第256話 シャンバラの目的
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
後藤の報告は、驚くべき内容を含んでいた。
後藤と夕梨花が後をつけていた花菱工業の社員、桜庭純也が新宿の椿屋珈琲店で会ったのは、ダスク共和国国軍の資材調達課長だと言う。その男は、自らをドルジと名乗った。ドルジは、桜庭が部長を務めるフォアフロント部が開発を進めている新技術「ファコム」に大変興味を持っているらしい。いや、ドルジと言うより、ダスク共和国の国軍が、である。ファコムは、フルAIコントロールモジュールの略であり、AIによってロボットの操縦をフルオートにすることが可能な画期的な技術である。
「そんなもの、国軍がどうして欲しがるんだ?」
キドロパイロットの沢村が、少し脳筋的な声色で後藤に聞いた。
「いくらでも利用価値があるわ」
夕梨花が沢村に視線を向ける。
「例えば、軍事用ロボットに応用すれば、無人の戦闘ロボットも可能じゃないかしら」
「お嬢ちゃんの言う通りだぜ」
後藤が肩をすくめる。
「航空戦力のドローンみたいなもんだよなぁ。無人のロボット軍団とか完成したひにゃ、天下無敵ってもんだよなぁ」
後藤のノンキな声に、沢村と同じキドロパイロットの門脇が首をかしげた。
「でもゴッドさん、ダスクにロボット生産の技術って、あるんでしたっけ?」
「うんにゃ、そんなもんあそこには無いわなぁ」
「じゃあどうして?」
後藤はひとつ、大きなため息をついた。
「ヤツら、東南アジア系の闇ロボット製造グループに、そのパーツを横流しするつもりなんだとよ」
皆の顔が次第に青ざめていく。
「そんなことをしたら、世界中のテロ組織やテロ支援国家に、無人ロボット兵があっという間に広がってしまうじゃないですか!」
沢村が立ち上がり、少し上ずった大声でそう言った。
「そうなるわなぁ」
後藤が再び肩をすくめた。
「でも、ちょっと待って」
夕梨花がけげんな視線を後藤に向ける。
「あなたが会ったのはダスク国軍の資材調達課長なのよね?」
「そうだぜ、お嬢ちゃん」
「どうしてそんな立場の人間が、あなたにそこまでの情報を教えるというの? それって、今のダスクにとって、最も知られてはならないことじゃない?」
後藤の口角が、ニヤリと上がった。
「そう、ここからが実に面白ぇんだわ。ワクワクするぐらい、ややこしい話になってくるんだよなぁ、これが」
「そういうのはいいから、さっさと詳細を」
「へいへ〜い」
後藤が頭をポリポリとかく。
トボけた大男と、それにピシャリと釘を刺す美女。
案外この二人は気が合っているのかもしれない。
最近のトクボ部では、そんなことが囁かれていた。
後藤は、一拍置いてからゆっくりと話し始めた。
「ダスク国軍の資材調達課長ドルジは、同時に、反政府組織シャンバラの戦士なんだよなぁ、すげぇ話だろぉ?」
後藤のそのひと言に、この部屋にいる全員の目が驚愕に丸くなる。
「それは、ドルジがシャンバラのスパイだってこと?」
「いや、初めは俺もそう思ったんだがよぉ、どうやら単純にそういうことでもないらしいんだよなぁ」
「どういうこと?」
「ドルジは確かにダスク国軍の課長なんだわ。で、同時にシャンバラにも籍をおいている、ってことかなぁ」
「確かにややこしいな」
酒井理事官が首をひねる。
「でも、ちょっと分かる気もするわね」
そう言った夕梨花に、一同の視線が向けられた。
「そのドルジって人、その時々に自分の価値観で、どちらかの立場で行動するのかもしれない」
「お、それが一番近いかもしれねぇぜ、お嬢ちゃん。まぁ、それが正義とは限らねぇんだけどな。今回俺にこの情報を教えてくれたのは、俺がゴッドだと言うことを知ったシャンバラの戦士の立場で、ってわけだ」
「しかし、シャンバラがこの情報をゴッドに、我々に伝えた真意はどこにあると思う?」
白谷が後藤に視線を向ける。
「俺ぁシャンバラの連中と数年だが一緒に過ごした経験がある。あいつらのやること全てが正義だとは言えないけどよぉ、奴らの目的は今のダスク政府の打倒なのさ。つまり、ダスクがやろうとしてることに反旗をひるがえすことこそ、本当にやりたいことなんだろぅよ。特にダスクの行動が、世界的に悪とみなされるような行為なら、奴らの評価も上がるかもしれないしなぁ」
「テロリストが世間の評価を気にしていると?」
「まぁ、そんなやつらなのさ」
酒井理事官の問いに、後藤はさっき以上に大きく肩をすくめた。




