第161話 生徒たち
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
センドラルの直撃を受けたにしては、都営第6ロボット教習所の被害はあまり大きなものではなかった。
確かに、教習コースのS字クランクは木っ端微塵に破壊され、結構な火の手が上がった。アスファルトの溶けるニオイがコゲるものに変わり、敷地内に広がっていく。だが、ここの自動消火システムはとんでもなく優秀なのだ。
コース上にくまなく設置されている消火用アームが伸び、消火液を噴出する。その上消火用ロボットが、消防団よろしく火災現場を取り囲むと、一斉に消火剤をぶちまけた。おかげであっという間の鎮火である。
「まだ少しくすぶっていますが、ほぼ鎮火できたようです」
久慈教官の言葉に、指揮所内に安堵の空気が広がった。
雄物川所長はもちろん、ここにいる所員全員の顔から、緊張の色が薄れていく。
「地下の様子はどうかね?」
雄物川の問いに、久慈は監視カメラからの映像に目をやる。
「遠野さんたち格納庫組に被害は無いようです」
そして、コンソールをいくつか操作して別カメラの映像を表示する。
「他の生徒たちも……大丈夫です」
「うむ、とりあえずひと安心だな」
雄物川が、安堵の息をつく。
「後は袴田素粒子だが……」
久慈と雄物川が見つめるディスプレイには、袴田素粒子センサーの表示がオーバーレイされている。だが、そこに異常は認められなかった。
「火災の高熱が収まるまで、なかなか正常な値を検知できないのですが……」
そう言いながら久慈も、そして雄物川も、あまり心配はしていなかった。
この教習所で使われているロボットには、対袴田素粒子防御シールドが装備されている。あまりにもバッテリーを喰うため、普段の教習では作動させてはいないが、今回のような非常時には使用することになっている。しかもここのロボットの全てにおいて、指揮所からの遠隔操作での起動が可能なのだ。もちろん、この場所が敵の標的であると判明した時点で、そのスイッチは全てオンにされていた。
「この埋立地内のロボットは全て、シールド起動中です」
「さっきの消火用ロボットなどにもシールドが?」
久慈は、そう問いかけた愛菜に視線を向ける。
「ええ。消火用ロボットを始め、調理用、船着き場の桟橋用など、ロホットに定義できるもの全てに装備されています」
「すごい予算ですね」
愛菜は目を丸くした。
「ここは袴田素粒子に対抗する最前線だ。ここでの実験やテストの全てが、今後の防衛体制を考える資料となる。そのための予算ということだ」
そう言った雄物川に、愛菜はうなづいた。
「なるほど。たのもしいです」
「伊南村博士の心配も分りますが、ここには以前の暴走のように、工事用重機やシールド未装備のヒトガタがあるわけではありません。心配には及ばないかと」
久慈の言葉に、雄物川と愛菜も少し笑顔を見せた。
「なにビクついてるのよ」
「ビクついてなんかいないよ」
野沢心音の指摘に、館山大和が反論した。
二人共、この教習所の生徒だ。ひかりたちA級ライセンスコースではなく、普通ロボット免許コースで学んでいる。二人は高校の同級生で同じクラス。担任教師から、無料で免許合宿が受けられるとの話を聞き、迷うこと無く応募した。そして厳しくも楽しい教習の日々を送っていたのである。
ところが今日、とんでもない事態に巻き込まれてしまった。
この教習所に宇宙ステーションが落下してくると、学食のテレビで報道を見たのだ。その直後、所内に久慈教官の声で放送が響き渡った。
「所員の誘導に従って、ただちに地下へ避難してください。これは訓練ではありません。繰り返します、これは訓練ではありません」
そして今である。
二人は他の生徒たちおよそ40名と共に、地上から数階下と思われる地下施設に避難していた。こんな場所があることを、ここの生徒たち全員が知らない上に、その後に響き渡る轟音と衝撃。宇宙ステーションの落下だとは分かっていても、そんなに冷静でいられるはずもない。大和は強がりながらも、正直心音が言う通り、少しビクついていた。
「A級ライセンスの人たち、いないみたいね」
心音の言葉に、大和はまわりを見渡す。
「ホントだ。A級だけ、別の場所に避難したのかな?」
「差別よ。きっとA級だから待遇が違うんだわ」
その言葉に、大和は首を左右に振った。
「それは無いよ。ボクら全員、奨学金でタダで学んでるんだ。払ってる学費が同じ
どころか、払ってさえいないのに差別なんかしないさ」
大和の言葉に、心音もふむとうなづく。
「確かにそうね」
「心音はいつも早とちりが多いんだからなぁ」
「それ、否定はしないけどね」
大和の言葉に、心音が頭をポリポリとかく。
ツンデレである。
「ん? 今なにか聞こえなかった?」
大和が辺りを見回す。
ここにいるのは生徒たちだけだ。まるで格納庫のように見えるこの場所に、彼らのロボットはない。とりあえずカラダひとつで避難してきたのだ。
「何よ。仕返しに怖がらせるつもり?」
「いや、そんなつもりは……」
大和の視線の先で、何かが動くのが見えた。
あれは……レスキューロボット?
それは、ヒトガタの貸与でしばらく活躍の場が無くなったため、メンテナンス中の二台のレスキューロボだった。
「ねえ、あれ動いてない?」
「もう、おどかさないでよ!」
だが、生徒たちが見つめる先で、レスキューロボはギリギリと音をたてはじめる。
そしてその頭部が、ゆっくりと彼らの方を向いた。




