表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

167/508

第167話 ヒトガタの弱点

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

 ガキーン!奥多摩の森に大音響が響く。

 スーツ男の懐剣が、暴走ヒトガタの装甲板にはじかれたのだ。

「おいおい、それおめぇ自慢の小刀じゃなかったのかよぉ」

「小刀ではありません、この懐剣は守り刀です」

 後藤のひょうひょうとした言葉に、スーツ男のさめた声音が帰る。

 確かに懐剣はただの小刀ではない。小ぶりで携帯性に優れており、古くから武家に生まれた子女や忍者の隠し武器として使われてきた。だが彼にとっての懐剣は、災いや邪悪な物から神の力で身を護る「守り刀」の意味が一番強いのだろう。

「守り刀?」

「ええ。ある意味、神具でもあるのです」

「おめぇ、その小刀と一緒に寝るのかぁ?」

「いいえ。その寝具ではありませんよ。本当にあなたって人は」

 スーツ男がフフッと笑った。

「で、どうする? 俺が殴りつけても、おめぇの羽毛布団でも、こいつらに全く効かねぇじゃねぇか」

「それは私が聞きたいところです。あなたは歴戦の傭兵なのでしょう? であれば、暴走ロボットの止め方も知っているのではないですか?」

 後藤は以前、都営第6ロボット教習所で暴走したヒトガタと戦っている。

 だがあの時は、装甲の薄い部分を探しながら手探りでの戦闘だった。コントロールモジュールの位置は覚えているが、どこの装甲が薄いのかは記憶が曖昧であった。

「神主さんよぉ、警察無線で指揮車の田中って技術主任を呼び出して、ヒトガタのコントロールモジュールの弱点を聞いてくれねぇか?」

「おや、いい手をお持ちのようですね?」

 その時二人の無線にザザッとノイズが入り、美紀の声が届いた。

「ゴッドさん、全部聞こえてます!」

「なに?!」

「おっと、あなたに言うのを忘れていましたが、そのブラックドワーフの無線にも警察無線のハッキング機能を追加してあります」

「おいよぉ、それを早く言わねぇかよぉ」

 後藤が苦笑する。

「ヒトガタのコントロールモジュールは、右脇腹と頭部の二箇所にあります!その二つを破壊しないと、動きは止まりません!」

 そこまでは後藤も記憶していた。

「頭部に関しては、後頭部の下部が装甲が薄いので、下から突き上げるようにすれば破壊が可能です。ですが、後藤さんもご存知の通り、鉄製の普通の武器では歯が立ちません」

 そうだった。あの時はアーミーの千枚通しをぶっ刺したんだった。

 後藤自慢のアーミーナイフの材質はタングステンカーバイト、炭化タングステンだ。キドロの警棒にも使われている超硬合金の原料としても使われる最高に硬い金属である。超硬合金は、タングステンカーバイトの微粒子をコバルトやニッケルを結合材にして焼結させ、より硬度を高めたシロモノだが、通常金属では炭化タングステンが最も硬いと言ってもいいだろう。だが、もちろん今はそんなものは持っていない。

「右脇腹も同様です。前回は超硬合金製のROGAで破壊できましたが」

 美紀の言葉が不安に曇る。

「やっかいだぜ。やっぱりお嬢ちゃんが来るまで待つしかねぇようだな」

「誰を待つって?」

 その時、無線から冷静だが元気な声が聞こえた。

「お嬢ちゃんか!待ってたぜ!」

 現れたキドロが、何かを後藤へ投げて寄こす。

 キドロ用に開発された、超硬合金製の特殊警棒だ。

「ゴッドはこれを使って!」

「ありがてぇ!」

「それと、アヴァターラと言ったか?」

「そうです」

「あなたの懐剣で突きを入れれば、右脇腹の装甲なら刺し込めるはずです。それって、この刀とほぼ同じ材質なんでしょう?」

 夕梨花の言葉に、後藤が反応する。

「おい神主、おめぇ手ぇ抜いてたのか?」

「いえいえ、基本的に懐剣での戦闘は斬りつけがメインです。突きとは、思いつきませんでした」

 スーツ男が肩をすくめてニヤリと笑った。

「てめぇ」

「それにコントロールモジュールの位置を知らなかったですし」

 まあいい。今は揉めている場合ではない。

「私はキドロ02、03と共にもう一機をやります。聞こえた?」

「キドロ02了解!」

「キドロ03了解!」

 少し遅れて駆けつけてきた二機からの返事が聞こえた。

「んじゃ、やりますか」

 後藤の気の抜けたひと言で、再び暴走ロボットとの戦火が開かれた。

 後藤のブラックドワーフが、暴走ヒトガタの背後から飛びつく。

 同時に、スーツ男のヒトガタが、暴走ヒトガタの前面から肉薄する。

 その同時の動きに、即座には対応できない暴走ヒトガタ。

 まるでおんぶされるかのように飛びついた後藤は、特殊警棒をジャキンと伸ばし、暴走ヒトガタの後頭部下から突き上げる。

 それと全く同時に、スーツ男が懐剣を縦に持ち、暴走ヒトガタの右脇腹に突き立てる。

 後藤とスーツ男が見事な連携を見せたその時、すぐ隣でも同様の戦闘が展開していた。

 二機目の暴走ヒトガタをキドロ02が背後から羽交い締めにして、ほんの数秒だが動きを止める。

 そこに背後から飛びつくキドロ03。そのまま特殊警棒で、後頭部下から突き上げる。

 同時に正面から、夕梨花がROGAで暴走ヒトガタの右脇腹に突きを入れる。まるで熱したナイフをバターにさし込むように、何の抵抗もなくするりとヒトガタのボディに食い込んでいく日本刀。そしてグイッとひねる。

 一瞬の出来事だった。

 暴れていた二機の暴走ヒトガタが、ピタリと動きを止める。

 まるで時が止まったような瞬間。

 突然ガクガクと激しく痙攣する二機の暴走ヒトガタ。

 そして、ぷしゅーっと排気音を響かせて、沈黙した。

 見事な鎮圧である。

 ひかりたちの戦闘とは根本的に違う、プロの凄みのようなものが感じられた。

「ヒトガタ二機、沈黙しました」

 指揮車内に美紀の安堵の声が響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ