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第249話 トカレフ

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

「おい、そんなことをしても無駄だ」

 夕梨花は髪をかきあげるふりをして、ワイヤレスイヤホン型無線機に伸ばしていた手を止めた。

「この車の周辺は携帯も無線機も、通じないぜ」

 通信抑止装置か?!

 携帯電話が使用するのと同じ周波数帯の電波を発することで、それを設置した周辺での通信を妨害する装置だ。周波数を多バンドにすれば、その他の無線機にも干渉することができる。その辺のチンピラや暴力団が持っている装備ではない。恐らくもっと大きな組織の連中なのだろう。

 一体何者だ?

 夕梨花が考えを巡らしていると、突然車が停車した。

「降りろ」

 トカレフを構えたまま、男が命令する。

 そこは新宿の中心地から数分でたどり着いたとは思えない、うっそうとした森の中だった。降りる男たちと夕梨花たちの足音がジャリジャリと木々の間に響く。舗装されていない砂利道だ。

「パンプスが傷んでしまいそうです。買ったばかりですのに」

 葵が、銃を向けられているとは思えない声音でそうボヤいた。

「戸山公園か」

 夕梨花の判断は正しかった。

 戸山公園は、新宿区にある都立公園だ。東京の中心地にあるとは思えない、13万6000坪の広大な緑地である。約449,587平方メートル、東京ドームひとつ分の深い森が広がっている市民の憩いの場所だ。だが、昼間はそうであっても、夜にここを訪れるものは滅多にいない。たとえ銃声が轟いたとしても、誰の耳にも届かないだろう。

「おとなしくしてもらおうか」

 トカレフ男の言葉に合わせるように、公園の緑から5人の男たちが現われた。恐らく車の到着場所を決めて、待ち伏せしていたのだろう。トカレフ男と違い、5人は特殊警棒らしきものを構えている。

「何者だ?!」

「答えると思うか?」

 夕梨花の問いに、男はニヤリと笑い葵に銃口を向けた。

「さっき桜庭から受け取ったものがあるだろう? それを渡せ」

 桜庭の名を知っている?!

 そして今日、葵と桜庭が会うことも。

 つまり、花菱工業と霧山グループの動きを知っていたことになる。

 警察ですら、桜庭が会う相手の情報はつかんでいなかったのだ。

 ますます男たちの素性が謎に包まれていく。

「桜庭さんから受け取ったのは、彼が扱っている商品のカタログだけですが、それのことですか?」

 妙に気の抜けた声で葵が答える。

「それだよ」

「頂いたカタログの情報は、花菱さんのネットサイトに全て載っているとのことです。そんなものが欲しいのですか?」

「ああ、ノドから手が出るぐらい欲しいね」

「そんなものならいくらでも差し上げますよ」

 葵は肩にかけていたビジネスバッグの中を探り、花菱工業のロゴが入った封筒に手を入れカタログを取り出す。

「待った。その封筒ごといただこうか」

 葵の手が止まる。

「お前らのやり方は分かっている」

「やり方?」

 男が口角を上げてニヤリと笑った。

「カタログしか入っていないと見せかけて、その封筒にはUSBかデータカードが入ってるんだろう?」

 夕梨花も封筒に視線を向ける。

「いいからそのカバンごと、こっちへよこすんだ!」

 至近距離でトカレフに狙われているのだ。逆らえるはずもない。

 葵は苦々しい顔で、男にビジネスバッグを渡した。

「ボーナスで買ったバッグなんです、乱暴にしないでくださいね」

 相変わらず葵の口調はトボケている。

 男はそのバッグを受け取ると、乱暴にひっくり返した。

「だから、丁寧にって言ってるのに」

 バッグの中からは、実に様々なものが出て地面に散らばった。

 グレーのチェックが入ったハンカチ。

 ポケットティッシュ。

 スマートフォン。

 ガシェットポーチ。

 ペンケース。

 手帳。

 化粧ポーチ。

 ミニ裁縫セット。

 キーケース。

 パスケース。

 マイボトル。

 超小型の折り畳み傘。

 書店のカバーが付いた文庫本。

 そして花菱の封筒からは、カタログらしきものが地面に落ちた。

「おい!データはどこだ?!」

 今にもトカレフを発砲しそうな勢いで、男が葵に怒号を飛ばした。

「無いものは無いのです」

 落ち着いた葵のもの言いに、男はますます逆上したようだ。

「カラダのどこかに隠してるんだろう?! 内ポケットか?」

 そう叫び、男が葵に詰め寄った。

 その瞬間だった。

 カキーン!

 戸山公園に、鋭い金属音が響いた。

 葵の右手に、小刀が逆手に握られている。

 そして、男が構えていたトカレフが、銃身の根本から真っ二つに切れて地面に転がっていた。

 守り刀か?!

 そう夕梨花が思った時、葵が男たちに向かって飛び出した。

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