第198話 東展示棟
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
東京ロボットショーは、ビッグサイトの全館を貸し切って開催されている。東、西、南の全展示棟を始め、例の逆ピラミッド型の会議棟まで全てである。
展示棟では新型やコンセプトモデル等ロボットの展示、会議棟ではロボットにまつわるシンポジウムや発表会などが開かれている。
ひかりたちはまず、メイン会場である東展示棟に来ていた。
「うわぁ!めっちゃ広いやん!」
「向こう端がかすんで見えるぜ、ベイビー!」
正雄はちょっと大げさだ。
東展示棟は6つのホールで構成されている。各ホールは90メートル×90メートルで、3ホールをつなげて使用したり、6ホールすべてを使用することが可能だ。今回は間仕切りの全てを取り去り、巨大な空間に各種ロボットがきらびやかな姿を見せていた。
「よく広さを表わすのにテニスコート何面分とか言うけど、これじゃ見当もつかないわ」
奈々も驚きの声をあげた。
彼女の代わりに答えておくと、多少のデコボコを無視して計算すると、東展示棟はテニスコート約31面分の面積を誇っている。まさに広大な空間なのである。
「ちゅうもーく!」
南郷が大声を上げた。
「ここからは自由行動や。お昼の12時まで、好きなように見て回ってええぞ」
皆から歓声が上がる。12時までならたっぷり二時間はある。展示されているロボットを、思う存分見学できそうだ。
「ほんで12時に会議棟のフードコートに集合や。そこでみんなで昼メシを食う!」
「はーい!」
元気な返事である。
ビッグサイトでは多くの飲食店が営業しているが、中でもフードコートは422席を誇る大型で人気も高い。ひかりたちには関係は無いが、アルコール類やおつまみも充実している。
「ほな、解散!」
南郷の号令で、生徒たちは皆思い思いの方向に散り始める。
「なぁ、ロボット部はみんなでいっしょに見て回らへん?」
「両津くん、たまにはいいことを言う!」
「たまにかよ!」
ひかりのボケに両津が突っ込んだ。まぁ、ひかりにとってはボケではなく、本音の言葉ではあったのだが。
「棚倉くん、新型とか色々解説してよね」
「もちろんだぜ!俺に全てを任せるんだベイビー!」
ロボット博士の正雄が、奈々にウィンクをした。
「奈々ちゃん、顔がちょっと赤いよ? ここの温度高いのかなぁ?」
「温度は関係ないの!」
「ほえ?」
奈々がどんな話題でいつも赤くなっているのか、ひかりはいまだに分かっていないようだ。
そしてロボット部の全員、ひかり、奈々、マリエ、奈央、愛理、両津、正雄、そして心音と大和の合計9人が見学を開始した。
「どうだ? 何か分かったか?」
白谷の問いに、後藤がふぅっとため息を吐く。
「うんにゃ、誘拐未遂犯と違ってさすがに口が固いわ、あいつら」
後藤と公安の花巻は、奈央の誘拐未遂犯に続いて奥多摩のアジトで捕らえた三人の尋問にとりかかっていた。黒き殉教者のメンバー、浦尾康史、田村和宏、石井雄三である。
「そうですね。末端の下っ端ではなく、教団の正規パイロットですからね」
花巻も、その苦戦が見て取れる表情だ。
「あいつら、自分たちのことを奉仕の戦士、なんて言いやがったのは笑ったけどなぁ。ラップかよ」
トクボ会議室に、重い沈黙が流れる。
それを破ったのは夕梨花だ。
「私、なんだかちょっと嫌な予感がするんです」
今回の尋問には、現場を担当した夕梨花も同席していた。
雑談には応じる彼らも、マトハルやテロの話になるとのらりくらりとはぐらかしてしまう。だが、夕梨花にはそこに思うところがあった。
「あいつら、テロについて否定しないんです」
「お嬢ちゃん、そりゃあどういうこった?」
夕梨花が後藤に視線を向ける。
「まだ何か仕掛けてるんじゃないかと」
「と言うと?」
白谷の言葉に、少し間を開けてから夕梨花が答える。
「何もないならそう言えばいいじゃないですか。なのに否定をしない。もしかすると現在進行中の何かがあるんじゃないか、そう思えてしまって」
「でも、例のシリンダーはこちらが持っている」
そう言いながら、白谷は田中美紀技術主任に顔を向けた。
「はい。まだ分析中ですが、こちらのラボで保管しています」
「いえ、袴田素粒子によるテロかどうかは分からないんですが、何かまだたくらんでるような……」
「感かね?」
「そうですね……ただの感です」
ふむ、と白谷がうなづく。
「ゴッドはどう思う?」
「そうだなぁ」
後藤が鼻の横をポリポリかきながらトボケた声を出した。
「あいつらの態度は、たしかに何かを隠してるとは思うぜ。でも、それが何なのかはサッパリ分かんねぇなぁ」
その時夕梨花が、何かに思い当たったのか、あっと小さく声を漏らした。
「もしかして、まだ東京ロボットショーを狙ってる?」
夕梨花のつぶやきに、一同がゾッと青ざめる。
「ロボットショーの警備はどうなっている?」
「テロの目をつぶしたと言うことで、湾岸署にまかせることになりました」
白谷らに問われて、板東保則捜査主任が答えた。
「湾岸署はロボットを持っていない」
酒井弘行理事官の声が、会議室に暗く響いた。




