第185話 医局会議
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
会議室にコの字型に長机が並べられている。前方スクリーンには、患者の受診状況や問題症例の電子カルテの内容等が投影されている。
ここはUNH国連宇宙軍総合病院の第三会議室だ。現在医局会議の真っ最中なのである。白衣を着た多くの医師が参加しているが、一様にその表情は暗い。
通常の医局は、大学病院や関連病院に所属する医師の集団のことを言う。医局の役割の中心は、地域医療のバランスをとるために関連病院などに医局員を派遣すること。つまり、医師の供給だ。そして医師が医局に所属すると、学位の取得や症例研究などを行なうことができる。また、研究において師事したい教授がいる場合は、その教授の医局に入ることになる。簡単に言うと「教授を頂点としたピラミッド構造の組織」こそ医局である。だが、UNH国連宇宙軍総合病院では便宜上「医局」と呼ばれてはいるが、その実この病院に勤務する医師全員の集合にすぎなかった。他科の状況を医師全体で把握するのは、非常に重要なことである。そのため、この医局会議は毎週のルーティンとなっていた。
「では、精神科の栗原先生からも、症例報告をお願いします」
栗原と呼ばれた白衣の男が、卓上に全員分用意されているスタンドマイクに顔を寄せる。
「ここ数ヶ月と同じです。この一週間でも、例の症例が増加しています」
例の症例。それは素粒子内科の面々を困惑させ続けているあの症状だ。
何かの声が聞こえる、機械から声が聞こえる、ロボットが返事をした。
そんなことを訴える患者が、各科で増加しているのだ。
頭痛で内科を受診した患者が、そのせいで頭が痛いのでは? と申告したり、自分の心の不安を精神科に相談に来た患者が、不安の原因がそれだと語ったり。
その全てが、素粒子内科に回されて来るのだ。
「牧村さん、そちらの状況は?」
副院長の佐山玲子が、素粒子内科のチーフドクター・牧村陽子に視線をむけた。
「確かに患者は増えていますが、ほとんどの患者に素粒子反応はありません。あっても非常に微弱なものなので、ワクチンの免疫反応か副反応だと判断しています」
副院長は、ふむとうなづいた。
「で、原因については何か分かりましたか?」
陽子は、隣に座っている彼女の部下、長谷川潤子に目をやった。
「それについては私から……と言うか、青年、説明したまえ」
「へ?」
いきなりの指名に、研修医の三田大輔が変な声を漏らした。
「あ、はい」
大輔はあわてて立ち上がる。その必要は無いのだが。
一同の視線が、大輔に集中する。
今から話すことは、大輔もついさっき陽子と潤子から聞いたばかりだ。
うまく話せるといいのだが。
「えーと、今日この場で、全員で検討したいことがあるのです」
大輔の声は、心なしうわずっている。
「素粒子内科の隔離病棟は、最近ずっと東郷大学の袴田研究室と合同で治療と研究を行なっているのは皆さんもご存知ですよね?」
大輔に集中している全員のうなづきが見える。
「実は、その過程で非公式に打診があったのです。情報を提供するので合同で研究を進めてくれないか、と」
大輔は一度、ごくりと生唾飲み込んだ。
「つい最近、袴田研究室で新たな素粒子が発見されたとのことです」
会議室に驚愕が広がった。
人類がこれまでに発見した素粒子は、袴田素粒子を加えて18種類だ。まさか19番目の素粒子を発見したとでも言うのか?
「その素粒子ですが、袴田素粒子の亜種ではないかと」
会議室がザワつき始める。
「素粒子内科では、その新素粒子が今回の症例の原因ではないかとの仮説を立てました。現在その検証を始めています」
ちゃんと言えたじゃないか。
隣に座る潤子の目が、大輔にそう語りかけていた。




