゃないのか?もっともっと調べないと」

 三人は足を早めた。

 一報のあった現場に到着すると、そこでは一台のパトロール用ロボットが、同じ場所でぐるぐるとゆっくり回転していた。

 ビルの警備やショッピングセンターの夜間警備などに使われている、ごく普通の一般的な見回りロボットだ。学校などの夜の巡回でもよく目にする。宇宙用に、特にチューンナップされているわけではない。少し上がすぼまっている円筒形で、身長は小学校3、4年生の子供ぐらい、全方面が観察できるように、目に当たるレンズがぐるりと円柱のまわりに付いている。

 修理班があかり達の先に到着していた。だが、なぜか遠巻きにしてロボットの周りを取り囲んでいる。

「何かあったんですか?」

 あかりの問に修理班の班長らしき年配の男が答えた。

「さっきこいつの電源を落とそうと近づいたんですが、いきなりこっちに突進して来やがって……思い切り私の肘にぶつかったんですよ」

 そう言って痛そうに肘をさする。

「まさか……攻撃して来たんですか?!」

 正明が驚きの声をあげた。

「そういうことだ。いつも俺たちがメンテナンスしてやってるのに、恩知らずにもほどがある」

 男は苦笑した。

 その時、あかり達の背後から、保安部の走る足音が聞こえてきた。修理班が通報したのだろう。

 やって来たのは3人。ひと目でそうと分かる、警察官に似た制服を着ている。彼らはロボットの周りを、三角形の頂点の位置に陣取ってそれと対峙した。

 そのうち二人はさすまたを手にしている。防犯訓練などで、警察や機動隊が使っているのを見たことがあるだろう。相手の動きを封じ込める護身用具で、長さ2、3メートル程度の長い柄に、大きなU字型の金具が付いている。この金具で、犯人の首や腕などを壁や地面に押しつけて捕獲する。古くは室町時代から存在し、江戸時代にはすでに犯罪者捕縛のために使われていた。捕り物三道具の一つと言われた、日本独自の文化でもある。

「なんか大捕物になってきましたね」

 正雄の声音には、ほんの少しだが恐怖が含まれていた。

「保安部さん、こいつ何故かリモコンじゃスイッチが切れないんですよ。もう俺達じゃどうにもならないのでとっ捕まえてください!」

 修理班班長の言葉に、現場に緊張が走る。

 突然、ぐるぐると回転していたロボットの動きが止まった。そして側面に付いている二本のアームを伸ばしはじめた。両腕を広げると片腕で1メートルほどにもなる。

「おいおい、もっと暴れるつもりか?」

 班長がそう言った時、保安部員たちが動いた。

 ロボットの首あたりの部分と腰ほどの高さに、さすまたのU字金具を素早く押し付ける。ロボットは逃れようと暴れ始める。それに屈することなく、保安部員たちは腰を入れてさすまたを押していく。ロボットはジタバタと抵抗していたが、ほんの数秒で壁に押し付けられていた。

「急いで!」

 保安部員の叫びに、修理班員がロボットに飛びつく。そしてロボット側面にある電源スイッチを、手動でオフにした。

 ぷしゅー……まるで糸が切れた操り人形のように、ロボットは両腕をだらりと下げて沈黙した。

 その場の全員の顔に、安堵の色が浮かんだ。

「主任、さっきのどう思います?」

「あのロボット、まるで意思があるみたいな動きでしたよね…」

 結菜も正明も、不安の声をもらした。

「そう見えたわね」

 この時代になっても、いまだAIに自我は芽生えていない。以前から技術的特異点、シンギュラリティのことはよく言われて来たが、そんなに簡単に実現するものでは無かった。

「あの……」

 正明が小さく手を挙げた。

「もしかして……ホントもしかしたらなんですけど……あのバッテン、袴田素粒子に意思があって、ロボットに感染することで手足を手に入れた……なんてことは無いですか?」

 結菜が嫌な顔をする。

「素粒子に自我があるって言うの?」

「だって、半導体だけに入り込むってのは、その機械の頭脳であるCPU周りをコントロール下に置こうとしてるってことなのかも」

 相手は素粒子だ。そこらじゅうを自由に飛び回れる代物なのだ。これは大変なことになるかもしれない。

 あかりの胸に、嫌な予感が広がっていた。

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