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第184話 半ドンの日

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

『おにいちゃん、ひかりです。

 おにいちゃんは元気でやっていますか? 私はとんでもがつくほど元気です』

 ひかりは自室で兄への手紙を書いていた。今日の授業は、教習所の都合で半ドンとなったのだ。その理由は生徒たちには知らされていない。

「こんなことばっかりやっとるから、カリキュラムが遅れてしまうんやで」

 両津はそう言ったが、ひかりはそうとも限らないと思っていた。

 なにしろ暴走の毎日なのだ。工事現場の重機、ヒトガタ、レスキューロボ、そしてひかり自身の暴走で、日々暴走なのである。おかげで授業の中断や休講が、日常茶飯事になっていた。

「ひかり、いつものように声に出てるのはいいけど、とんでも元気って何なのよ?」

 同室の奈々が例によって突っ込みを入れる。半ドンの、のんびりした雰囲気に浸りながら、彼女はポットに入れた紅茶をゆっくりとカップに注いだ。立ち昇る香りが鼻孔をくすぐる。

「とんでもハップン、歩いて10分!」

「何なのよ、それ」

 奈々がフフッと笑った。

 「とんでもハップン」は「とんでもない」と英語の「happen」「happening」を結びつけた言葉だ。「とんでもない」を強調する時に使われる。その後の「歩いて10分」は、語呂が良いので付け加えられたもので、広告やテレビのCMに使われて大流行した。1950年頃のことだ。

「なんか古そうな言葉よね」

「お父さんが考古学者だもん」

 ひかりがニッコリと笑う。

 古いと言われた時にはこれを言えばいい。そう両津に教わったのだ。

「そう言えば半ドンて午後から休みのことって奈央ちゃんが言ってたけど、多分半は、丁か半か! じゃなくて半日の半でしょ? でも、どうしてドンって言うのかな?」

「さあね。私も知らないわ」

 奈々が首をひねる。

「でも昔、お昼を知らせるのに太鼓をドンて鳴らしたから……なんて聞いたような気がするかも」

「奈々ちゃん、すごーい!」

「いやいや、そんな気がするだけよ。知らんけど、ってヤツ」

 残念ながらハズレだ。「半ドン」は「半分ドンタク」の略である。「ドンタク」はオランダ語で「休日」を意味する「ゾンターク」に由来している。「博多どんたく」の「どんたく」も同様で、明治時代から使われている言葉だ。どちらにしろ、これも古い言葉には違いない。まあ、ひかりの父は考古学者なのだから。

「今度奈央ちゃんに聞いてみよーっと」

 そう言うとひかりは、再び兄への手紙にとりかかる。

『ここでお兄ちゃんにとってもうれしいお知らせです!

 この前、私に新しいお友達ができました!

 三つ編みがとっても可愛いココちゃんと、とっても好青年のヤマトくんです。二人はアッチッチらしいです。熱いのは多分サイコロステーキです。あとヤマトくんは、地球滅亡まであと365日!とは関係ありませ〜ん。あったりして?

 あれ? これって私にうれしいお知らせですた。てへへへ』

 奈々が、飲んでいた紅茶を吹き出しそうになる。

「もう何言ってるんだか、サッパリ分からなくなってるわよ!」

『ではまたお手紙します。ひかり』

 今日も無事にひかりの手紙は完成した。


「やはり出ませんね」

 袴田研究室では、新しく発見されたY型袴田素粒子に関する様々な検証が行なわれていた。教授の助手・小野寺舞の担当は、袴田素粒子センサーでの反応を探ることだ。だが彼女が言った通り、ディスプレイにその反応は全く出ていない。いつもなら袴田素粒子を感知すると、画面に赤いマークが表示されて警報音が鳴る。だが、ディスプレイの表示は平常そのものだ。

「となると、Y型に感染していたとしても、今までのようにセンサーで発見することはできない、と言うことですね」

 舞と同じ助手の遠野拓也は、うめくようにそう言った。暖房が効きすぎているのか、彼の額には薄い汗が浮かんでいる。

「そうなるな。これはなんとしても早急に発見方法を見つけねばなるまい」

 袴田教授の声も重い。

「ですが、袴田顕微鏡で可視化出来たと言うことは、Y型を捉えるパラメーターは顕微鏡のデータから見つかるのでは?」

「うむ、そこから手をつけるべきだろうな」

 舞の問いに、袴田がうなづいた。

 X型の亜種とも言える素粒子を検知できない。そんな危機的な状況にありながら、事態はそこまで緊迫はしていない。それは、アイの説明のおかげだ。

『Y型は穏健派と言ったところでしょうか』

 アイによると、Y型は能動的にロボットを暴走させたり、人間の意識を乗っ取ったりはしないらしい。もちろん、それを全面的に信用していいのかは、まだ疑問の残るところではある。大切なのは、人間の手でいち早く検知可能な状態にもっていくことなのだ。

「牧村先生が言っていた他の形の素粒子も、Y型と同じ理由で検知できていないのかもしれませんね」

 拓也が考え込むように言った。

 Y型を発見できたのは、顕微鏡に装備されている各種センサーの微調整を行なったからだ。他の素粒子にも、その手が使えるかもしれない。

「まあ、まずはこいつをセンサーで見つけられるようにすることだ」

 袴田が見つめるディスプレイには、X型を全て不可視化し、Y型素粒子のみとなった袴田顕微鏡からの画像が表示されている。

「遠野くんは引き続き顕微鏡の調整を続けてくれ。できるだけ早く、他の素粒子も見つけておきたい」

「分かりました」

 袴田研究室の多忙な日々は、まだまだ続くのである。

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