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第240話 尾行

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

「おいよぉ、俺ゃあこんな道、通ったこともないぞ」

 ゴッドこと後藤茂文は、ニヤニヤしながら前を歩く泉崎夕梨花に声をかけた。

「大丈夫だ。私はたまに来る」

 その言葉に、後藤が目を丸くする。

「へぇ、お嬢ちゃんも普通っぽいところ、あるんだなぁ」

 その後藤の言葉に、夕梨花の顔が少し歪んだ。

「黙ってついて来い、離れると怪しまれる」

 ここはJR新宿駅東口を出てすぐのところだ。北へ向かえば、2025年の2月に廃業した新宿アルタだが、二人は出口を出て東、新宿三丁目方面に歩いている。旧・三越百貨店へ抜ける、なかなかに細い道である。両側には飲食店が立ち並び、まだ夕方だと言うのに、きらびやかなネオンサインや看板がまぶしく光っていた。

「しかし、どうしてこんなことになったんだか」

 夕梨花が苦笑しつつ後藤に視線を向ける。

「俺に言われても知らねぇぜ。オタクの部長さんの命令だぁ、しゃーないだろぉ?」

 後藤は身長180センチを超える上に、鍛え抜かれた筋肉がTシャツ越しにもくっきりと盛り上がっている大男だ。一方の夕梨花は、女性の平均よりは少し背が高いとは言え、一見華奢に見える。もちろん夕梨花の筋肉も鍛えられてはいるが、後藤とは違い鋭くシャープなため、外見からは分かりにくい。なので、二人はまるで美女と野獣に見えるに違いない。

「俺たちカップルには見えねぇと思うけどなぁ」

「それには私も賛成だ」

 夕梨花がニヤリと笑い、小さくうなづいた。

 二人は今、ひとりの男を尾行していた。

 都営第6ロボット教習所での、宇奈月奈央誘拐未遂犯。

 奥多摩の戦闘で逮捕されたテロリスト。

 ビッグサイトで開催された東京ロボットショーでの、宇奈月奈央誘拐未遂犯とテロの実行犯。

 それらの犯人たちを徹底的に調べた公安は、その中の数人に共通点を見つけていた。彼らには、同じ人物と接触した形跡があったのだ。

 その男の名は桜庭純也、38歳の会社員だ。努めている会社で、部長の地位に就いている。日本の上場企業では、部長の平均年齢は52.7歳だ。男性が52.8歳、女性が52.1歳と、性別による差はあまりない。だが、このデータを見れば分かるように、桜庭の出世は少し異常とも言えた。何らかの才能か、あるいは能力があるのか?

 彼が部長を務めているのは、工事用ロボットの部品メーカー花菱工業だ。中小企業ながら、今をときめく霧山グループの傘下となり資金調達に成功、業界でも一二を争う優良メーカーとなりつつある。

 花菱工業の会長は花菱重政だ。90歳を超える老人でありながら、かくしゃくとしている。と言うより、20歳は若く見えると業界でも評判だ。

 そんな順風満帆にも見える花菱工業だが、実は霧山グループの傘下となる直前、倒産の危機に陥ったこともあった。その状態で、花菱のどこに魅力を感じて霧山が資金を提供したのかは、今でも業界の謎となっていた。会長の花菱が戦時中につちかった、東南アジア各国とのパイプに投資したのではないか? そんなウワサが、まことしやかに囁かれてはいるものの、その真実を知るものはほとんどいない。

「花菱って、工事用ロボットの部品メーカーだろぉ? 東南アジアの闇ロボット工場に、部品を供給してるんじゃねぇのかぁ?」

「それはまだ分からないわ。今、公安の花巻さんが探っているらしいけど、まぁ何にしろ、きな臭い会社だわ」

「じゃあ俺たちが何か見つけたら花巻に、て言うか公安に貸しを作れるってことだなぁ」

 後藤がニヤリと笑う。

 と同時に、夕梨花がワイヤレスイヤホンに偽装した無線機に言葉を告げる。

「マルタイ、椿屋珈琲店に入りました」

『了解、二人も後を追ってください』

 指揮車で待機している田中技術主任の声が、二人のイヤホンに届いた。

「へいへ〜い」

「分かりました、我々も入店します」

 桜庭は、通りに面した幅広の階段を登っていく。

 椿屋珈琲店は、新宿でゆったりとした時間と場所を提供している大型喫茶店だ。仕事の打ち合わせに使われることが多いが、ブレンドコーヒーが一杯1100円と、メニュー価格はけして安くはない。コーヒーと言うより、打ち合わせの時間を買っているのである。

 この場所には2005年まで、談話室滝沢と言う有名な打ち合わせ用喫茶店があった。全てのドリンクが一杯1000円という、まさに「談話室」であった。内装も特に飾り立てることもなく、蛍光灯カラーの照明とモスグリーンのじゅうたんで、会社の重役室や応接室を目指していたと言われている。いわゆる昭和のオフィスっぽさを目指していたと。

 その時代この談話室滝沢と、ほど近い場所にある新宿セントラルホテルのロビーが、アニメ製作者たちにとって定番の打ち合わせ場所だった。耳をすませば、そこかしこのテーブルから新作アニメに関する打ち合わせが聞こえてきたものだ。そんな文化も、2020年代に日本を襲ったコロナ感染症の影響で、今ではすっかりなくなってしまった。

「ゴッド、入るわよ」

「りょうかーい」

 二人は桜庭の後を追って、椿屋珈琲店の階段を登っていった。

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