第177話 春来たりなば
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
センドラルの墜落、そして暴走ロボット事案が落ち着いた翌日、都営第6ロボット教習所では、大事を取って全生徒の健康診断が行なわれていた。およそ50名に登る全員の検査は、一日がかりとなりそうだ。もちろん本日の授業は全て休講である。
正月にひかりが心配した通り、ロボット教習のカリキュラムがどんどん遅れていく。生徒たちの間では、冬休み中の免許取得を危ぶむ声も広がり始めていた。春はもう近い。
「遅れているカリキュラムですが」
久慈が陸奥と南郷、そして雄物川に視線を向ける。
「やはり、冬休み中の終了には無理があります」
ここは都営第6ロボット教習所の地下、最新の設備が整った袴田素粒子の研究用ラボだ。白衣を着た何人もの研究者が、忙しげに何かの作業にいそしんでいる。白い床、白い壁、白い天井。殺風景で何の装飾もないその部屋には、所せましと様々な機械やコンピュータ、測定器などが並んでいた。
「そうやろなぁ、いろんなことがありすぎたもんなぁ」
南郷が肩をすくめる。
「その度に休講ですからねぇ」
「そうだな」
陸奥と雄物川も渋い顔だ。
「今日の検査で、生徒たちの最新の数値を把握できると思います。適合値の低い生徒は、親元に返したほうがいいかもしれません」
「ほんでも、免許取るための合宿に来て、取れまへんでした〜、ですむやろか?」
南郷の疑問は当然だ。いくら学費全額免除の教習所とはいえ、まるまる一ヶ月の冬休みを費やすのだ。それが全てパァです、は通るはずがない。
「そこで考えたんです。まぁ、所長の許可をいただかないと実現は無理ですけど」
久慈がフッと笑みを浮かべた。
「なんだね、言ってみたまえ」
「帰ってもらう生徒たちは全員、自宅に一番近いロボット教習所に編入の手続きをするのはいかがでしょう? もちろんここでクリアした成績を送れば、続きから教習を受けることができます」
「なるほど」
陸奥が右手をアゴに置いてつぶやいた。
「必要な学費は、ここの予算から捻出が可能です」
「そうだな。それについては、私の決済があれば大丈夫だ」
「恐れ入ります」
ふむと、雄物川がうなづく。
「では、その方向でいこう。だが、残ってもらう生徒たちはどうするのかね? 高校に戻らなくてはならないのではないか?」
「それなら大丈夫です。私たち三人で手分けすれば、高校の勉強を教えることは可能です」
陸奥が笑顔を見せる。
「そりゃ俺ら教員免許持ってるけど、あいつらに教えるの、大変そうやなぁ」
普通科では、国語・地理歴史・公民・数学・理科・保健体育・芸術・外国語・家庭・情報などを中心として学ぶ。この教習所の三教官が工夫すれば、その全てをカバーできるのだ。そして体育にはレスキュー部のザキーズがいる。
「もちろん、本人と各家庭の承諾が必要ですが、それは私に任せてください」
「久慈さんたのんますわ、俺そーいうの苦手や」
「よし、その線で動いてくれ」
雄物川が三人を見渡した。
「分かりました」
「ところで、ここに残ってもらうのは誰だね? A級ライセンスコースの7人かね?」
「それが……」
陸奥がコンソールのボタンを操作する。
四人の前のディスプレイに何かのデータが表示された。
「これは?」
「生徒たちの検査データです。健康診断は現在進行中ですが、データが分かり次第ここへ転送されてきています」
画面のグラフには「共鳴率」、データには「適合率」の文字が見える。
「これまでの検査では例の7人の数値が抜群に高かったのですが、今日の検査で発見がありました」
陸奥がコンソールを操作すると、二名の生徒の検査結果が表示された。
「この二名の数値が、前回と比べて格段に上がっていたのです」
久慈と南郷、雄物川がディスプレイに見入る。
「野沢心音と、館山大和って?!」
「そう、地下倉庫で暴走ロボットを止めた二人です」
久慈の言葉に、陸奥がそう答えた。




