第187話 犯人を追え
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「いったい何者なんや?!」
レスキューロボのコクピットに南郷の声が届いた。
「まずはあいつらを捕まえないと!」
陸奥と南郷は二台のレスキューロボで、誘拐未遂事件の犯人を追っていた。
事件発生後すぐに、両津から職員室に連絡が入ったのだ。
『センセ大変や!今、宇奈月さんが変なオッサンらに拉致されそうになったんや!』
雄物川の判断は素早かった。
『状況の詳細は久慈くんが生徒たちから聞いておく。陸奥くんと南郷くんはそいつらを追ってくれ』
その時、久慈の声が陸奥と南郷のコクピットに入電した。
「学食に食材を納入している宇奈月フーズに確認をとった所、東京港の食品倉庫で、本来ここに来るはずだった社員の皆さんが縛られた状態で発見されたそうです」
宇奈月フーズは、企業や病院、学校などでの食事提供のための食材を、卸売市場から仕入れて納入する、いわゆる食材納入業だ。食品卸業とも言われている。
経済産業省の調査によると、2020年度の食品卸業界の市場規模は約86.2兆円で、前年から18.2%増となっている。フードビジネス全体の市場規模は193.5兆円、成長率は2.0%増と言うから、この業界がいかに急速に伸びているのかが分かるだろう。その中でも宇奈月フーズは年間2兆5,776億円の売上を誇る、この業界トップの企業だ。もちろん、奈央の父・公造が総帥を務める企業体・宇奈月グループの一員である。
「見えたで!」
メインディスプレイに、港湾施設が映し出されている。橋や地下道などが無いここの出入り口は、ヘリを除けば船に限られる。そのためここにはしっかりとした港湾施設が作られていた。数隻の船が入れる船だまりに、コンクリートの船着き場が突き出ている。
逃走中の男たちは、そこに停泊する船をめざしているようだ。そのボディには、宇奈月フーズの文字が見える。巨大なマジックハンド状のクレーンが、船体側面の接岸金具をつかみ、船着き場に引き寄せていた。
「逃がさへんでぇ!」
南郷のレスキューロボが走りながら、ぐっと姿勢を低くする。そしてヒザと腰のバネを使い、思いっきりジャンプした。ヒトガタなどの軍用ロボットと違い、レスキューロボは身軽なのだ。その巨体は逃げる男たちの頭上を超え、彼らの進行方向に着地した。
ズズーン!
地響きに三人の男たちが一瞬ひるむ。
だが彼らは、食品納入にまつわる端末や印鑑などを入れているはずのウエストポーチから拳銃を取り出したのだ。
「そこをどけっ!さもないと撃つぞ!」
男の一人が、少し上ずった怒声を張り上げる。
「逃がすわけあらへんやろ、このアホたれが!」
そんな南郷の声を合図に、三人は発砲を始めた。
キン!キン!キン!
埋立地に耳障りな金属音が響いた。
拳銃の弾丸がレスキューロボに命中したのだ。だが、今のレスキューロボは外部装甲を強化したばかりである。全ての弾丸は弾き飛ばされ、ポチャンと連続で音を響かせて海へと落ちた。
「あきらめろ!」
陸奥はそう叫ぶと、右マニピュレータで一人の男を掴み上げる。
「うわ〜!」
握りつぶされる!
男たちがそんな恐怖を抱いた時、拳銃がコンクリートを打つ音が聞こえた。三人とも銃を手放し、桟橋前の道路に投げ捨てたのだ。
「よしよし、いい子ちゃんやなぁ」
南郷がニヤリと笑った。
その頃学食には久慈が駆けつけていた。ひかりたちに事件の詳細を聞くためである。余程あせっていたのか、わずかだが髪が乱れている。
「それで宇奈月さん、心当たりは無いの?」
「ワシントンクラブ!」
聞かれてもいないひかりがそう叫ぶ。
「ひかり、それはもういいから、今は奈央の話を聞きましょ」
落ち着かないひかりを、奈々がいさめる。
いや、ひかりだけではない。ここにいるロボット部全員の心は落ち着かなかった。なにしろたった今、テレビや映画にしか存在しないと思っていた出来事、誘拐未遂が目の前で起こったのだ。しかもその対象は奈央だと言う。
「それが……」
奈央が口ごもる。
「どれが?」
「ひかり!」
「てへぺろ」
あまりの事態に、ひかりはどうして良いのか分からずに混乱しているようだ。
そして奈央が重い口を開く。
「わたくし、小さな頃からこういうことがよくあるんです」
一同に驚きが広がった。
奈央の父・公造は、宇奈月銀行をトップとする巨大企業集団「宇奈月グループ」の総帥である。その一人娘のことを、犯罪者や犯罪組織が放っておくはずがない。17年間の人生で何度も、同様の拉致未遂事件が起こっている。だから奈央には、犯人の予想が全くつかなかった。
「身代金目的なのか、お父様の会社に要求があるのか、わたくしにはサッパリです」
実家に帰ると奈央には専属のメイドがいる。三井良子だ。奈央が生まれてからずっと世話をしてくれている、第二の母とも呼べる存在である。だが彼女には奈央付きのメイド以外にも大切な仕事があった。奈央の護衛だ。沖縄出身の彼女は、沖縄空手の有段者である。奈央に何かがあった場合、彼女は身を挺して奈央を守る。実はそれが本来の彼女の役目と言える。
「そうね、それはお父様からうかがってるわ」
奈央の免許合宿を聞いた公造は最初、ものすごい勢いで反対した。だが雄物川の真摯な説得でOKを出した経緯がある。なにしろ海のど真ん中の埋立地だ。侵入者の危険はまず無いだろう、と言うのが公造の最終的な判断となったのだ。まさかそれが、こんなカタチで破られるとは。
「こいつら、どうするんや?」
陸奥と南郷は、教習所には似つかわしくない無骨な部屋にいた。拘束室だ。分厚いコンクリートの壁と素粒子防御シールドで囲われている。二人の前には、これも分厚い防弾ガラスの窓があった。そこから見える室内では、さきほど捕らえた男たちがひざを抱え、茫然自失状態である。
「雄物川さんが、公安の花巻さんに連絡するそうです」
「なるぼど。尋問は公安さんがやってくれるんやな」
ホッと胸をなでおろす二人であった。




