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第166話 オーバーライト

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

「現状を教えていただけますか?」

 UNH国連宇宙軍総合病院感染症隔離病室で、アイが誰にともなくそう訪ねた。

 都営第6ロボット教習所の地下にある対袴田素粒子防衛線中央指揮所とリモートでつないだまま、この病室内はずっと緊張に包まれている。アイが何かを告げる時以外、ほとんどの者は口をつぐんだまま静かに事の成り行きを見守っていた。

「教えていただいた2箇所に、センドラルの破片が落下しました」

 隔離病室と分厚い防疫ガラスで分断されているコントロールルームで、袴田教授が口を開いた。

「ひとつは都営第6ロボット教習所の教習コースに、もうひとつは奥多摩にある国際テロ組織のアジトに。現在、両方でロボットが暴走し、機動隊などが対処しています」

 アイが不思議そうに首をかしげる。

「そのふたつの場所に、何か関連性はあるのでしょうか?」

 袴田は逡巡する。

 アイにどこまで話していいものか?

 こんなに協力的なのだから、あまり隠し立てしなくてもいいと思う反面、相手は袴田素粒子である事実は変わらない。袴田が少し迷っていると、アイがスッと顔を上げた。

「なるほど……教習所の地下に、我々に対抗する施設があるのですね。彼らからの波動に、そんな意識が伺えます。だからこそ、そこを狙ったのだと」

 やはり彼らには全てが知られているようだ。

 どこかから情報が漏れているのか? あるいは、彼らには他に知るすべがあるのか?

 この事件が落ち着いたら、そのあたりのことをしっかりと調べねばなるまい。

「あそこにあるロボットを暴走させるのが目的なのでしょうか?」

 今度はアイが少し考え込む。

「その場所には素粒子の感染を防ぐシールドがあるのでしょう?」

「その通りです」

「と言うことは……それはあくまでも二次的なもの、副産物だとすると……本来の目的は……」

 考えを巡らすように、アイがゆっくりと頭を振る。そして少し首をかしげたまま中空に視線を向けた。

「オーバーライト……どういうことだ?」

 独り言のようにそうつぶやくと、アイは腕組みをして考え込んでしまった。

 オーバーライト? 上書き?

 コンピューターでのオーバーライトは、上書き保存のことだ。

 すでに書き込まれているところに、別の内容を書き込むこと。

 何の上から何を書き込むというのか。

「しかも……奥多摩とは目的が違う可能性があるか……」

 アイの表情が険しくなる。

「すいません、もう少しお時間をいただけませんか? ただ……」

 アイが言いよどむ。そのピンク色の唇が、ほんの少し噛みしめられている。

「ただ?」

「それを調べるには、ある程度の時間がかかりそうです。数時間なのか……数日なのか。ですがその前に、美咲さんを休ませてあげなくてはなりません」

 その言葉に、主治医の牧村陽子がコンソールの画面を確認する。

 艶のあるミディアム・ロングの髪を後ろでまとめた彼女は、袴田素粒子感染症候群隔離病棟のチーフドクターだ。背すじがピンと伸びていて、白衣がよく似合う。

「バイタルサインによると、山下さんは極度の疲労状態だと思われます。数日眠っていないのとほぼ同じと言ってもいいでしょう。主治医として私からも、アイさんと同じことを進言します」

 バイタルサイン「生命徴候」は、脈拍、呼吸、体温、血圧、意識レベルの5つで構成される健康状態の指標であり、この病室のマシンにはそれらに血中酸素濃度サチュレーションの測定結果が追加されていた。

「私も、それに賛成です」

 袴田の言葉に、陽子がアイに語りかける。

「では、山下さんをベッドに寝かせてあげてください」

「ありがとうございます」

 そう言うとアイはベッドに近づき、そのままゆっくりと横になる。

 その瞬間、アイの表情がパッと美咲のものに戻った。

「おやすみなさい!」

 にっこりと微笑むと、目を閉じて即座に睡眠へと落ちていった。

 まるで死んでしまったかのように、ピクリとも動かなくなる。

「さあ、この間に私たちにもやることがある」

 袴田は、助手の遠野拓也と小野寺舞に振り返った。

「こいつですね?」

 舞が自分のスマホの画面を、袴田に向けた。

 そこには現在研究室で観察中の袴田素粒子の様子がリアルタイムで送られてきている。素粒子を可視化する能力を持つ袴田顕微鏡からの生映像である。そこには、ごちゃごちゃとうごめいているX型の素粒子の中に、たったひとつY型の何かが見えていた。

「いったいこれは何なんだ?」

 袴田はうめくようにそうつぶやいていた。


「そう、それをねじって!」

 心音の言葉に従い、大和は鉄筋をねじり上げていた。

 地下倉庫で見つけた鉄筋は直径が13mm、長さはおよそ2m。おそらく教習所の新施設の建設用なのだろう。鉄骨と共に、多数の鉄筋が積み上げられていた。

 大和はそれを数本手に取ると、もちろんレスキューロボットの手ではあるが、束ねてグイグイねじり上げていく。一本の槍を作ろうとしているのだ。

 ここに置かれていた鉄筋はもちろん鋼である。鉄と5大元素である炭素とシリコン、マンガン、リン、硫黄で構成される炭素鋼に、クロムやニッケル、モリブデンなどの元素をある一定量以上添加した「合金鋼」だ。何も添加しない鉄に比べて、大幅に硬さや強度が高まっている。

 それを、ロボットのパワーでねじり上げていく。

 そして完成したそれは、まさに槍の形状をしていた。

 その先端は一本の鉄筋だけが30cmほど突き出されており、じゅうぶんに槍の穂先となりそうだ。

「できた!」

「大和、やるじゃない!」

 心音がうれしそうに上半身をねじって後ろを向き、ガバっと大和に抱きついた。

 相変わらず心音は大和の上に座ったままなのだ。

 心音は本当に距離感がおかしい。

 幼馴染の大和は、小さな頃からずっとそう思っていた。

 もちろん嫌ではない。それどころか、大和自身も彼女に兄妹のような感覚を抱いており、近すぎる距離感に、いつも嬉しさを感じていた。

「よし!」

 そう言って暴走ロボの方を振り返る。

 そこでは、不思議な光景が繰り広げられていた。

 両腕と両足を、5台のロボットがガッチリとホールドし、暴走ロボの動きを止めている。

「ひかりパァーンチ!」

 と言いながら、ポコポコと猫パンチを繰り出している火星大王。

 暴走ロボの頭部にピシッと人差し指を突きつけ、早口で説教しているロボットもいる。

「あんたね!暴走なんかしていいと思ってるの?!こんなことしてたら、私のお姉ちゃんにボコボコにされるわよ!」

「私にポコポコにされてまぁーす!」

 だがチャンスである。

 暴走ロボの右下腹部がガラ空きだ。

「行くよ!」

「行っておしまい!」

 大和は自作の鉄筋槍を構えて、暴走ロボに突進する。

 グギャン!

 嫌な音を響かせて、槍の穂先が暴走ロボの右下腹部に食い込んだ。

 思惑通りだ。

 大和はペダルに体重を乗せる。心音がその上から大和の足を踏み込んでくる。

 今は痛いなどと言っている場合ではない。二人分の力で押し込むのだ。

 穂先がより深く、暴走ロボに刺さっていく。

 暴走ロボの動きがピタリと止まる。

 グガガガと痙攣を始める。

「気持ち悪〜い」

 火星大王がぴょんと飛んで、暴走ロボから距離をとった。

 ガグン!ぷしゅー……。

 暴走ロボは完全に動きを止めた。

「やったー!」

 一同から雄叫びが上がる。

 ひかり、奈々、マリエ、奈央、愛理、正雄、両津、そして大和と心音も同時に叫んでいた。

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