第164話 何の音?
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「おい、おめぇの大切な本殿は無事みたいだぜ」
後藤の声色は、相変わらずひょうひょうとしている。
奥多摩山中深くの黒き殉教者のアジトは、真っ赤な炎に包まれていた。軌道上から落下してきた、宇宙ステーションセンドラルの直撃を受けたのである。
だが、後藤が言う通り、階段の先にある本殿は延焼を免れていた。ひときわ高い場所にあったのが幸いしたのだろう。その黒光りした外壁に、燃え盛る炎を赤々と写していた。
「マトハル様のお導きです」
後藤が、フンと鼻を鳴らす。
「たいていの宗教家はそう言うよなぁ。だったら、あっちこっちの格納庫が燃えてるのも、あんたらの神様のお導きだって言うのかぁ?」
「もちろんです。この世の全ての事象はマトハル様のお導きによって動いています」
何を言っても無駄かぁ。
後藤が肩をすくめる。
「で、ヒトガタはどこに格納されてるんだぁ?」
「すぐ隣です」
スーツ男の先導で、後藤もブラックドワーフの歩を進める。
まわり中で吹き上がる炎に、大気がこげる。
だが、強化されたらしいブラックドワーフのエアコンは、後藤の予想通り素晴らしい働きを見せていた。外部装甲板は炎に熱せられているはずなのに、コクピットはいたって快適なのだ。
「やっぱり一機、分けてほしいぜ」
その時、先行していたスーツ男のヒトガタが足を止めた。
「ん? どうした?」
後藤の問いに、スーツ男は前方を指差す。
「あ〜あ、イヤな予感てヤツは、たいてい当たるんだよなぁ」
炎に包まれた格納庫の壁を突き破って、今まさに二機のヒトガタが出現したのである。
「暴走していますね。しかも二機とも」
「そうみてぇだなぁ。どうする?」
「ヒトガタ二機に、こちらはヒトガタ一機とブラックドワーフです。少し分が悪いかもしれませんね」
「ちげぇねえ」
「逃げましょうか?」
スーツ男の問いに、後藤はちょっと逡巡する。
「でも、それじゃあ面白くねぇよなぁ」
「そうですね」
スーツ男がフフッと笑った。
「そっちのマシン、警察無線使えるんだろ?」
「ええ」
「じゃあ、お嬢ちゃんたちに、こっちに来てくれるように言ってくれねぇか? お嬢ちゃんの刀はよぉ、装甲の厚いヒトガタでも真っ二つなんだぜぇ」
「ほう」
「お嬢ちゃんたちが来るまで、俺たちで持ちこたえて見せようじゃねぇか」
「賛成です」
ひょうひょうとした野生児と、全くあせりを見せない落ち着いたやさ男。不思議な二人が、暴走ヒトガタ二機に向かって身構えた。
「奈々ちゃん奈々ちゃん、何か聞こえるよ?」
ひかりの指摘に、皆耳をすます。
ドーン、ドドーン……。
確かに、上の方から何かの音が小さく響いてくる。
「上の方でなんかやってるんかなあ?」
「なんかって何?」
「それは知らんがな」
奈々の問いに両津はそう答えた。
「せっかくだ、音の正体を見に行こうじゃないか!」
「何がせっかくなのよ?!」
正雄の言葉に奈々が突っ込む。
そんなやりとりをしている間に、いつの間にかひかりの火星大王が奥側の壁に向かっていた。壁には、いかにもな形でエレベーターのポタンが並んでいる。
うーんとちょっと考えたようなひかりだったが、すぐさまピコピコとボタンを押し始めた。
「ひかり!何やってるのよ?!」
「これ押せば、別の階に移動すると思って」
ひかりがそう言い終わらないうちに、ガクンと揺れると、彼らを乗せた貨物用エレベーターが上昇を始める。
「動いた!」
「何階に行くのです?」
「あの音がどのくらい上から聞こえるのか、分かるんですかぁ?」
奈央と愛理が素直な疑問を口にした。
「うーん……わかんな〜い!」
ひかりがニッコリと笑う。
「でもね、エレベーターさんに、あの音がする所まで連れて行って、てお願いしてみたの」
「ひかり、グッジョブ」
マリエが賛同する。
その時、エレベーターがガクンと音を立てて止まった。
ドアがゆっくりと両側に開いていく。
「あの先から聞こえるみたいやな」
開いたドアの向こうには薄暗い廊下、その先にはひとつの扉が見える。
どちらも、ロボットのまま通れるほどの大きさだった。
「これ、ロボット用の通路に見えるぜ」
「あれ? 扉の所に、誰かいない?」
奈々の声に皆、モニター画面をズームする。
「うわ〜、生徒さんがいっぱい!」
「あんたも生徒さんでしょ!」
突然開いたエレベーターのドアに驚いたものの、生徒たちはそこにA級ライセンスコースのロボット数台を認める。そしてこちらへ走り出した。
「みんなこっちに来るよ」
「何があったのでしょうか?」
「みんな血相変えてるで」
「あっそう」
「血相!」
ひかり&奈々である。
エレベーター内に走り込んでくる約40名もの生徒たち。
奈々が、デビルスマイルの外部スピーカーをオンにする。
「みんなどうしたの?!何が起こってるの?!」
口々に何かを叫ぶ生徒たち。
その中から、両津はかろうじてその真実を聞き取った。
「おい、あの向こうで誰かが暴走ロボットと戦ってるらしいで!」
「暴走ロボットを止めるのは市民の義務だぜ、ベイビー!」
「今はあんたの言うこと、正しいかもしれないわね」
「そうですわ」
「奈々ちゃん、助けに行こうよ!」
「私も行くですぅ!」
「マリエちゃんは?」
「私も行く」
「よし、全員でかかれば鬼に金棒や!」
「鬼にカネボウ?」
「鬼が化粧するんかーい!」
そんな奈々の突っ込みを合図に、ひかりたち7台のロボットは扉へ向けて走り出した。




