第159話 緊急避難
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「ここ、いったい何に使う場所なんやろ?」
ひかりたちは、最初にエレベーターで降下した地下格納庫へと戻っていた。
ガランとした広い空間に、7台のロボットがたたずんでいる。
あらためて周囲を眺めてみると、不思議な感覚に襲われる。ついさっきまで、彼らはこの地下施設の存在を知らなかった。毎日教習を繰り返しているコースの地下に、ここまで巨大な設備が作られていたとは、本当に驚きである。
「全く分からないわね」
奈々の言葉に、一同がうんうんとうなづく。
「ロボット免許の教習と、あまり関係があるようには見えませんわ」
「私もそう思うですぅ」
奈央と愛理が首をかしげた。
「巨大エレベーターにこの格納庫、長い廊下の先には巨大な影……こりゃもう、教習所の七不思議どころやないで」
両津のそんなつぶやきに、ひかりの顔がパッと明るくなる。
「教習所の……11不思議だ!」
「いや、頼むと開けてくれる電子ロックとか、他にも不思議だらけやん」
「12不思議!」
「それに、なんて言ったかな? ダイナギガ? あれも不思議だぜ、ベイビー」
「13不思議!13不思議の金曜日、けっして一人では見ないでください……ぎゃーっ!」
「ジェイソンとサスペリアがまざっていますわ」
「はい?」
奈央の突っ込みが理解できていないひかりである。
「でも、」
マリエの声が小さく、一同の無線に届いた。
「ダイナギガは不思議じゃないよ。ね、ひかり」
「うん、ちゃんと聞こえたもん」
うーむ、と皆一様に考え込む。
「やっぱり、その、ダイナなんちゃらが一番の謎やと思うで、ホンマ」
「ひかりが言ってるのはダイナギガよ!」
奈々の突っ込みに、なぜかひかりが乗ってきた。
「ダイナマイト!」
「いやいや、ダイナギガって、ひかりが言ったんでしょ!」
「ど〜ん!」
「爆発させないでよ!」
「ダイナマイト、どんど〜ん!」
「今日の遠野さんは、映画ネタが多いですわね」
「映画ですかぁ?」
「ええ『ダイナマイトどんどん』は、1978年に大映が製作、東映が配給した日本映画ですわ。ヤクザの抗争を草野球で解決する、実に痛快な任侠映画です。なお、主演は菅原文太さんですわ」
奈央の突っ込みを無視して、ひかりはまだまだ暴走する。
「大納言!」
「それはあんこ!」
「ダイナブック!」
「それはパソコン!」
「大難問!」
「それはこの謎のことよ!」
「だいなーし!」
「台無しよっ!」
奈々が肩をはずませている。
「はぁ、はぁ、はぁ」
その時、両津の緊迫感のある声が皆のコクピットに響いた。
「なあ、そろそろとちゃうか?」
「お嬢ちゃんよぉ、そりゃあどういうことだ?」
黒き殉教者のアジト格納庫に、敵味方含め10機のロボットが集合していた。中には、さきほどからの戦闘で破壊され、ボロボロになった機体もいくつか含まれてはいるが。
今まさに、ピンポイントでここめがけて宇宙ステーションが落下してくるのだ。一時休戦やむなし。ということで、とりあえずの避難である。
「もしその機体に対袴田素粒子防御シールドがついているなら、今すぐに起動して欲しいの」
切羽詰まったような夕梨花の声に、後藤はいつものひょうひょうとした声で答えた。
「シリンダーは今のところ俺の手にあるんだぜ。そんなに怖がらなくてもいいんじゃねぇのか?」
後藤のブラックドワーフの右マニピュレータは、しっかりと銀色のシリンダーを握っている。田村のアイアンゴーレムから引きちぎったブツだ。
夕梨花は逡巡する。
テロリストたちがいるここで、センドラルにまつわる情報を話してもいいものか。敵は警察無線をハッキングしているのだ。
いや、今はそれより暴走ロボットを出さないことが重要だ。
そう思い直した夕梨花は、決心したように言い放つ。
「あの宇宙ステーションは、袴田素粒子に感染しているの」
後藤とスーツ男の目が見開かれた。
「じゃあ、奥多摩一帯に避難命令ってのは……」
「そう。自家用ロボットを遠ざけて、大規模感染を防ぐためよ」
マジかよ……。
そんな表情の後藤が、あることに気付きスーツ男に声をかけた。
「おい、神主さんよぉ」
「なんでしょうか?」
「おめぇのヒトガタにシールド付いてるのかぁ?」
後藤の問いに、スーツ男は不敵な笑いを返す。
「もちろんですよ。奉仕のために使う機体です。そのあたりは万全を期しています」
「奉仕?」
夕梨花がいぶかしげな声をあげる。
「ああ、こいつらテロのことをそう呼んでるんだ」
夕梨花の顔が、うさんくさいものを見るように歪んだ。
「じゃあ神主さんよぉ、あんたもシールドを起動しておいてもらおうか」
「了解です」
スーツ男はコンソールに後付けされた物理スイッチのひとつをオンにした。
メインディスプレイの右下に「シールド起動中」の赤文字が表示される。
「起動完了」
その時、指揮車の田中美紀技術主任からの声が皆のコクピットに届いた。
「そろそろです。皆さん、ショックに備えてください!」
その瞬間、後藤とスーツ男が同時に何かに気づいたように顔を上げた。
「おい、神主!ヒトガタ、あと二機あったよな?!」
「まずいですね。あれのシールドは起動していません」
二人の顔が、あせりで赤く染まる。
そして、センドラルが落下してきた。




