第194話 閑話・職員室2
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「お茶でもいれましょうか?」
昼休みの職員室。昼食を終えた三人はくつろいでいた。南郷、久慈、陸奥の3人である。
「あかんあかん!久慈さんにそんなことさせたら俺、雄物川さんにめっちゃ怒られてまうわ。俺がやりますからそのまま座っていてください」
そう言うと南郷は、職員室奥の棚へと向かった。
「ティー? オア、コーヒー?」
「前にもそんなこと聞いて、結局コーヒーしかなかったですよね?」
陸奥が笑顔でそう言った。
「甘い!たっぷり蜜のかかった大学芋と同じぐらいあまーい!」
「じゃあ紅茶をお願いします」
南郷は例によって、コーヒーメーカーのポットに落とされているコーヒーを紙コップに注ぎ始める。三人分だ。それをお盆に乗せて陸奥と久慈の所へ戻ってきた。
「はいこれ。これはコーヒーとちゃうんや、コーヒー味の紅茶なんや!」
「味だけでなく、見た目もコーヒーですよこれ」
久慈が紙コップの中を、まじまじと見つめている。
立ち上る香りがとても香ばしい。
「香りもコーヒーだな」
陸奥がうなづいた。
「じゃあこれのどこが甘いんです?」
久慈の問に、南郷がニヤリと右の口角を上げた。
「砂糖たっぷりのコーヒーやから甘いんや〜!」
少しの沈黙の後、ズズッと三つのコーヒーをすする音が職員室に響いた。
「ところで南郷さん、ロボットの授業はどうでした?」
「あかんあかん、あいつらロボットが好きすぎて、自分の趣味の話しかせぇへんねん」
陸奥の問に、南郷が肩をすくめた。
「プラモデルが〜とか、特撮が〜とか、アイスが〜とか」
「アイスはロボットと関係ないですよ?」
久慈の疑問に、南郷は再び肩をすくめる。
「趣味のロボット話が盛り上がったら、その先はただ好きなことの話に突入しよるんや。困ったもんですわ」
南郷につられて、陸奥と久慈も苦笑する。
あっという間に冬休みの期間を過ぎ、この教習所ではすでに高校相当の各授業が始まっていた。普通科高校では通常、必修科目として国語、地理歴史、公民、数学、理科、保健体育、芸術、外国語、家庭、情報などを学ぶ。そしてここでは専門科目として「ロボット」と言う授業が追加されていた。
「まぁロボットは普通科の必修科目ではないですからね。あまり厳しくする必要は無いですよ」
「そうやなぁ、そう考えんとやっとれませんわ」
「そんな事言いながら南郷さん、結構楽しそうですよね?」
「分かりまっか?」
南郷がおどけたような表情を見せる。
「やっぱり」
陸奥と久慈も笑顔を深めた。
「ザキーズの体育も、盛り上がってるらしいで」
「盛り上がってるって、授業なのにですか?」
久慈が呆れているのか、楽しくて笑顔なのか、判別しにくい表情を浮かべた。
「ザキーズの二人が見本を見せたんやけど、あまりにもすごい技を入れすぎて拍手の嵐やったみたいや。それに乗せられて、二人の体操技大会みたいになって、ひたすら演技して拍手、演技して拍手の繰り返しやったらしいで。ほんま、ザキーズもアホやなぁ」
「まあ楽しそうでなによりですね」
「正解や!楽しないと、なーんにも身につかんで」
「拍手してるだけじゃ、やっぱり身につかないと思いますけどね」
「それも正解や!」
少しの沈黙の後、ズズッと三つのコーヒーをすする音が再び職員室に響いた。
「そう言えば、あの話聞きました?」
「あの話?」
「ええ、新しい素粒子が発見されたって言う」
久慈の言葉に、陸奥と南郷がうなづく。
「なんや、今度のはYのカタチしとるって言っとったなぁ。しかも、今の所袴田素粒子センサーで検知でけへんって」
「そうみたいですね」
「やっかいやなぁ」
再び流れる沈黙。
そんな中陸奥が顔を上げ、二人を見つめる。
「もしかすると遠野の暴走には、Y型の素粒子が関係しているかもしれませんね」
「それ、あるかもやなぁ」
「Y型を検知できるセンサーって、いつ頃完成するんでしょうね?」
久慈の疑問に、陸奥が腕を組んで考え込む。
「それは分からないですね。袴田さんのチームが、全力で開発を進めてくれているとは聞いてますが。なにしろ未知の素粒子を発見したばかりですからね」
「実は俺も、ちょっと期待してることがありまんねん」
「両津くんのことです?」
「そう、両津の共鳴の謎が解けるんやないかって」
袴田素粒子は、左脳の細胞の中にあるX染色体と共鳴する。その原理はハッキリとはしていないが、その共鳴率の高さがここでは重要になってくる。男子の性染色体はXY、一方女子はXX、そのために女子の方が共鳴率が高くなりやすいと言われて来た。だが、Y型の存在で、その常識がくつがえるのかもしれない。
「なんにしろ、センサーが出来てからの話やけどなぁ」
少しの沈黙の後、再び三つのコーヒーをすする音が職員室に響いた。




