第168話 第三の目的
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
東京湾の都営第6ロボット教習所と奥多摩の暴走ロボットは、どちらもほぼ同時刻に鎮圧に至った。センドラルの落下による火災も、そろそろ鎮火が見えてきている。
教習所の地下にある対袴田素粒子防衛線中央指揮所、そしてUNH国連宇宙軍総合病院感染症隔離病室は、とりあえずの落ち着きを見せていた。
「トクボ部の白谷部長から連絡がありまして、奥多摩の暴走ロボットの対処も完了したとのことです」
「そちらで暴走していたレスキューロボットに関しても、対応できたのですね?」
「もちろんです」
リモートで繋がれた雄物川と袴田の会話に、両室内に安堵の色が広がっていく。
昨日から今日にかけて、全所員がほぼ徹夜で対応にあたっていたのだ。そこかしこから、安心したようなため息がいくつも聞こえた。
「伊南村博士、ISSには?」
「ええ。上で担当してくれたジョンソン博士とロベール博士にも、すでに伝えました」
「それは良かった」
「まぁ、米軍の迎撃ミサイルが、彼らの作戦に組み込まれていたという事実は、相当なショックだったようですけど」
その事実を伝えた時のアメリカ人宇宙物理学者ダン・ジョンソンと、フランス人宇宙生物学者レオ・ロベールの驚きは予想を上回っていた。ダンに至っては、自国のミサイルがセンドラル分割に利用されたと知り、いつもの陽気さがすっかり影を潜めてしまった。彼が言うには、これから米軍内で大騒ぎが控えているだろう、とのこと。
なぜ全てが知られていたのか?
爆発物を積んでいないSM-3に問題は無かったのか?
今後も、同様の事態が起こる可能性はあるのか?
恐らくダンは本国の司令部に呼ばれ、根掘り葉掘り話を聞かれることになるだろう。
愛菜にそんなことを愚痴ったダンが、大きなため息をついたのは言うまでもない。
「雄物川さん」
「なんでしょう?」
全てが解決を見たと思える状況だが、袴田の声はあまり明るいものではなかった。
「実は、まだ何かがあるようなのです」
「何か?」
「ええ。アイによると、今回の事件の目的は、センドラルの落下と暴走ロボットによる破壊、それだけではないそうなのです」
袴田の言葉に、指揮所の皆が息を呑んだ。
「ただ、その解明にはまだ時間がかるとのことで、今アイは、いえ山下美咲さんは病室で眠っています」
「どのくらいの時間で分かると?」
袴田の声が一瞬途切れる。そして、うめくような声音が返ってきた。
「数時間か……あるいは数日か」
「なるほど」
再び、指揮所内に重い沈黙が訪れる。
やっと事件が沈静化したと言うのに、まだ他に何かがあるらしい。
はたしてそれはどんなことなのか?
ロボットの暴走よりも危険なことなのか?
「アイの目覚めを待つしかありませんね」
「そうですね」
奥多摩の山深く、黒き殉教者のアジトの炎も、そろそろ鎮火に向かっていた。
キドロ02と03による消火剤の散布が効いたのである。
だがそんな中、後藤と夕梨花は呆然と立ち尽くしていた。
「おいよぉ、神主はどこへ行ったんだぁ?」
暴走ヒトガタ二機を鎮圧後、即座にテロの実行部隊、浦尾、田村、石井の三人は確保した。まぁ、破壊されたアイアンゴーレムのコクピットで気絶していたため、逮捕は容易であったのだが。
ところが、そのどさくさに紛れたのか、スーツ男が姿を消していた。
彼が搭乗していたヒトガタの後部ハッチは開いており、コクピットはモヌケの空だっのだ。
いったいいつ抜け出したのか?
少なくともトクボ部の三人と後藤がいるこの場から、何の気配もなく消えたのである。
「ゴッド、あいつが降車するところ、見なかったわよね?」
「ああ。全く気付かなかった」
夕梨花は彼と相まみえた時のことを思い出す。
『マトハルはその昔、忍者の隠れ里だったのです』
スーツ男の戦闘スタイルはとても変わっていた。
筋肉をあまり使わない無駄のない動き。懐剣を逆手に持つその構え。なにより、大型ロボットとは思えない素早い身のこなし。
あいつは本当に忍者だとでも言うのか?
その時、無線に田中技術主任からの声が届く。
「ドローンカメラによる映像の分析が終わりました。画像を送ります」
後藤と夕梨花が乗るコクピットのメインディスプレイに、ワイプのようなウィンドウが開いた。
表示された動画は、ゆっくりとコマ送りされていく。
「ここです」
美紀の言葉と同時に、その映像がアップになる。
ほんの一瞬映る人影。確かにコクピットから脱出しているように見える。
だが次のコマにその姿は無い。
「おそらくこれがあの男でしょう」
「おいおい、マジで忍者なんじゃねぇのか?」
そしてその映像の続きに、再びひとコマだけ、同じ人影が見えた。
突然夕梨花がコクピットのハッチを開く。そして地面にジャンプ。
「お嬢ちゃん、どうしたんだぁ?!」
驚く後藤に、夕梨花は叫んだ。
「今の映像見たでしょ?!あの奥に隠し扉がある!私はあいつを追う!」
完全に燃え落ちた格納庫の奥へと走り出す夕梨花。
「しょうがねぇなぁ」
後藤はフッと息をつくと、後部ハッチを開くボタンを押した。




