第176話 三つ編み
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「私のこと、どう思ってる?」
心音は自機のコクピットで操縦レバーを握っていた。
目を閉じて、まるで祈るような声音でまたつぶやく。
「ねえ、私のことどう思ってるの?」
少し下げた頭から、肩を越えて胸の前に左右二本の三つ編みが揺れている。
ほんの少し茶色がかった髪の光沢が美しい。
心音はいつも三つ編みだった。小学校高学年の頃からずっとである。
心音が小学校に上がると、美容師の母は毎朝心音をステキな髪型にしてくれた。ロングヘアの彼女の髪は、様々なアレンジが可能だったのだ。心音はそれが自慢だった。毎日学校へ行くのが楽しかった。あの日までは。
「私のこと、どう思ってる?」
小学四年生になって少したった頃、心音はクラスの友人たちにそんな質問を投げかけていた。同級生の館山大和の心配通り、新しいクラスでは心音に友達が出来なかったのだ。大和は言った。
「心音は最初ツンツンしてるから、本当の気持ちを分かってもらえないんだよ。初めからボクに対するみたいにデレてしまえばいいのに」
ちょうど流行り始めていたツンデレという言葉を使って。
「そうね……髪型だけはいい感じだと思うわ」
彼女の言葉に心音は驚いてしまった。
髪型だけなの?!
「野沢さんのお母さん美容師なんでしょ? いいなぁタダでやってもらえて」
「うん、お母さんを褒めてくれるのはうれしいわ。でもそうじゃなくて、髪型じゃなくて、私自身のことはどう思ってるのか聞きたいのよ」
その場にいた三人の少女たちは考え見込んでしまった。
そして口を同じくしてこう言った。
「髪型しか興味ないわ」
それからだった。心音が毎朝母に、必ず三つ編みをリクエストするようになったのは。
「ねえ、私のことどう思ってる?」
もう一度そう言うと、心音はフッとため息をついた。
そうだった。この質問には嫌な思い出しか無かったわ。
ちょっと自虐するように、口元に薄い笑みを浮かべる。
「心音、大丈夫?」
無線機から、大和の心配そうな声が聞こえた。
ディスプレイのワイプには、彼の不安げな顔が見えている。
「大丈夫。いつものことよ」
気丈にそう言ってみたものの、心に悲しみの色が広がっていくのを止められはしない。
「ボクの方、ぜんぜんダメみたい」
大和がアハハハと明るく笑う。
心音には分かっていた。大和はいつも、こうやって心音を元気づけようとしてくれる。とてもありがたかった。とても嬉しかった。そんな大和がいてくれたから、彼女は毎日を元気に過ごしていける。
ずっと大和と一緒だといいな。
そんなことを思うと、心の悲しみは暖かな光に包まれて薄まっていく。
ずっと大和と一緒にいたいな。
「ココちゃん、大和くん、どんな感じかな? ロボットさんの気持ちが、ズビシっと伝わってきたかな?」
ひかりが拳銃を撃つようなポーズで、二人のメインカメラを交互に狙っている。
何かをズビシっと打ち込んだ気分なのだろう。
そんなひかりの姿に、心音はプッと小さく吹き出してしまった。
なんだろう……遠野さんて、癒やしキャラすぎる。
おかげで、先程までの悲しみはどこかへ消えていた。
「ううん、ぜんぜんダメみたい。私も大和も」
「うん、ボクの方も何も聞こえないよ」
「ほんまかぁ」
二人を見つめる一同に落胆の色が広がった。
「マリエちゃん、どう思う? 私、何か感じるんだけど」
ひかりがマリエに視線を向ける。
「私も」
マリエは小さくうなづくと、少し考え込んだ。
小首をかしげて、心音のロボット頭部をじっと見つめる。
「二人にちょっと試してほしいことがあるの」
「お二人さ〜ん!マリエちゃんが、やって欲しいことがあるんやて!」
声の小さいマリエの代わりに、両津が大声を上げた。
「何して欲しいんや?」
「バイタルサインを見ながら、ロボットに語りかけてみて」
「バイタルサインて、メインディスプレイの?」
奈々が不思議そうに聞く。
「うん」
「よー分からんけど……お二人さ〜ん!メインディスプレイに表示されとるバイタルサイン見ながら、ロボットに話しかけてみてくれへんか〜?!」
心音と大和が首をかしげる。
「バイタルサインて、これよね」
普段その表示をあまり気にしたことのない心音が、確認するように表示に目を向ける。そこにはいくつかの数字と、心拍を表わしているらしい波形があった。
その行動に何の意味があるのかサッパリ分からないまま、心音はまたさっきの質問を繰り返す。
「私のこと、どう思ってる?」
心音は我が目を疑った。
心拍の波形が少しずつ形を変え始める。
心臓の動きに合わせ、定期的な脈動を見せていたそれが、まるで円の下半分のような形へと変化していく。
「笑ってる?」
心音の声が外部スピーカーから大きく響く。
「笑ってくれた!」
マリエがうれしそうに、ニッコリと微笑んだ。




