第253話 トランスワープ
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
ISSのブリーフィングルームに、困惑の空気が広がっていた。
守の話は一見、あり得ないことのように思える。だが、彼が示したデータ類は、それが真実であることを表わしていた。
「それで、あなたはこれを、いったい何だと思っているの?」
ロシアのイネッサ・コンダコワ博士が守に厳しい視線を向けた。
もちろん、彼を攻めているわけではない。彼女にとっての困惑の表情が、ちょっとキツめに見えるのだろう。守はそう思い直し、博士に向き直る。
「ハッキリ言って、全く分かりません」
守はそう言って、肩をすくめた。
「でも、とにかく、おかしなことばかり起こるんです」
「おかしなこと?」
イネッサの視線が、より厳しくなる。
「あの影の総数はまだ分かっていないのですが、その中のいくつかに絞って、観察を続けていたんです」
守は一瞬、その次の言葉を飲み込んだ。
「どうした? 言ってみたまえ」
ルドルフ船長が守をうながす。
守の目が、自信なさげに愛菜に向けられた。
小さくうなづく愛菜。
よしと、決心したような表情を見せ、守は話し始めた。
「私はずっと、それらを小惑星だと考えていました。ですが……その中の数個が突然消えたんです」
「消えた? 他の小惑星と衝突でもしたのかね?」
ブリーフィングルームに。いぶかしげな声が上がる。
「いえ、何の前触れもなく、突然消えたんです。そして、それから数分後に……数万光年、こちらに近づいた地点に現われました」
守が言っていることの意味を理解し始めたのか、この部屋にいる全員の顔が青ざめる。
「その後、次々と小惑星が消え始めて、同じように数分で数万光年を移動したんです」
「まさか、トランスワープしたとでも言うのか?」
「スリップストリームか?」
「それは分かりません。私は、観測したままをお話しています」
スリップストリームとは、自転車競技や自動車レースで用いられる技術で、前方の車が空気を押しのけることにより、すぐ後方の車の空気圧が低下する現象のことを言う。これにより後方の車の速度は飛躍的に上昇する。宇宙では、亜空間の流れである量子スリップストリームを、ディフレクターを使って艦の前方に流すことでこの現象を起こし、亜光速での飛行を可能とする。守の観測によるとそれは、トランスワープ・チューブ等の亜空間トンネルを作り、その起点から終点へチューブ内をスリップストリーム航法で飛んでいるように思われた。なぜならその方法だと、観測者にとってまるで空間転移のように見えるからだ。
「ですので」
守はフッと息をつくと、顔を上げた。
「この集団は、知的生命体によってコントロールされていると思われます」
重い沈黙が、ブリーフィングルームにたちこめていた。




