第199話 新型
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「奈々ちゃん!奈々ちゃん!」
とても興奮しているのか、ひかりがまるで悲鳴のような声で奈々を呼んだ。
しかもぴょんぴょんしている。
「どうしたのよ?ひかり」
「あれ、なんか見たことあるような気がする!気がする!」
「気がするって、どれよ?」
「あれだよ、あれ!」
ひかりが指差す先に、一台の自家用ロボットが立っていた。
他の新型ロボより、少しだが角張ったデザインだ。だが、無骨さの中にも現代風の洗練されたセンスが垣間見える。これから発売される新型ロボらしい。
「よく気づいたな、さすが遠野くんだぜ。あれは君の愛機、火星大王さんの新型だぜぇベイビぃ〜!」
正雄が芝居がかった口調で見栄を切った。両手を広げ、片足立ちだ。
「ほえ〜!」
いつものように、不思議な声を漏らすひかり。
今ロボット部の面々の前にさっそうと立っているのは、紛れもなく火星大王の新型だ。巨大なプレートに「ニュー火星大王」の赤い文字が踊っている。
あまりテレビを見ないひかりは知らないのだが、実はここ最近この新型のCMがよく流れていた。
♪ボクのおうちに再び王者がやってきた〜!
その名はニュー火星大王、正義のロボット〜!
新型マーズキングっ! おぅ、おぅ、おぅ!
なんてCMソングが、子供たちの間で大流行している。
数年前に大ヒットしたアニメ映画『怪人二十面相4世の城』に火星大王が登場、再びその人気に火が付いた。怪人二十面相のひ孫と明智小五郎のひ孫が対決する、痛快アクション活劇である。もちろん、小林少年の孫も登場する。その中で主人公の怪人二十面相4世は、中古の火星大王を自らの手でチューンナップ、神奈川県警のパトロボット隊と大立ち回りを演じてみせる。おかげで火星大王は子供たちの間で大人気となり、アニメ好きの大人たちからは新型の復活を望む声が多く上がったのだ。そして今年の東京ロボットショーで初お目見えとなったのである。
「おニューもカッチョイイ〜!」
ひかりの目がハートになっている。
「ひかりがそんなこと言ったら、火星大王さんがスネるわよ」
「ううん、一番可愛いのは私の火星大王さんだよ。でも、この火星大王さんもとってもステキだなぁって」
ひかりは、目の中のハートが増えたような笑顔になった。
「なになに……パワーが旧型の倍近くになってるぞ」
正雄はプレートに表示されている諸元表を読みつつ、何かぶつぶつとつぶやいている。
「怪人二十面相4世の人気で復活したのですわね」
「その映画なら、私も見たですぅ。火星大王で、土手とか爆走してたですぅ」
「あのシーンはほぼフルアニメでしたわ。二コマ撮りで、ディズニー並にぬるぬるでした」
「ぬるぬるですぅ」
「ヤツはとんでもないものを盗んでいきました……あなたのお金です!」
奈央と愛理はオタク目線で分析している。
「遠野さんのロボット、四角くてゴツゴツしてるのに、新型はちょっと丸っこいわね。こっちのほうが可愛くない?」
「ココ、そんなこと言ったら遠野さんに怒られるぞ」
「私、怒らないよ」
心音と大和の会話が耳に入ったのか、ひかりが割り込んできた。
「だって、どっちも可愛いもん。ね、マリエちゃん」
「うん。私もそう思う」
ロボット部の面々が火星大王でひと盛り上がりしている時、両津は全くの逆方向に目を向けていた。
「さすが世界最大のロボットショーやなぁ」
その目に写っているのは、各ブースで笑顔を振り撒いているコンパニオンたちだ。
「ロボットもやけど、こっちも目の保養になるなぁ」
ニヒヒヒ、と聞こえてきそうなほどの上機嫌である。
ロボット以上に彼の目をひきつけているイベントコンパニオンだが、その仕事はひと昔前とは少し違っている。彼女たちは新型ロボットの機能や性能を熟知しており、来場客の質問にテキパキと答えてくれる。しかも彼女たちの多くは、様々なロボットのデータを知識として持つ「ロボットエキスパート」の資格を持っているのだ。以前の、壁の花的役割りを超え、イベントコンパニオンも日夜進化しているのである。
「両津くん、何見てるの?」
ひかりの呼びかけに、両津はあわてて振り向いた。
「いやいや、他にはどんなロボットがあるんかなぁ、なんて見てたんや」
「おおかたイベコンさん見てたんじゃないの?」
奈々の鋭い突っ込みが飛ぶ。
「いやいや、ボクはイベコンよりロボコンが好きやなぁ」
苦しい言いわけである。
「いべこんて何ですかぁ?」
小首をかしげた愛理は、いつも可愛い。
「それはね愛理ちゃん、殺人現場に残された、」
「血痕!」
「王様ゲームじゃ〜!」
「合コン!」
「おめぇに惚れたずら〜」
「ぞっこん!」
「フライングドライブシュートだ!」
「スポ根!」
「両津くん」
「終わコン!」
「なんでじゃー!」
「奈々ちゃん、顔が赤いよ?」
「エアコン!」
「私が奈々ちゃんとしたい、」
「結婚!」
今度はひかりが小首をかしげた。
「奈々ちゃん、私と結婚したいの?」
「く、口がすべっただけよ!」
奈々の頬は真っ赤だ。
「そっかー、すべったのかぁ」
ひかりが不思議そうな表情になる。
すべったって、それ本音ですってことやん。
心の中で、両津はニヤニヤしていた。




