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第22話 ロボット教習所の七不思議

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

 広大な埋立地に建てられた教習所の建物は、吹きすさぶ海風に震えていた。春が近いとは言え、夜がふけるとまだまだ寒い。ひかりたちの部屋にも、大きめの窓ガラスを通して、夜の寒さが忍び込んでくる。

 奈々がブルっとひとつ、身震いをした。

「遠野さん、ちょっと寒くない?」

 奈々は、とてもが付くほどの寒がりである。一方のひかりは逆に、とてもが付くほどの暑がりだ。

「ええ〜?!ちょうどいいよ〜」

 毎度のことだが、エアコンの温度設定は、ひかりと奈々の戦いだった。奈々が設定温度を上げると、ひかりがこっそりと下げる。その繰り返しだ。

「奈々ちゃんは寒がりさんだもんなぁ……しょうがないから1度だけ上げてあげる!」

 ひかりがニッコリと笑ってエアコンのリモコンを手にする。

「1度だけなの?!」

 ひかりの操作で、エアコンからピッと音が鳴った。

 そんな二人だが、一日に何度も繰り広げられるエアコンのリモコン戦争と違って、テレビのチャンネル争いは無い。2人とも、あまりテレビを見る習慣が無いからだ。

 ひかりはラジオを聞くのが好きだった。電波を受信するラジオではなく、スマホのアプリを使っている。ネットさえつながれば、どこにいても、どの地方の放送でも聞けるスマホのアプリはひかりの宝物だ。機械が苦手のひかりも、このアプリだけは、兄に教えてもらってちゃんと使えるようになっている。全国の様々な放送局の番組にポエムを送るのが、ひかりの趣味になっていた。まだ一度も採用されたことは無いが。

「ところで……」

 エアコン戦争を諦めた奈々がひかりに聞いた。

「遠野さんはどう思う?両津くんが言ってたこと」

 ひかりが首をかしげる。

「この教習所には不思議があるってこと」

 ああそれか、と言う顔をするひかり。

「私にはよく分からないけど、きっと、ちゃんとした理由があるんじゃないかな」

「どうしてそう思うの?」

 奈々がひかりの顔を見つめる。

「えーと、陸奥教官、怒るととっても怖いけど……奈々ちゃんみたいに」

「それはもういいの!」

 奈々の眉毛がちょっと三角になる。

「でも、本当はとっても優しくて、信頼できる人だと思うから、かな」

 奈々はハッとする。この子は純粋に人を信じることができるんだ……いい子だな。そんな風に思い、少しだけ頬が赤くなる。

「あれ?奈々ちゃん、顔赤くない?」

「な、なんでもないわよ」

「1度しか上げてないのに暑くなっちゃった?」

 奈々がかぶりを振る。

「なんでもないって言ってるでしょ!」

「じゃあ1度下げちゃおっと」

 ひかりがリモコンに手を伸ばす。もうあきらめたとばかりに、奈々がため息をもらした。

「それより……実は私も、ちょっと不思議に思ってることがあるの」

 奈々のいつにない真剣な声音に、ひかりがリモコンに伸ばした手を止めた。

「まずはあなたのこと……遠野さんの操縦技術、私達と比べるとあんまり上手ではないわよね」

「そんなに気を使わなくていいよ、私とっても下手っぴだよ」

 なぜか嬉しそうに言うひかり。

「なのに、どうして私達と同じA級ライセンスコースなの?」

「うーん……それは私も不思議なんだぁ。ニコニコロボット教習所七不思議のひとつに違いないよ、ぜったい」

 またひかりが嬉しそうになる。

「それだけじゃないわ。マリエちゃんのことだけど、彼女のこと授業で見たでしょ?」

「うん」

「彼女の実力は、すでにA級ライセンスを超えてると思うの。それなのに、わざわざアムステルダム校からここへ転入して来た……何かあるとしか思えないわ」

 うーんと唸るひかり。

「きっとそれは、ニコニコロボット教習所七不思議の2つ目だよ!」

 奈々は、さっきこの子はいい子だ、と思ったことを反省していた。


 薄暗い部屋に、いくつもの表示モニターの光がちらついている。ここは教習所の地下に作られた研究用のラボだ。殺風景でなんの装飾もないその部屋には、所せましと様々な機械やコンピュータ、測定器などが並んでいる。

 陸奥はひとり、その中のひとつの画面をじっと見つめていた。

「入ってもいいかしら?」

 入り口の自動ドアがスッと開くと、そこには久慈の姿があった。

「こんな時間まで熱心ね」

 久慈は陸奥が座っているすぐそばまでやって来る。

「これをどう思う?」

 陸奥が指し示したディスプレイには、様々なデータやグラフが表示されている。

「教習生の上位十人のデータだ」

 グラフには「共鳴率」、データには「適合率」の文字が見える。

「なるほど……あなたが熱中するわけね」

 トップはマリエ・フランデレン、二番目に遠野ひかり、三番目は泉崎奈々。そこから下は、ほぼ同率となっていた。

「神を目覚めさせるのは誰かしらね」

 陸奥はふっと息を吐くと久慈の方に向き直る。

「ロボットの暴走事故だけど、世界全土への広がり方が我々の予想よりずいぶんと早い」

「アムステルダムでも増加しているわ」

 二人は暗い眼差しで見つめ合った。

「間に合えばいいんだが」

「あまり根を詰めないでね……」

 そう言って離れようとする久慈の手を、陸奥がすっと取る。

「おかえり、彩香」

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