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第257話 ラピッドクラフト

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

「もっと食べれるよぉ」

「それを言うなら、もう食べられないよぉ、でしょ」

 奈々がひかりの寝言に突っ込んだ。

「ひかりったら、眠っていてもボケてるんだから」

 奈々が苦笑する。

 真っ白な物体が、漆黒の闇を進んでいた。

 だがよく見るとその闇のベールには、キラキラとガラスか宝石のような光が散りばめられている。奈々は、自分のすぐ右の窓からその空間に目をやった。どこまで続いているのかさえ分からないその闇に、カラダごと引きずり込まれそうになる。

「山下先生の言う通り、平衡感覚がおかしくなるわね」

 奈々が左隣のひかりを飛び越えて、通路の向こう側の席に座る奈央に声をかけた。

「そうですわね。無重力と言うのは単純にカラダが浮かぶだけだと思っていましたが、自分の体がどんな状態になっているのか、よく分からなくなってきますわね」

 奈央が両腕を組み考え込む。

「恐らく平衡器官のうち、特に水平に配置されている耳石が少し浮き上がっているために、内耳全体の平衡感覚が経験したことのない状態になっているのでしょう。ですが、目に見えている視覚情報は、宇宙空間でもそれほど変化はありません。まさにミスマッチですわ。そのギャップで宇宙酔いになるのではないでしょうか?」

 奈央のその言葉に、奈々は苦笑する。

「奈央、何言ってるのかサッパリ分からないけど、宇宙酔いって意見には賛成よ」

 ここはISS国際宇宙ステーションへ向かう宇宙船の中だ。

 都営第6ロボット教習所の生徒たち全員と、教官たちが乗っている。

 ついに修学旅行が決行されたのである。

 彼らが乗っているのは、ラピッドクラフト(Rapid Craft)と呼ばれる定期運行の宇宙船だ。一見、かつて大活躍したNASAのスペースシャトルを細身にした感じだが、実際はその三倍程度の巨体を誇っている。最大乗員七名のスペースシャトルと違い、定員は30名。ISSへの定期観光路線として大ヒットし、現在では旅行会社にとってドル箱路線になっていた。

「やっぱり宇宙船はカッコええなぁ」

 両津がため息をつく。

「そりゃそうだぜ、なにしろ宇宙船だからな!」

 よく分からない理由を両津に投げると、正雄はニヤリと不敵な笑顔を見せる。

 まあ、その笑顔の意味もよく分からないのだが。

「両津さん、棚倉さん」

 愛理が二人に視線を向けた。

「この宇宙船に描いてあるマーク……パナム? PANAMって、何のことですかぁ?」

「それはパンナムと読むんだぜ、お嬢ちゃん」

「パンナム?」

「ああ、この宇宙路線の運行会社、パンアメリカン航空だぜベイビー」

「それって、どんなパンですかぁ?」

「フライパン!」

 突然ひかりが飛び起き、大声でそう言った。

 だが、そのまま再び眠りに落ちていく。

 まあ、飛び起きたと言っても、無重力でシートからカラダが浮き上がらないように、しっかりとシートベルトを締めているのだが。

「俺たちアメリカ人はみんなSFが大好きなのさ、ベイビー!」

「あんた埼玉県人でしょ!」

「アメリカのサイターマさ!」

「それどこよ」

「ミネソタさ!」

 宇宙でも、彼らの会話は少しも変わらない。

 パンアメリカン航空は、1930年代から1980年代にかけて名実ともにアメリカを代表する航空会社だった。たが、航空産業の自由化の進行と高コスト体質の改善失敗により経営が悪化、1991年に破産してその姿を消した。だが、国を代表する大企業が消滅するとは、当時のアメリカ人にとって想像すらできないことだったのだろう。そのため、1968年のSF映画「2001年宇宙の旅」には、宇宙ステーションへのシャトルとしてパンナムの宇宙船が登場する。ひかりたちが乗っているラピッドクラフトは、そんなSFマインドを大切にするアメリカ企業により再建されたニューパンアメリカン航空が運用している。ただし、昔のパンナムとは違い宇宙専用のシャトルなのだが。

「NASAの最初のスペースシャトルも、スター・トレックに登場する宇宙船にちなんでエンタープライズ号と名付けたぐらいさ。俺たちアメリカ人はSFマインドに溢れているのさ!」

「だからあんた埼玉県人でしょーが!」

「そうとも言う!」

 正雄の歯がキラリと光った。

「でも、宇宙旅行準備訓練て、あんなにキツいものだとは思わなかったわ」

 奈々と正雄の会話を無視して、心音が珍しく弱音を吐いた。

「ココ、何度も気絶してたもんね」

 大和がクスッと笑う。

「大和もでしょ!」

「ボクは一回だけだよ」

 そんな二人の会話が聞こえていたのか、ひかりは宇宙旅行準備訓練の夢を見ていた。

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