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第195話 取調室

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

「いいかげん黙んまりはよそうじゃねぇか」

 狭い部屋に響く後藤の声には迫力があった。常にひょうひょうとしていて、どこかユーモラスなキャラクターの彼だが、たまに発する重い声音には人を震え上がらせる覇気がある。ただ、彼がこの声を使うことは滅多に無い。大抵は相手を怯えさせすぎて、何も喋れなくなるからだ。

 ここは警視庁機動隊の特科車両隊トクボ部の取調室だ。自衛隊市ヶ谷駐屯地と隣接する警察総合庁舎内にある。最寄り駅は地下鉄の曙橋である。A3出口から徒歩五分ほどでトクボ部までたどり着く。

 部屋の外では白谷部長率いるトクボ部の面々が、部屋の様子を伺っていた。

 キドロのチーフパイロット泉崎夕梨花、その部下のパイロット沢村と門脇。三人は警部だ。田中技術主任は警部補。そして、酒井弘行理事官と板東保則捜査主任の顔も見える。

「どうしてウチで取り調べなんですかね?」

 沢村が首をかしげた。キチンとスーツを着こなしている様は、彼の真面目さを伺わせる。

「誘拐なら捜一でしょ?」

 門脇も同意した。彼はネクタイを少しゆるめ、シャツの第一ボタンをはずしている。

 捜一とは捜査一課のことだ。警視庁捜査一課は、主に殺人、誘拐などの凶悪事件の捜査を行う。ちなみに捜査二課は、詐欺、背任、脱税、不正取引、通貨偽造、贈収賄など経済犯罪の担当。捜査三課は、空き巣、引ったくり、万引きなどの窃盗事件の担当。捜査四課は、暴力団事犯の捜査を担当するいわゆるマル暴だ。その他に、事件現場に残された指紋や足跡などの証拠物を採取する鑑識課と、覆面パトカーで地域を警らし、事件が起こった場合には、初動捜査を行う機動捜査隊と言う部署もある。

「花巻くんの話だと、あの三人には黒き殉教者の影がチラついているらしい」

 白谷部長の声は険しかった。

 国際テロ組織と女子高生誘拐未遂にどんな関係があるのか?

 この事件も、テロにつながっているのか?

「だからゴッドが担当なんですね」

「花巻くんから頼まれてね。部屋とゴッドを貸してくれと」

 夕梨花の問いに、白谷が深くうなづいた。

 白谷の友人・花巻春人は公安外事四課の所属だ。しかも情報収集の統括を担当するゼロの一員でもある。まさに公安のエリートだと言えるだろう。そんな彼がここ最近トクボと行動を共にしているのは、国際テロ組織黒き殉教者との戦いのためである。黒き殉教者は、世界中でロボットによる破壊活動を行なっている。つまり、その対抗手段としてのキドロなのだ。

「本当だとよぉ、こういう時はカツ丼とか出して、食いたかったら全部しゃべるんだ、みたいなことを言うんだろ?」

 パイプ椅子に座っている後藤が、彼の後ろに立って様子を伺っている花巻に視線を向けた。

「いいえ。取り調べで食べ物を出すことは禁止されています」

「ホントかよ?」

「はい。食べ物を出すことは自白誘導になるため、裁判での証拠能力を失わせてしまいます。カツ丼だけではありません。おにぎりやパンなどの食べ物全て、もちろんタバコなどの嗜好品もダメですね。まぁ最近は警察署内は禁煙ですが」

 後藤がつまらなそうに肩をすくめる。

「じゃあ俺もカツ丼食えねえのかぁ?」

「自腹で出前を頼んでください」

「腹を満たすのは自腹って、それって高級官僚さんのダジャレかよぉ?」

「偶然です」

 花巻が少しニヤリと笑う。

 内調の佐々木といい、情報関係の連中は何考えてるのか、さっぱり読めねぇなぁ。

 そんなことを思いつつ後藤は、三人の容疑者に向き直る。

 捕らえられているのは、先日都営第6ロボット教習所で宇奈月奈央を襲った誘拐犯の三人だ。逮捕されてからずっと、黙秘をつらぬいている。

「実はよぉ、公安さんからいいネタを仕入れてるんだがよぉ」

 後藤がスゴみのある笑いを浮かべた。

「あんたら、黒き殉教者と関係があるんだってな?」

 三人の誰一人それに答えることはない。しかもほぼポーカーフェイスで、表情も変わらなかった。

「調べはついているんです」

 それまでずっと傍観していた花巻が、一歩容疑者たちに近づいた。

「我々が監視している中で、あな方は何度も黒き殉教者と接触しています。何も関係が無いとは言えないでしょう?」

「えーと、なんだっけかなぁ、アラビアータってヤツの手下なんだろ?」

 後藤がトボケた声でそう言った。

 男の一人の顔が、苦虫を噛み潰したように変化していく。

「アヴァターラ様だ」

「あん?」

「アラビアータじゃない、アヴァターラ様だ」

 地の底から響くような、怒りの乗った低音だ。

「やっぱり仲間じゃねぇかよぉ」

 後藤がニヤニヤと笑顔を見せる。

 すると、もう一人の男が顔を上げ、後藤に視線を向けてきた。

「裏切り者め」

「はぁ?」

「お前の裏切りは聞いている」

「裏切り者には死を!」

 もう一人も大声を出した。

「花巻さんよぉ、簡単に白状しちまったぜ?」

「いえ、尋問はこれからです。どうして宇奈月家のお嬢さんを狙ったのか、それを伺わなければ」

 花巻の言葉は丁寧だが、逆らうことは許されない鋭さを持っていた。

「じゃあ俺が尋問してやるぜ。あんたら、痛いのは嫌いかぁ?」

 三人に恐怖の色が浮かぶ。

「何言ってやがるんだ?! 日本の警察には拷問する権利なんて無いはずだ!」

「警察にはな」

「お前ぇ、警部だろーが!」

「違うんだなぁ。今は謎の組織に雇われた傭兵なんだよなぁ」

 後藤が不敵にニヤリと笑った。

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