第211話 マルビシ7000
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「なんじゃこりゃー!」
南郷は新型コンセプトカーのコクピットで頭を抱えていた。
操作系があまりにも先進的で、運転方法がサッパリ分からないのだ。
「これって関西のメーカーやろ? カッコつけすぎやで」
コンソールのタッチパネルの英語表示を順にチェックしながら、南郷が悪態をつく。
このマシンはマルビシ自動車の7000だ。両津の愛車がマルビシ5000なので、その発展型だと思われた。だとすれば、おそらく普通車仕様の自家用ロボットの中では高出力に違いない。相手は軍用ロボットである。馬力が大きいにこしたことはない。南郷はそう考え、この機体に直行したのだが……。
「マニュアルないんか?!マニュアル!」
ダッシュボードをごそごそと探るが、何も見当たらない。
「こういう時にアニメやったら、マニュアル見ながら敵を撃破するんちゃうんか?!」
「南郷さん」
無線に、良子の声が入電した。
事前に、ロボット標準無線はチャンネル15で行こう、と打ち合わせ済みなのだ。
「こっちは苦戦中や、あまりにも最先端で立ち上がることもできひん!」
「では、わたくしは先にあいつを足止めします」
「すまん!できるだけ急いで俺も行くわ!」
南郷の正面ディスプレイに、スッキリとしたデザインの新型ロボットが映る。トヨオカ自動車の新型F50だ。奈央の愛車F20の正統派後継車と言えるだろう。その基本動作部分は宇奈月工業が下請けとして設計したものである。つまり運転のクセを、良子は熟知しているのだ。
『マニュアルを表示しますか?』
マルビシ7000のコクピットに、コンピューター音声が響いた。
「紙とちゃうんか!頼む!急いで表示してくれ!」
正面ディスプレイの右上に、マニュアルらしきページが表示された。
南郷の特技の一つに速読がある。リカヌ共和国等で紛争に巻き込まれた経験のある南郷は、のんびりと情報を読むことの危険性を痛いほど知っていた。そして身につけたのが速読術なのだ。
ものすごい勢いでページをめくる。もちろん、めくっているのは南郷の指示を受けたコンピューターではあるのだが。
「よっしゃ!これでなんとかなるやろ!」
南郷はシート左右にある運転レバーを、両手でぐいっと引く。そしてひと声叫んだ。
「立つんや!」
なんと、マルビシ7000の運転はレバーとスイッチだけでなく、音声認識が使われている。
「これ、あんまり売れへんのとちゃうか?」
南郷はレバー操作と同時に右のペダルを踏み込みながら、そう思っていた。
動かすのにいちいち声を出すって、必殺技を叫ばなあかんスーパーロボットやん。
「まぁ初心者には便利かもしれへんけど」
ヒザを折り、お姫様にかしづくナイトのような姿勢だったマルビシ7000は、ヒザを伸ばして力強く立ち上がった。
「マルビシ、大地に立つ!や!」
南郷はひとつ深呼吸すると、よく通るだみ声で叫ぶ。
「さぁ、アイアンゴーレムさんのところへまっしぐらや!」
マルビシ7000が、テロリストのロボットへ向けて歩み始めた。




