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第252話 ブリーフィングルーム

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

 ISS国際宇宙ステーションの巨大なブリーフィングルームに、ほぼ全員とも言える科学クルー約30名が集まっていた。ブリッジでその航行を見守っているイギリス人のサイラスただ一人を除いて。彼は当直であり、安全を考えるなら最低1名による航行チェックが、常に必要であるのだから。

 国際宇宙ステーション計画への参加国は、政府間協定により定義されている。その顔ぶれは、アメリカ、ロシア、カナダ、日本、そしてベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ノルウェー、スペイン、スェーデン、スイス、イギリスの欧州11ヶ国で、合計15ヶ国だ。

 ブリーフィングルームを見回すと、実に様々な国の代表者が参加している。この部屋だけで、世界一周旅行を堪能できそうな雰囲気である。

「イレギュラーな時間に集まっていただいて、本当に申し訳ない」

 白髪交じりのあごひげをたくわえた大男が、会議の第一声をあげた。

 ドイツの天文学者、ルドルフ・アンシュッツ、このISSの現在の船長だ。

「そうよルドルフ。今我が国の実験棟では、無重力における免疫機能の実験が始まったばかりなんだ。これ以上に興味深いことなどないだろう?」

 キリッとした緑の瞳が、ショートのシルバーヘアによく似合う30代前半の女性、ロシアのイネッサ・コンダコワ博士だ。彼女の専門は宇宙生物学だと、日本人素粒子物理学者の伊南村愛菜は聞いていた。

 フランス人宇宙生物学者のレオ・ロベールなら、話は会うのかしら?

 そう思いレオに目をやると、彼はなぜか肩をすくめていた。どうやら彼女とは、あまりウマが合わないようだ。

「イネッサ、すまない。だが、皆の意見を聞きたいことが、緊急に発生してしまってね」

「緊急?」

「このだだっ広くてのんびりした大宇宙空間で、緊急のことって何なんです?」

「しまった、急ぎの報告書忘れてた」

「俺は昼メシを忘れている」

 船長の話を聞く雰囲気ではなかった。

 ISSで数ヶ月を過ごすと、皆こうなってしまう。

 のんびりと何も起きない静かな宇宙空間で、日々ルーティンの仕事だけをこなしていく。そんな毎日が、彼らから危機感を奪ってしまう。もちろん、危機感が必要な事態が起こってしまっては大変なのだが。

「それがだな、本当に緊急なのだよ。伊南村くん、話をお願いできないかね?」

「はい。では、発見者から説明させます」

 愛菜はそう言うと、衛星モニター係の野口守に視線を向けた。

「あ、はい」

 愛菜に指示された守は立ち上がり、ゆっくりとブリーフィングルームのメンバーを見渡した。

「まだ考えがまとまっていませんので、事実だけ、説明します」

 守がゴクリとつばを飲む音が聞こえた。

「最近の私の趣味は外宇宙の探索でして、非番のときには毎日、ナンシー・グレイス・ローマン宇宙望遠鏡からの画像を見ているんです」

 ナンシー・グレイス・ローマン宇宙望遠鏡は、2026年からNASAが運用している宇宙望遠鏡だ。ハッブル宇宙望遠鏡と同じ口径2.4m の大型光学望遠鏡と、ハッブル近赤外線カメラの約200倍の視野を持つ広視野観測装置を装備している。そのため、より広い天域でよりたくさんの天体を観測することができ、高い精度の測定が可能になっている。特にこの広視野近赤外観測は、様々な分野の天文学研究に、大いに活用されているのだ。

「それで、天体図に乗ってない星を見つけたんです」

 ほうと、ブリーフィングルームに少し感心したような声が漏れる。

「そこまでは良かったのですが」

 どういうことだ? いったい何があったんだ?

 守に疑問の視線が集中する。

「それから私は、その新しい星、仮にMAMORUと呼びますが、その周辺の天体を片っ端から観測していったんです。MAMORUとの相対距離など、色々です」

「野口くん、落ち着いて」

 慌てたのか、少し早口になっていた守に、ルドルフが軽く注意した。

「あ、すいません」

「それから? 要点を述べ給え、要点を」

 参加者の全員が、守に懐疑的な目を向け始めている。

「それが……観測しているうちに、いくつかの星が消えたのです」

 ブリーフィングルームが、しんと静まり返る。

「その原因は?」

 船長が厳しい目を守に向けた。

「最初は星がまたたいているのかと思ったのです。ですが、大気のない場所で観察している宇宙望遠鏡です……空気のゆらぎでまたたいたりするはずがない」

 守は、自分が見つけたものが信じられないかのように、首を左右に振った。

「それで、もっと広範囲を長時間、観察することにしました。そして分かったのは、星がまたたいているのではなく、星の前に障害物があるのだと」

「障害物……例えば小惑星とか?」

「他の天体とも考えられるぞ、惑星とか」

 いくつかの意見がブリーフィングルームに上がったが、守はその全てが違っていると首を横に振った。

「それが何かは分かりません。ですが、恐らく……」

 部屋にいる皆が息を呑んた。

「数百の物体が編隊を組み、太陽系をめがけて進んで来ていると思われます」

 守から事前に聞いていたとはいえ、彼のその言葉に、愛菜の心は不安で押しつぶされそうになっていた。

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